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最強って何がいいんですか?  作者: Ⅾ
正義の在処
24/27

再壊【1】

 「行くわよ」


 リーザ、シンディー、ローザの順に扉の前に立ち、リーザは二人が首を縦に振ったのを確認し扉を剣で斬り捨てる。


 扉が家の中に向かって倒れた先の光景を視界に入れたリーザは言葉を無くした。


 集落の規模から観ても50人住んでいればいい方だった。それなのに百を超えるだろう死体の数。それだけでも不可解なはずなのに、それでもなお家の中には死体の山があった。外にある死体と違うのは体の半分が無い死体ばかりといったところだろう。


 リーザの位置から見える範囲だけでも死体の山。それを呆けた顔で見ていたリーザに悪寒が走る。


 「──!! 退いて!!」


 リーザの声に一斉に後ろへと下がると、さっきまでリーザの居た場所が喰われた。家の壁や玄関口、全てが喰われ奇麗な円が出来上がっていた。


 「リーザ! あれは生きてるのか!?」


 姿を現せたそれにシンディーが声を上げる。


 大きさは目の前の家より一回り位は小さいだろうか?

 頭はトカゲと言えばトカゲ。竜と言われればそう見えなくもない。

 何よりも気色悪いのはその頭から生えている生き物らしき四肢。人間の手足らしき物も生えていれば、血でべっとりと張り付いた毛皮に包まれた手足。数えきるには少しばかり時間が必要だろう。



 三人とも目の回炉の持ち主なのだ。そしてリーザが剣を抜いた時、三人は自分の持ちうる回炉全てを開放している。


 目の回炉は〝魔素〟を映し出すはずにも関わらず、リーザの言葉なしでは生き物がいたのかさえ分からなかったのだから。


 「私にも見えていないわ! 嫌な感じがしただけなのよ!」

 「最近は化物ばっかりだな!!」


 シンディーの茶化したような発言に三人とも同じ人物を思い浮かべたのは言うまでもない。


 「シンディー! いけるわね!?」

 「あぁやるだけやってみるさ! ──ローザ! 集落から出ろ!! この先は言わなくても分かるな!?」


 ローザは前の二人にバレぬように歯噛みしながらも頷き、集落の外へと向かい走り出した。


 ローザももしろん此処に連れてこられた理由は予想できていた。ただ、それを認められるほど強い人間なのかと言われれば首を横に振るだろう。


 姉に憧れ強さを求めたローザ。

 それが立場ではなく血の繋がりなのだと気付くのにそれほどの時間はいらなかった。自分の命よりも大事な姉が目の前の出来事に立ち向かう中、ローザに出来るのは二人の生存を確認し、見届け、報告しに戻る事だけ。


 そんなの納得できるわけがない。


 それでも納得しない訳にはいかない。


 自分の力の無さは自分が一番知っているのだから。





 「勇敢な追跡者フォルティストラケラー!」


 リーザが魔物らしき者の噛みつきや無数の手足から繰り出される単純な攻撃を防ぐ中、後方に位置どったシンディーが魔法を開放する。


 リーザを避ける様に放たれた九つの水は放物線を描きながら魔物に向かう。──が、確実に捉えたはずの魔法は魔物に当たると同時に只の水へと姿を変えていく。


 「──シンディー! こいつメモリアストーンと同じよ!」


 リーザが攻撃を躱しながら叫ぶ。

 その声にリーザを注視してみれば、魔物の手や頭がリーザの近くを掠める度に水色に輝いている魔素が霧散する様に消え、間合いが開けばまた光るといった状態だった。

 なぜ魔物が鉱石と同じ性質を持っているのか、その場にいる全員が理解できることではなかった。


 理解できたのはあまりにも致命的であること。


 「リーザ! 合図で離れろ!」

 「分かったわ!」


 時間と共にリーザの体に増えていく傷。シンディーはすぐに決断をした。


 「オンディーヌ! 力を貸せ!」

 「う~ん…別にいいんだけどぉ~……。これぇ~私達だと相性悪すぎるわよぉ~?」


 頼みの綱である四大精霊は魔素の塊。

 通常のメモリアストーンであれば魔素を与え続ければいつかは魔石へと姿を変える。でも、それと同じ現象が魔物相手に起きるのかは分からない。

 魔法が通じないとなると一番に足手まといになってしまう自分が試すのがいいだろう。ただ保険はかけておかなくてはいけない。


 「ローザ! すぐに街へ引き返せ! 住民の避難とローグを呼んで来い!」


 ローザに振り返ることなく告げた。少なくても最悪の場合でも死者数は抑えられるだろう。そう思った。

 彼で抑えられないのだとすれば人の出番は終わりだ。

 といっても、四大精霊であるオンディーヌがはっきりとしない以上、彼がダメだった時点で世界の終わりなのではないだろうか? そんな考えがふとよぎるが、すぐに頭から排除する。そんな事はなってから考えるべき問題であるはずだと。


 切り替えた後、すぐに体に意識を向け、全身でオンディーヌを感じとる。


 「リーザ!」


 シンディーの掛け声と同時にリーザがシンディーの横まで一目散に下がり、それを確認したシンディーは魔物だけを見据える。

 

 「オンディーヌ!! 静寂なる霧(ロストアブソーブ)!!」


 シンディーが魔法を発動させると辺りに変化はないものの、小さく「グゥ……」と唸り魔物の動きが極端に鈍くなった。

 

 一見何も起きていない様に見える魔法ではあるが、それもそのはず。〝静寂なる霧(ロストアブソーブ)〟は対象にした相手から水を奪う魔法。

 どんな理由で相手が魔素を吸収しているのか分からない以上、魔素を使い物理的な魔法は当たれば只の水になってしまい意味がない。

 であれば、いっそのこと魔素を吸収させる代わりに相手の体内から水を抜き取ってしまえばいい。


 「──っく!」


 シンディーが苦し気な声を上げ、膝を地面に落とす。


 回炉だって上限はある。自分の体内に取り込む魔素以上に放出する量が多ければ、体内の魔素量は減る一方。その為にオンディーヌの魔素を借りている訳だが、それでも尚、放出される量が多すぎた。


 「馬鹿みたいに吸いやがって!」

 《しんでぃぃ~。そろそろ私の方も危ないわよぉ~》


 このままではローグの様に魔素欠乏症になりかねない。苦し紛れに顔を上げ魔物を見やるも、相手は苦しそうにしているだけで死ぬ訳でもなく、相も変わらず苦しそうにしているだけだった。


 (──くそ! これじゃあ押し切れない!)


