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最強って何がいいんですか?  作者: Ⅾ
正義の在処
23/27

再会

 「ありがとうございました~。またのお越しをお待ちしております」


 老夫婦が門構えの前に立ち、ゆっくりと頭を下げた。俺も軽く会釈をしてからシンディーの店へと向かう事にした。


 「私の店は来客用に部屋数だけはあるから滞在中は好きに使ってくれ」


 ウェストール温泉館に向かう途中、シンディーが言ってくれたこの言葉を鵜呑みにする時が来た。


 如何せん疲れた。

 ここ最近でゆっくりできたのは怪我で休んでいた時と魔の国へ向かう船の上だけだ。それも今日の金髪碧眼に襲われたことや、風呂場で女性陣に捕まったことで帳消しだ。


 (混浴を無くしてくれたらまた来よう……)


 そう心に誓いを立てた。



 ウェストール温泉館はマギアークでも西の端にある温泉館だ。そのお陰で景観は良かったのだが、シンディーの店は街の中心にあるから結構歩く。

 いろいろと観光しながら歩けばそれほど気にならない帰り路だが、それすら億劫に感じている俺は何とか気を引くものがないかと辺りを見渡しながら帰路に着くことにした。

 女性陣は久しぶりだったり初めて来たからと寄り道しながら帰るらしく、温泉館を出て少し歩いた先で別れる事にした。


 しばらく歩きやっと住宅街を抜けた頃、それは突然、俺の前を駆け抜けていった。


 建物の裏路地から現れたそれは、俺の前を突っ切ると反対側の路地へと消えていく。

 問題はあの容姿だ。

 全身を包むフード付きのマントを羽織った人。走っているせいでフードから覗いた青い髪。


 「……アイ…ラ?」


 気付けば俺は追いかけていた。

 アイラがあんな速さで走るところなんて見たことは無い。何より殺されたはず。

 それでも走る足は止められなかった。もし見間違いなら謝れば済む事だ。


 踏ん切りがついた所で足と目の回炉を開放し屋根へと飛び移る。

 走っていった方角に走りながらくまなく人の魔素を辿ると、やたらと速く動く魔素の塊が動いていた。


 「──そこか!」


 屋根を壊さない様に気を配りながらも出来るだけ速く走る。相手は路地裏をくねくねと走っているのだから屋根を走る俺に追いつけない訳がない。


 すぐに近くまで来たところで相手の目の前に着地し、腕をつかむ。


 「ごめん」


 腕を捕まえたままフードをめくると、見慣れた顔があった。

 いや、正確には違う。

 最後に見た彼女はこんなに痩せこけて無かったしこんなに無表情でもなかった。それにマントの隙間から見えた傷の数。こんなに体中を切り裂かれた様な傷跡は無かった。まるでちぎれた人形を無理やり縫ってつなげた様な体。どれもがアイラで、どれもがアイラじゃない違和感。


 「……アイラ…なのか?」


 「……」


 瞬き一つせず、そして喋らないアイラらしき人。掴んだ腕を振りほどくでもなく、静かにこちらを見ている。


 「……俺が分かるか?」


 自身が無くなってくる。

 まるで知らない人でも見ているかのような眼差し。

 無関心なのだろうか、変わらない表情。


 掴んだ腕から感じる冷たい感触が拒絶さえ想像させる。


 それでも視線だけは外せなかった。それが久しぶりに見た愛しさからなのか、気付いてくれと願う想いからなのか。はたまた現実だと認められていないのか。

 俺には分からなかった。


 気付いた時には腕を振り払うでもなく、俺の横を駆け抜けていった。


 俺は引き留められなかった。



 どれくらいだろうか?

 辺りはすっかり赤焼けていた。

 しばらくボーっとしていたのだと思う。

 武装大会の時に力を貸してくれたアイラ。あの夢でも現実でもないような中で見えたアイラ。あの時と同じ外見、同じ顔だったのに。

 俺はどうしたかったんだろう……。


 「ローくん!! ちょっと力を貸しておくれよ!!」




 □■□■□




 「次はどこに行こうかしら?」

 「そうだな……」

 「マギアークと言えば温泉と魔装具、それと火山位かしらねぇ?」

 「……」

 「姉様とならどこへでも行くです!」


 ローグと別れた女性人たちはいくつかの土産屋などを眺めた後、どうしたものかと迷っていた。一人違うのもいるが。


 というのも、このメンバーの中でマギアークに一度も来たことが無いのはメアリー只一人。シンディーは母国であるし、レイン姉妹はシンディーと何度も足を運んでいた。アンジェも年に一度の視察などで訪れる事が多々あり、特別にこれと言って見たいものは何もないのだ。


 「──リュール様!!」


 そんな仲間たちの元に蛆虫が走り寄ってきていた。


 「「はぁぁ……」」


 シンディーとリーザのため息が重なると、走ってきた金髪碧眼の男が息を切らせ女性陣の前で立ち止まる。


 「はぁ…はぁ……。リュール様、先程一報が入ったのです。──魔物が西の平原にて出没したと……」


 嘘ではない。ただこの報告は国民の安全を危惧した訳ではない。


 「情報元はどこだ?」

 「旅の行商が集落へと向かう際に見かけたのだそうです。あまりの恐ろしさに急ぎマギアークへと帰還した行商人が騎士団支部へと駆け込み、リュール様が帰国しているのを知った団員が店まで報告しに来たのです。私一人では……とも考えましたが、こればかりは相手が未知数すぎる上に何かあってからでは遅いと考え、リュール様への報告を優先致した次第です」


