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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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リルビー

リルビー。

大きさは全長一メートル程度。蜂のような形をした小型の自律式スターズ。空中を浮遊して移動する。大戦時、ドルグ帝国によって大量生産され、おもに偵察や哨戒などに利用された。戦闘能力は決して高くない。標準的な機装はエネルギーガン程度のはずだ。


ピップはリルビーの基本情報を頭の中で反芻した。

ピップは世界各国のスターズの情報を集めるのが趣味だった。この程度のデータは何も見ないでもパッと頭に浮かぶ。

「ラムダ、リルビーは腹部にスターバッテリーがある。ここを傷つけないように無力化してスターバッテリーをもらおう。ただ、危険な場合は気にせず破壊すること」

「承知しました、ピップ」

そういうとラムダはモルゴンの外に飛び出た。

ピップはモルゴンは牽制役となり、小回りのきくラムダにリルビーのスターバッテリーの確保を任せようと考えた。


リルビーたちは視認できるほどに近づいてきている。モルゴンは左腕をリルビーの群れに向け、ガトリングのビーム弾を走らせた。

リルビーたちは左右に旋回して細かなビーム弾をかわす。だが、旋回したリルビーの背部にはラムダが素早く回り込んでいる。


ガシャッ!


発光とともに大きな衝突音が周囲に響いた。

ラムダの蹴りが、リルビーの翼とボディを破壊した。


ボディを破壊されてバランスを崩したリルビーは力なく地面に落下する。

ほかのリルビーたちはラムダに向けてビームガンを発射するが、ラムダは難なくそれをかわしてみせる。素早く小回りのきく動きが特徴のリルビーだが、ラムダの運動性はそれを遥かに上回るようだった。


それを見て、ピップはラムダの戦闘手段を把握した。

ラムダは肉弾戦が中心なのだ。

(あんな子どものように小さなボディで、壊れてしまわないのだろうか?)

とも思うが、ラムダは素手で打撃を加えているわけではなく、スターエネルギーを手や足に集中させて、衝突の寸前に相手にぶつけているようだった。ラムダの攻撃の瞬間に発生する発光はそのせいだろう。ラムダ自身のボディにはほとんど負荷はかかっていない。

(それにしてもなんと高性能なスターズなのだろう)

ラムダは跳躍し、飛翔し、リルビーの攻撃を避けながら、群れを引き付けている。

ピップも見惚れてばかりいるわけにはいかない。

ピップは使用する機装をビームガンに切り替えて、リルビーに向けて数発発射した。

その一発がリルビーの中心を貫き、スターバッテリーごとリルビーははじけとんでしまった。

(あ、破壊してしまった)

ラムダのようにスターバッテリーを避けて器用に攻撃することは、ピップの技量とモルゴンの性能では難しそうだった。

(ギャランさんなら、やれるのかもな)

ピップは自分のパイロットとしての技量の低さを改めて感じた。

リルビーたちはモルゴンが攻撃してきたことでターゲットをモルゴンに切り替えようとしたが、その隙をついてラムダがさらに二機のリルビーを攻撃し、無力化させた。

それを見ると、残りのリルビーたちは逃走し始めた。勝ち目の低い戦闘の場合は逃げるようにプログラムされているのだろう。

「ラムダ、もういいよ。ここまでにしよう」

ピップは追う構えを見せていたラムダに声をかけた。

ピップとラムダは合計四機のリルビーをあっという間に無力化してしまった。


ピップはリルビーの群れがレーダーの外まで消えてゆくのを見届けると、解体用の工具を手にしてモルゴンを降りた。


ピップは一番損傷の少ないリルビーの前にしゃがみ込んだ。

まずはリルビーが急作動しないように、電気レーザーで電源系をすべて切断する。そして複数の工具を使い分けながら、手際よくリルビーを解体し、腹部からスターバッテリーを抜き取った。

「へえ、リルビーってこういう構造なんだ」

ピップは目を輝かせた。

スターズに触る時、ピップはいつも楽しくなって時が経つのを忘れてしまう。

ピップはせっかくなので、損傷が少ないリルビーを一機だけ持って行くことにした。破損していたパーツは他のリルビーから調達し、モルゴンの中に収容した。


今回の戦闘で回収できたリルビーのスターバッテリーは三個だった。

ピップは専門の器具を使って、そのスターバッテリーのエネルギー残量を計測した。

「うーん、ちょっと少ないな。やっぱり逃げた連中もつかまえておけばよかったかな」ピップは頭をかいた。

「追いかけますか?」

「でもけっこう距離が離れちゃったしなあ」

そのとき、遠くから爆発音が聞こえた。

先ほどのリルビーが逃げた方角である。

ラムダが爆発音のした方向を見ながらいった。

「ピップ、新しいスターエネルギー反応を検知。先ほどのリルビーとは別のものです。こちらへ向かってきます」

モルゴンのレーダーにも、スターエネルギー反応が三つ、レーダーに映る。

それらは、かなりのスピードでピップたちの方に近づいてきていた。明らかにピップたちに気がついている。

この動き方からすると、おそらくこれは有人のスターズだ。

相手の目的はわからないが、有人機であるなら、できれば戦闘は避けたい。

(まさがギャランの追手か?)

ともピップは一瞬考えたが、ギャランシティからの距離を考えると、その可能性は低そうだった。

「ラムダ、モルゴンに乗るんだ」

ピップはラムダを座席に座らせると、何かをボソボソと伝えた。

ラムダはにっこりとうなずいた。


ピップは一人、モルゴンの外に出た。

そして三機のスターズが向かって来る方向に立つと、白と青と緑のハンカチを高く掲げた。

これは、敵意がないことを示すサインである。

三機のスターズは停止し、遠巻きに様子を見ているのがピップの肉眼でも確認できる。問答無用で攻撃を仕掛けてくる相手ではなかったことに、ピップはひとまずホッとした。


しばらくすると、三機のうちの一機がゆっくりとピップとモルゴンに接近してきた。

残り二機は、前に出てきた一機から離れ、左右に後方に展開した。

前進してきたスターズはピップから三十メートルほどの距離まで接近し、止まった。


それはピップも見たこともないスターズだった。

しかし、明らかに戦闘用の高性能なスターズであることは見てとれた。

「手を上げろ。所属しているシティと部隊、あと、名前を名乗れ」

先頭のスターズの外部スピーカーから声が響いた。有無を言わさない口調だった。

(いうことを聞いても大丈夫だろうか?)

ピップは不安になったが、相手の正体がわからない以上、まずは下手に出た方が良いと判断した。

ピップは手を上げながら声を張り上げた。

「名前はピップ。所属しているシティはなし。家族と一緒に旅をしている一般人だ!」

少し間があって、そのスターズから一人のパイロットが降りてきた。

紫色のパイロットスーツに身をつつみ、独特なヘルメットをかぶっている。明らかに軍人だった。

パイロットはピップから十五メートルほどの位置まで近づくと立ち止まり、ヘルメットを脱いだ。

その人物はピップより少し年上の青年のようだった。青年は髪をかきあげながら名乗った。

「俺の名前はクロウ。デイジェノのクロウだ」

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