 「シンディー! 魔法を解除して! 私が引き留めるからそれまでに次の作戦を考えておいて頂戴!!」

 「すまん! 少しだけ頼む!」


 付き合いが長いだけではなく、自身の力を把握しているシンディーは引き際を間違える様な事はしなかった。

 自分の力では抑えきれなかった相手。たぶん、リーザでもそこまで長くは持たないだろうと思った。

 だとすればローザが彼を連れてくるまでの時間を稼ぐ以外に二人に出来る事が無いのも理解した。


 「シンディー姉!!」


 声に振り返ったシンディーは怪訝な顔を作った。


 街に戻りローグを探したり現状を伝えてから戻ったにしては早すぎる。それにローグを呼んできたのだとしたら、ローザが先に来ている意味も分からない。


 「どうした? 何かあったのか?」


 「マギアークに戻る途中にアウラにあったです! 私の代わりに呼びに行ってくれたですよ!」


 ローザの報告が本当ならこれ以上嬉しい誤算はない。四大精霊であればローグの居場所など呼吸をするように分かるであろう。


 一つ気になる事があるとすれば、何故ここではなくローザの場所に現れたのか。


 ここにはオンディーヌもいるし、四大精霊の存在理由である魔物までいるというのに。──いや、そもそもなぜこの魔物の存在に四大精霊が気付かないのか。アウラやオンディーヌの話が確かであればこの地には〝火を統べる者 ウェスタ〟もいるはずなのに。


 鎖のようにつながっていく疑問をやはり振り払う。


 今は好機でもあるのだ。ここで勝てる可能性を捨てる訳にはいかないのだから。


 「分かった。ローザ、あいつはお前の手に余る相手だ。私とリーザで時間を稼ぐ」

 「私にも何かできる事は無いです!?」


 ローザとしてはせっかく手が空いたのだ。大好きな姉と良くしてくれる友人の様な人だけを戦わせ、自分だけが傍観しているというのは個人としても納得はしがたいし、騎士団員としても歯がゆかった。


 ローザの声を聞き、シンディーは冷静な時に見ると悲しくなってしまう胸元にしまってあった魔石を取りだす。

 取り出した魔石はさっきの地味な攻防ですっかりと赤褐色へと色を変えていた。


 「魔石は持っているか?」

 「魔石です? えぇ~っと……、あっ、あるです!」


 ローザがポケットを漁りながら拳大の魔石をシンディーへと見せる。


 「よし、それがあるなら多少ごまかしにもなるだろう。リーザが後ろに下がった時にはそれを渡してやれ。それとその時には奴がこちらに近づいてくるはずだ。魔石を渡したらゆっくりでいいから後ろに下がれ」


 「わかったです!」


 今までの信頼の積み重ねから疑問も持たず首を縦に振るローザ。それを見て満足そうに頷くシンディー。


 辛うじて残った魔素で目の回炉を開放し、リーザの状態を留意しておく。

 リーザの回炉から明滅する様に光る魔素を見て限界まで踏ん張ってもらうつもりだ。

 問題はシンディーである。

 さっきの攻防で予想よりも遥かに魔素を吸われ、息苦しさすら感じてるいま、時間を稼ぐ方法なんて限られていた。


 (……また使うか? それとも防ぐ方に回るか?)


 時間を稼ぐ方法でいけば普通は防御に回るのがセオリーではあるが、相手が魔素を吸収するとなると間合いによるメリットなどほとんど無いに等しい。

 魔法が解けた後にすぐ食われるか詰めよられた後に食われるか。


 詰め寄られる恐怖がないだけでも近距離でいきなり食われた方が実は楽だったりしないだろうか、などと考えてしまう。



 そんなシンディーには流石に気付くことなく、リーザは回路を燃やし続けた。

 頭部は大きいから攻撃の軌道など目の回炉を使わなくても今までの経験がそれを教えてくれていた。

 リーザにとって厄介だったのは数えるのが億劫になるほどの無数の手足だった。さっきから体から噴き出る血しぶきは殆どがその無数の手足によるものだった。


 リーザの回路は魔法の様に一気に無くなる訳ではない。それが近接戦の長所の一つでもあるが、それに伴う体の疲労、少しづつ抜け落ちていく血。これは集中を切らすことが出来ない近接戦おいて致命的なハンデにしかならない。更に近づけば魔素をごっそりと抜かれる。


 (……剣聖なんて呼ばれはするけど、回炉がないと何もできないわね)


 自身を嘲笑うように顔を崩し、シンディーを一瞥する。


 (……軽い魔素欠乏症よね)


 目の回炉で見たシンディーには塵ほどの魔素しかなかった。

 もしもあの状態で時間稼ぎをするとなると魔法とかでは無理だ。体内の魔素を劇的に回復するよう物も存在しない世界(ばしょ)での〝魔素欠乏症〟は非常に危険である。


 (──それなら私が行くしかないわよね)




余りにも長くなってしまいそうだったので三話に分けました。

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