 シンディーは手をで顎を支え、思考を巡らせた。


 まずこのギルバートという男。確かにシンディーやリーザに付きまといはするが、大事な時には人一倍慎重に行動し、判断を違えない。だからこそ自分に迷惑が掛かろうと店を任せてきたのである。今までに虚偽の報告など一度も無かったし、それなりの信頼があるのだ。

 さらに状況が状況だけにギルバートの言葉を信じ、騎士団支部ではなく直接向かうのが手っ取り早いだろう。そう考えた。


 次に討伐に向かうメンバーだ。

 何かあったからでは遅いのだからリーザは連れて行った方がいい。かといってシンディーとリーザの二人だけで向かった場合、最悪の事態が待っていたとしたなら市民を非難させるためにも連絡係が必要だ。

 メアリーは足の回炉持ちだから連絡係としてはうってつけだが、如何せん土地勘が無さ過ぎる。アンジェは論外。


 「分かった。ギルバートは西門で待機。情報収集に注力しろ。メアリーと王女は私の店に避難、もし何かあった場合は王女を守ってくれ。残った人数で向かうぞ」


 聖装士という立場上、騎士団などでは力不足だと判断された場合に火事場に出張る事がある。殲滅戦に秀でていたシンディーは予測不可能な現場に飛ばされる事も多く、こういった急場に慣れている。

 それを知っているリーザとローザは既に引き締めた表情で首を縦に振る。メアリーは少し動揺したようにキョロキョロと顔を行ったり来たりとさせていたが、周りの状況で自分がどうしなくてはいけないのかをを理解したようだ。


 「リュール様が直接向かうのは反対です。あの男……確かローグと言いましたか? あの者を前線に立たせ、リュール様はここに残るべきではないのですか?」


 ギルバートの顔に陰りが出来たことに「あぁ…」と小さく呟き現状を教えておく。


 「ローグは今別行動中だ。それに奴を探してから向かえばそれだけ到着が遅くなる。それは現状に至っては得策ではないだろう」


 今度はギルバートの顔に焦りが見受けられたが、その理由は分からず、シンディーは見なかった事にした。


 「では行くぞ」



 シンディーとリーザは足の回炉を持っているが、ローザは持っていない。マギアークを出る前に馬を三匹借り受けてから西へと向かった。



 マギアークの西には一つの集落があった。

 もちろん母国である魔の国の事をシンディーが知らぬはずもなく、まずはそちらへと馬を走らせている。

 向かう途中、オンディーヌに魔物も気配がないかと尋ねておいたが、それに帰ってきた返事は先日と同様のもので三人の顔は曇り始めた。


 自身の知識や体験していない出来事は聖装士であろうと不安になるらしい。



 遠目に集落が見え始めた頃、三人は一斉に鼻を手で覆う羽目になった。


 「これは酷いな……」

 「……一体なにがあったというのかしら」

 「どれだけの人が死んでるです……?」


 集落へと近付く度、シンディー達の鼻を据えた匂いが突く。

 ここにいる三人は少なからず仕事上この匂いには敏感になっていた。だからこそ見えていなくても分かってしまったのだ。


 「状況だけ把握したらすぐに発つぞ」


 「分かったわ」

 「了解です」


 三人の目的は飽く迄も魔物だ。

 この集落に寄ったのも注意喚起のために立ち寄ってに過ぎなかったのだから。


 集落に足を踏み入れると先程よりも遥かに強い匂いに悪寒さえ感じながら足を進める。辺りを見渡せば所々に死体が捨てられている。


 その死体が普通の死体であったらどれだけ楽だっただろうか。


 どの死体も切り裂かれたかのように体の一部が欠損し、腕の無い者や足の無い者はまだいい。目がくり抜かれた死体や頭が花が咲いたかのように開いた死体などはいくら見慣れているとはいえ、堪えるものがあった。


 「……悲惨の一言だな」

 「……魔物を倒した後に出も埋めてあげましょう」

 「……です」


 さほど大きくも無い集落に百を超えるであろう無残な死体。

 それを踏まぬように気をつけながらも見回ると、明らかに違和感のある建屋を見つけた。かろうじて玄関は形を留めてはいるが、壁と言う壁が崩れ小さな山を模している。


 「……何かの起点になったのはここか? ──リーザ」

 「えぇ」


 シンディーの声にリーザが玄関の前に立つ。


 武装大会を勝ち抜き頂点に至った存在が聖装士である。

 一人で闘う事に慣れてはいるが、何があるか分からないような状況下でそんな愚を犯すことは無い。そこまで彼女は自分の力を過信していない。どんなに強かろうが動脈などの太い血管を損傷すれば死ぬ。

 リーザは特異的な目の回炉のおかげでここにいる誰よりも、いや、世界で最も先読みに長けた存在であるのは疑う余地も無い。なんと言ってもその眼の回炉のおかげで聖装士になった事実は否定できないのだから。


 二本の剣を抜き、回炉を全開放したリーザが扉の前に立つ。


 「じゃぁいくわね」

 


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