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最強って何がいいんですか?  作者: Ⅾ
正義の在処
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再壊【2】

 聖装士であれば権力や富、ある程度の自由と引き換えに闘う事を要求される時がある。だから弁えている。自分の存在意義と守りたい者達を。



 「葬華・霜楓封そうか・しょうふうふう


 リーザが二本の剣へと優しく語り掛ける。



 二振りの剣はシンディーお手製の魔装具になっている。

 魔装具は〝疑似回炉〟と呼ばれる彫り物をし、その両極端に魔石とメモリアストーンで所持者の魔素を吸い起動する。彫りこまれた疑似回炉により効果が限定されるのがネックではあるが、生活用品から武器まで多岐多種に渡り作られている。問題があるとすれば、製作者側が魔法を熟知し、資材を調達できるかの方がハードルが高いのだが、聖装士である二人には問題にはならない。


 剣の柄に彫られた四つの疑似回炉。魔石と最上級の玉鋼、メモリアストーンを織り交ぜてシンディーが創った特注の剣。一般家庭の人が金を積んで買おうものなら間違いなく破産してしまうだろう。


 ギルバートに使った『葬華・迦楼羅炎』は火の疑似回炉にリーザが魔素を流し、制御して振るわれていた。


 そして今、リーザの剣は白く重い(もや)を流して垂れ流している。


 相手に魔素を吸収されるのなら凍らせてしまえばいい。

 剣を振るう度に魔素を吸われてしまうが、シンディーとは違いリーザの場合は〝短時間で相手の機動力を削ぐのか〟が課題になる。


 只でさえ少しながらも血を流し、接近戦がメインであるリーザは間合いに入るだけでも魔素を吸われ始める。長時間の足止めは夢も希望も無い。

 それならば相手の手足を斬りながら少しでも体温を奪い、良くて凍結、悪くても動きを鈍らせることが出来れば時間は稼げる。そう考えた。



 魔物が大きな口を開け噛みついてくるが、それを直前まで開放していた目の回炉で見切り、すり抜けざまにいくつかの足を斬り落とす。

 すぐに反転。間合いから滑り抜けた直後、すかさずに目の回炉を開放。


 その眼には一寸先の映像が映し出される。魔物が人の腕を繋ぎ合わせた様な尾を振り、切り離した尾をリーザへと飛ばしてくる、そんな映像だ。

 そこから見える自信が生き残れる隙間に体を滑り込ませるために地面を蹴る。


 リーザが垣間見た通りに魔物が動き、それを躱しながら手の届く範囲はしっかりと斬りつけ、再び体を反転させ、再び眼の回炉を開放する。


 魔物に極力魔素を吸われてなるものか、と通り過ぎる度に回炉を閉じ、離れれば回炉を開放するという繰り返し。念のために後ろを振り返りシンディーとローザの状況も確認しておく。


 (……後はどこまで耐えられるか……かしら)


 魔物が背を反る様にして頭を上げた。

 リーザもすぐに開放した眼で見た。


 「──っ!!」


 見えたのは涎を撒き散らし頭だけが飛んでくる映像。

 リーザにとってあまりの誤算。


 聖装士はあまりに強い。だから一人で戦地に赴き、一人で闘う事はあっても集団で闘う事などない。


 そして、リーザの後ろにはシンディーとローザがいる。


 頭を飛ばしてくるという思考的な予想はしていなかった。普段から人より先の景色を見ているリーザにとって相手の動きを予想しなくても開放した眼で見れば分かってしまうのだから。

 だからこんな初歩的なミスを犯してしまった。


 後ろには魔素欠乏症になりかけているシンディーと足の回炉を持たないローザ。

 さっきまでの様に〝避ける〟という選択肢だけは取れない。


 「──行くしかないわね」


 魔素の温存、相手の撹乱、時間稼ぎ。その為に行動していたが、大人程の大きさ程ある魔物の頭が二人へと辿り着く前に軌道を変えなくてはいけないとなると、魔素を吸われながらでも回炉を開放し続けなくてはいけない。万が一力負けなどしてこちらが吹き飛ばされでもしたら後ろの二人は無事では済まない。


 「葬華・土葬蓮華(そうか・どそうれんげ)


