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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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夜間飛行

ピップとラムダがギャランシティを飛び出してから三時間ほどが経過した。

モルゴンはラムダに後ろから押された状態のまま、高速飛行を続けている。その速度はギャランシティのどのスターズよりも速い。

(ここまでくれば、ギャラン=ドゥの支配地域からも抜け出しているだろう。もう、心配はない)

ピップの想像していた通り、ギャランシティからの追っ手がピップたちに追いつくことはなかった。

ピップは外でモルゴンを押し続けているラムダへ通信を送った。

「ラムダ、もう大丈夫だと思う。モルゴンの中に入らないか?」

「ピップ、承知しました」

ラムダはモルゴンを押すのをやめ、ピップはラムダが入りやすいようにモルゴンを減速し、空中に浮遊した状態でハッチを開けた。

「ようこそ。入って」

「はい。おじゃまします」

ラムダはふわりとモルゴンの中に入った。


ピップはあらためてラムダを間近で眺めた。

外見はただの子どもだ。

しかし、実際は凄まじい性能を備えた自律式スターズなのである。

(俺はこれからこいつと一緒にじいちゃんを探すんだ)

ピップは興奮と動揺、そして若干の恐怖が入り混じった複雑な高揚を感じて、身震いした。

「ピップ。ところで、スターバッテリーはどれくらいお持ちですか?」

「急だったからモルゴンに装着しているものと、予備の一個だけだな。ラムダは?」

「ぼくが所持しているスターバッテリーは、現在ぼくに充填された分だけです。先ほどまでの飛行を続けた場合は、あと三時間二十五分でエネルギー切れとなる見込みでした」

「えっ」

ピップは仰天した。

だが、考えてみれば当たり前のことであった。

ラムダの小さなボディに格納できるであろうスターバッテリーは、あまり大きいものではないだろう。

それにもかかわらず、ラムダは先ほどギャランシティで激しい戦闘を行い、そして今もモルゴンを押しながらの空中飛行を数時間続けている。むしろ、現時点でエネルギー切れを起こしていないことの方が、驚くべきことであった。

ピップは自分のうかつさを呪った。

幸いなのは、日中モルゴンの整備をした時に、スターバッテリーを新品にし、備品を補充しておいたことだった。モルゴンの方には、まだ数日分のエネルギーと食料があることになる。

「ラムダ、今まではスターバッテリーをどう調達してたんだ?」

「はい。スターエネルギーを検知して、行く先々で廃棄されているスターズなどから調達していました。また、日中であれば、ぼくは太陽光発電もできるので、少量ですがそこで電力を蓄えています」

「うーん、そうだったか」

ピップは悩んだ。

ギャランシティの方角に戻れば、小さいシティがいくつかあることは知っている。だが、そのどれもがギャラン=ドゥの息のかかったシティばかりである。

そのようなシティに向かえばスターバッテリーは入手できるかもしれないが、すでにピップが逃亡した連絡を受けている可能性もあるため、今から戻るのはリスクが大きすぎた。

ピップは見晴らしのいい岩場に一度着陸し、今後どうするかをラムダと相談することにした。

「ラムダ、俺たちの共通の目的はアダムじいちゃんを探すこと。そうだな?」

「はい」とラムダはうなずく。

「ただ、目先の問題は、スターバッテリーの残量がかなり少ないこと。あと、食料の備蓄も数日分しかない。まずはこの二つを解決したい」

「はい」

「優先したいのはスターバッテリーの調達だな。これがなくなると、モルゴンもラムダも動けなくなってしまう。だからまずはどこか近くのシティを目指そう。当然、ギャランシティと繋がりのないシティじゃないと困るわけだが」

