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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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はぐれスターズ

夜が明けると、ピップとラムダはモルゴンに乗って出発した。

目指すはウィークシティがあると目星をつけた地点である。

モルゴンは長距離飛行に適したスターズではないため、ラムダに押してもらっていた昨日に比べると、飛行速度は低速である。それでも正午には目標地点に到着するだろうとピップは予想していた。


こうして、出発をしてから半日が過ぎた。

しかし、ピップは焦っていた。

ウィークシティの候補と推測した地点をいくつか巡ったものの、シティの影も形も見つからなかったためである。通りすがりに人に会うことも期待していたが、集落も家も人影もなかった。


(こうしている間に、ギャランの追っ手がかかったら?)

(このままずっと人もシティも見当たらないまま、モルゴンのスターバッテリーの残量がなくなったら? 食料の備蓄がなくなったら?)


不安ばかりが頭に浮かぶので、ピップは自分の顔を叩いて喝を入れると、右隣にいるラムダを見た。ラムダはまるで人間の子どものように眠っている。


<別れの日>からの二年間あまりの時間、ピップは孤独な旅を続けた。

良いシティや人に巡り会えたこともあったが、たいていは酷い目にばかりあった。暴力にあい、脅迫にあい、騙されたことも数知れない。


そんなピップが、ラムダと出会った。


ラムダは自律式スターズ、つまりは機械、AIであるため、本当はどういう目的を持っているのか確認することはできない。

ピップに協力するようアダムから命令を受けたというのも虚偽かもしれないのだ。

機械は嘘をつくことをためらわない。


(でも、たぶん、それはない気がする)

というのはピップの直感であった。


ピップはラムダの中に祖父アダムの体温を感じた。このラムダという自律式スターズには、間違いなくアダムが深く関わっているという感覚があった。ラムダの真意はわからなくとも、ピップにとって、ラムダがアダムにつながる唯一の手がかりであることは間違いないのだ。


(待っていてくれよ、じいちゃん。こいつと一緒に、絶対にじいちゃんを探し出すからな)

そんなことを考えていたときである。


「ピップ」

「わあ!」

ずっと眠っていたラムダが突然話しかけてきたため、ピップは驚いてしまった。

「ど、どうした、ラムダ」

ラムダは前方に手を伸ばした。

「二百度の方角から、複数のスターエネルギー反応を検知しました。スターズが三機、いえ、五機に増えました。ぼくたちがこのまま進行した場合、接触する可能性があります」

「えっ」

「ピップ、対象のスターズたちが速度を上げました。こちらに向かってきます」

モルゴンのレーダーにもスターエネルギー反応が映り始めた。

ピップは考えた。

(周辺シティや施設の警備かもしれないし、野盗の類いかもしれない。相手が戦闘を仕掛けてくるようなら、応戦の可能性も考えなくてはならない。だが、まだ情報が少なすぎる)

「ラムダ、頼みがある。上空からどんな連中か確認できないか?」

「承知しました」

ピップはモルゴンの横ハッチをすこしだけ開けてやった。

ラムダはハッチから機外に出て、ふわりと上昇した。その動きは、機械特有のガチャガチャとしたものではなく、器械体操の選手が競技に取り組む時のような自然さがあった。

(なんてなめらかな動きだろう)

ピップは思わず感嘆した。

空間の把握。自重のコントロール。運動。判断の早さと的確さ。

どれだけの研究と技術があれば、ここまでの運動性能を自律式スターズにもたらすことができるのか。

だが感心している場合ではない。モルゴンのレーダーにも相手がどんどん近づいてくるのがわかる。間違いなく、相手はもうすでにこちらに気がついている。

ピップはモルゴンの機装を確認した。

左腕に装填されたビームガトリングガン。右腕に装着してあるビームガン。そして本体上部の主砲。心もとない装備ではあるが、もし戦闘となればこれらで立ち向かうしかない。

ピップとしては、今、ラムダには無駄なエネルギーを使わせたくない。

そして、何よりも、ラムダを人間が乗ったスターズと戦わせることは絶対に避けなければならない。

(ラムダが人を傷つけたり、死なせるようなことがあってはならない。もし、どうしても戦闘になるなら、俺が戦う)

ピップはそう心に決めていた。


「ピップ」ラムダからモルゴンへ通信が入った。

「どうした?」

「相手がさらに増えました。確認できている限りで、合計八機です」

「なんだって!」

「そして相手の正体が判明しました。モルゴンに画像を送ります」

ピップはラムダから受信した画像をモルゴンのモニターに表示した。そこに写っていたのは、蜂のような姿をした小型のスターズだった。

「これは……」

「通称<リルビー>。自律式スターズです。ほかのスターズや人間の姿は確認できません。ここからは推測ですが、このスターズたちは」

「もしかして、はぐれスターズか?」

「はい。可能性は高いです」


「はぐれスターズ」とは何か。

大戦末期、戦争には大量の自律式スターズが投入されるようになっていた。だが<白い穴>により、司令部を失った自律式スターズの一部は、最後に受けた命令を実行するために、行くあてもなくさまよっている場合がある。

こういった自律式スターズは「はぐれスターズ」と呼ばれる。

最後に受けた命令が「敵スターズの殲滅」などであると、未識別のスターズが近づいただけで攻撃を仕掛けてくる場合もあり、非常に危険なため、旅をしているときには遭遇しないように注意する必要がある。


だが、今のピップたちにとっては、はぐれスターズとの遭遇はむしろ朗報であった。

「ラムダ、そうとなれば、目的は決まった。<リルビー>は戦闘能力が高いスターズじゃない。それに、はぐれスターズであるなら遠慮する必要もない。こいつらを無力化して、スターバッテリーをいただいちまおう」

「承知しました、ピップ」

相手が自律式スターズであるなら、ラムダを戦わせることに問題はない。

顔は見えないが、ラムダはきっとまたにっこりと笑っているのだろうと、ピップは思った。

ピップは手袋をはめると、操縦桿を握った。

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