 さっきまで白い靄を吐き出していた剣の周りに拳大の石が纏わりつく。

 リーザの土葬蓮華は剣に石を纏わりつかせ、相手に向かって振り下ろされた剣が当たると同時に全ての石が剣と同じ速度、同じ重さで放出する技。


 徐々に凍らせるなんてことはやっていられないのだ。自身の持つ最大の物理量で迫りくる頭の軌道を少しでも弾かなければいけない。


 大きく口を開き下あごで地面を削りながら真っすぐに迫ってくる魔物の頭に対し、リーザは前へと走り出す。

 タイミングを見計らい、踏み込んだ足を地面にめり込ませ剣を振るう。


 振り下ろされた剣が呑み込まんとばかりに開いた口の鼻先へとぶつかり、剣に纏わせていた石、総数にして38もの石が魔物の頭目掛けて襲い掛かる。

 リーザの初撃と同じ威力で襲いかかった石が連撃の様に魔物を襲い、突進力が弱くなった頭へ二振り目の土葬蓮華を振り抜く。


 ──ドオォォォン


 剣戟を合わせると78回もの衝撃に魔物の頭が地面へと大きな音と土煙を伴って崩れ去った。これで後ろの二人に対しての脅威は去った。


 「……はぁ…はぁ……」


 リーザは片膝を着いた。

 至近距離で回路を開放し続けた代償は小さくなかった。肩を大きく動かしながらする息はしばらく戻りそうにもなく、あともう一度剣に魔素を込めたら意識を手放すだろう。


 もしも土煙が晴れた時、あの魔物が五体満足に動くのであれば全力で逃げる事を選んだ方がいいと考えるリーザ。

 もしもローグがこちらに向かっていない状況だとしてもここでくたばるよりは時間が稼げるはずだと。

 それでも一つ問題がある。


 (聖装士も精霊も届かないって言うのはいささか問題よね……)


 ローグならばここにいる誰よりも足掻けるのかもしれない。それでも彼は此処にはいないし、いつ来るかもわからない。さらに彼が勝てるという保証がある訳でもない。

 最悪……なんてことは想像したくない。


 その時だった。

 目の前の土煙が晴れようとする時、それを待っていたかの様に飛び出してきた影が一つ。自分と同じくらいの大きさの頭がリーザ目掛けて動いた。


 「──いくら何でもしつこくないかしら!?」


 再び頭だけで飛び出した頭がリーザを掬い上げた。


 間一髪でそれを剣で受け止めたが、咄嗟の事で足が地面から離れてしまう。

 空から見た魔物は口を大きく開き、


 「──姉様!!」


 遠くから聞こえる声を空から聞いていたリーザはじわり、じわり、と冷や汗が溢れてくるのが分かった。


 「来ちゃだめよ!」


 空へと弾かれる様に飛んだリーザの声はローザに届くことは無かった。




 ローザは走る。

 大好きな姉が初めて膝を着いたのを見た。初めて吹き飛ばされるのを見た。


 昔からローザを守るために自身の事を顧みない所がある。それは時に嬉しさで胸を包んでくれるが、同時に苦痛でもある。大好きな人を傷つける事しかできないのだろうか、と。

 だから強くなるために努力し、その結果として最年少で騎士団への入団も果たした。少しでも重荷にならない為に。


 シンディーは未だ動けそうにない。それならば自分が動かないでどうするのか。

 そんな想いがローザを突き動かした。


 「ローザ!! 早く下がって!!」


 今も空から聞こえてはいるが聞こえなかった事にしておく。

 姉がどんな剣技を使うのか知っているローザは止まる訳にはいかない。


 「こっちです!!」


 空に向かって大きな口を開けている魔物に盾を前に突き出し、体当たりをするとギロリと大きく、濁った瞳を向けられる。


 後は姉が着地するまでの時間をどう稼ぐかだが……あては無い。


 聖装士である姉が苦戦している。

 いまだ姉の背中を追いかける事で精一杯なローザが対応できるはずがない。


 そして、事実は何時だって残酷だ。

 物語の様に誰もがハッピーエンドなんてことは絶対にない。



 「こっちです!!」


 心臓が警鐘を鳴らしている。

 人外であり魔物ですらない。

 魔物ならば元の形は動物でなければおかしい。こんな人の腕や足で動く竜の様な存在は見たことも無ければ聞いたことも無い。


 初めて見るそれに気圧されたローザは距離間だけに集中することにした。

 遠目で見ただけでも魔素を吸われる以外に特殊な事はない。腕を振るい、掴み、食らう。どれもが近接攻撃ならば着かず離れずでやり過ごせるかもしれない。


 (──大丈夫! 姉様が地面に辿り着くまで、それまで逃げきれれば私の役目は終わりです! ……っていうかあのぼんくらは何してるですか!)


 心の中であるいけ好かない男を思い浮かべながらも、ただでさえ足の回炉がないローザは回炉を開放する事無く、避ける事に徹しっている。


 ひらり──とはいかないがすんでの所で避け続けるローザ。

 顔の隣で大きな口ががぶりと閉じられた時、肌の露出している所にかかる冷たい涎が憎悪すら感じさせる。



 長い。


 何度目かの攻防を終えているのにも関わらず、未だに大好きな姉は空を舞っている。


 いつまでこの状況が続くのか?

 いつまで自分は耐えられるのだろうか?


 そんな不安から空を舞っている姉を一瞥した。


 そして。


 「──あっ!?」



 死体の多く転がる元集落。

 今更ながらに姉がどんな場所で接近戦をしていたのかを思い知らされた。


 転がっていた遺体の一部だろう塊に足を取られたローザは姿勢を立て直すも、そんな隙を見逃す獣がいるはずもない。


 涎を撒き散らしながら開かれた大きな口から覗く鋭利な無数の牙。


 咄嗟に体を横に投げ飛ばし地面を転がり、なんとか難を逃れたと安堵するよりも早く、撒き散らした血と思う様に立てない自分の体に違和感を覚えた。


 「……あぁっ」


 違和感の感じた右腕に視線を向けると、持っていた剣ごと右肩から先が無い。

 次に魔物らしきものに視線を向けるとぐちゅぐちゅと口を動かし、その大きな口からは赤い汁が溢れていた。




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