ピップはそういいながら、二年前までの世界地図を広げた。

「俺たちはギャランシティから南南西に向かって飛んできた。それを考えると、現在地はだいたいこの辺かな?」

ピップが大まかに地図上をこぶしほどの大きさの円で示した。それをみたラムダは、ピップが示した円の中の一点を指差した。

「ここまでの飛行の方角と速度から計算される現在地はこの地点です」

「そんなこともわかるの? おまえは本当にすごいなあ。じゃあ、現在地から近いシティの位置はわかるか」

そう言われてラムダが示したのは、現在地から遥か遠い地点だった。

「ぼくがギャランシティに辿り着く前に寄ったのはこのシティです」

「いや、そこは遠すぎるな。実は、俺もギャランシティに着く前、そのシティにいたことがあるんだ。そうなるとほかの候補は……」

ピップとラムダはしばらく相談を続けたが、一つの残念な結論に至った。


現在地の周辺と言える距離に、二人が位置を把握しているシティは存在しない。


そうなると、移動しながら新しいシティを探すしかない。

だが、現在のモルゴンのスターエネルギーの残量を考えると、やみくもに探し回るのはリスクが大きすぎる。移動する以上、シティが存在するであろう根拠が必要だった。

「あ、そういえば」

ふと、ピップは一つだけ心当たりがあることを思い出した。

それは「ウィークシティ」である。


ウィークシティ。

つい先日、ギャラン軍の一員としてピップが戦闘をしたロバート市長たちのシティだ。

そこまで規模の大きいシティではないと思われるが、スターバッテリーと食料ぐらいは調達できるだろう。

だが、ピップはウィークシティの正確な場所を知らない。

わかっているのは、ギャラン=ドゥがウィークシティを「南西にある弱小シティ」と表現していたことだけである。

ピップは地図上のギャランシティから南西に当たる範囲を確認した。ウィークシティの存在しそうな位置にあたりをつけるためである。


ギャランシテイから少なくとも数百キロは離れている南西の方角。先日戦闘があった採掘地点から遠すぎない距離。水源の位置。かつて大都市があった部分は滅んでいるはずなので、そういった箇所は除外する。

ピップはラムダと相談しながら、これらの条件に当てはまる候補地を数箇所に絞り込んだ。

これら候補地までの距離ならば、現在のモルゴンのエネルギー残量でもなんとか辿り着けそうだとピップは思った。また、移動中、ラムダにはモルゴンの中に入っていてもらうことにした。エネルギーの無駄遣いを避けるためである。

「ラムダ、ここに座ってくれ」

ピップはラムダのために、自分の座席の右側にすこしスペースを空けて、即席の座席を用意した。ラムダはそこに行儀よく腰かけた。

「ピップ、ありがとうございます」

「ごめんな、こんな粗末な席で。シティで必要な機材を手に入れて、もっとちゃんとした席を作るよ」

ピップはモルゴンのレーダー感度を最大近くまで引き上げた。

「もし、ウィークシティに着くまでに人に会えたら、スターバッテリーをもらえないか交渉してみようと思う。ラムダはどのくらいまでスターエネルギーを検知できる?」

「半径二千メートルがアクティブな範囲です。それ以上の場合も、エネルギーの大きさによっては検知可能です」

「レーダー機能もモルゴンより上かあ。まいっちゃうね」

モルゴンのセンサーで感知できるスターエネルギーは、おおよそ半径千mである。それでも、通常のスターズとしては上等な方である。だが、ラムダはその倍の検知力を持つことになる。

「じゃあこうしよう。ラムダはエネルギーを温存するために、スリープ状態になってくれ。ただ、レーダーだけはオンにしておくんだ。もしスターエネルギーを感知したら俺に知らせてほしい。できるか?」

「承知しました、ピップ。もしぼくに用がある場合は、名前を呼んで起こしてください」

「了解だ。でも、今夜は俺も眠るよ。出発は明日の朝にしよう」

「はい、おやすみなさい、ピップ」

そういうとすぐ、ラムダは目を閉じて、静かになった。

即席の椅子に腰かけて目を瞑る姿は、子どもが眠っているようにしか見えない。

(これがラムダのスリープモードなんだな。本当に人間みたいだ)

ピップはしばらくラムダの寝顔をみていたが、いつしか自分も眠りに落ちた。

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