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最強って何がいいんですか?  作者: Ⅾ
正義の在処
22/27

裸の付き合い……?


 店の扉には〝閉店〟の看板がぶら下がっている。

 そして周りには人だかり。


 その中心には俺とギルバート。


 (……なんだこれ?)


 「さぁローグとやら! どこからでもかかってこい!! このギルバート、逃げも隠れもせんぞ!!」


 持っているシャムシールを突き出す様に何度も前後に素早く動かすギルバート。


 (……シャムシールって基本的には突かないよね?)


 盛大な溜息を吐いてから仲間へと視線を送るとパンフレットを開いている姿が目に飛び込んでくる。

 この後に向かう温泉でも決めているのだろう。


 なんと薄情な事か。

 俺、巻き込まれてるんだけど?


 「どうした!! こないならこちらから行くぞ!!」


 目と両足をカシス色にたぎらせ、ふっとその場から消える。

 その速さは日々回炉を使い込んだ熟練のそれだった。

 既に目では追えない速度に達している一撃を俺は刀を右に振ることで曲刀を防ぐ。


 「──!?」

 「ギルバート……でよかったよね? 速いんだけど〝音〟と〝殺気〟が駄々洩れだよ。地面を蹴る時はもっと足の小指で蹴らなきゃ。それと相手を直視するのもダメだ。それじゃあ気付いてくれって言ってるようなものだよ」


 メアリーよりは少し早いけど動きが稚拙。まず一撃目を防がれただけで動揺してるようでは話にならない。



 言い終えた俺は刀で掬い上げる様に上へとギルバートを軽く弾く。続けざまにがら空きとなった鳩尾目掛けて蹴り上げ、屋根よりも高くあがった彼を追いかけるために足の回炉を開放、ギルバートが自然落下を始める頃には真横に辿り着いた。


 「少し頭を冷やしてきてくれ」


 こちらを恨めしそうに見ているギルバートを街の外目掛けて思いっきり蹴飛ばす。

 これ以上絡まれていたら何もできないし、できるだけ絡まれたくない。


 「俺は認めんぞおおおぉぉぉぉぉーーー!!」


 きらりと光る粒を瞳から流し、彼は空へと消えていった。



 地面に降り立つと、周りの観客が拍手喝采で出迎えてくれる。

 その中、俺に近づいてきた五人へと視線を向けた。


 「いや~すまんな。奴は仕事は出来るんだがなぁ……。如何せん馬鹿でな。何度も私達に負けているのに未だに諦めんのだ。おかげで私とリーザはここに来る度に奴を黙らせなきゃいけないのがほんっっっと面倒だったから今回は楽できそうで何よりだ。まぁ、次も頼んだぞ?」


 「次もあるのかぁ……」


 この国にいる間、俺には平穏が訪れる事は無いのかもしれない。



 ---



 《ウェストール温泉館》


 俺がギルバートと闘っている間にここに決めたらしい。

 周りが石やレンガで作られた家ばかりだというのに、この建物は木で出来た門構え。二階建ての大きな建物も木造で建てられていた。

 その佇まいは不思議と心が落ち着くような気がした。


 行くまでは気乗りしていなかったまま流される様に来てしまったけど、これはこれで気分転換としてはいいのかもしれない。

 早速受付へと足を運ぶと穏やかな笑みで迎えてくれる老夫婦。

 六人分の金額を支払い終えると、老夫婦がそれぞれの更衣室へと案内してくれる。


 軋む床板を楽しみながら青の布地に大きく〝男〟と黒字で書かれた暖簾をくぐろうとしたところで、後ろから「存分にお楽しみくださいませ」と見送ってくれる。

 ありがとう。

 そう礼を言いながら振り返ると、頬を赤らめながらも変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。



 更衣室で衣服を脱ぎ去り、湯船へと続く扉に手を掛ける。

 開けたと同時に硫黄や木の香りが鼻腔をくすぐり、心がふわっと軽くなるのを感じた。

 ティーグでは温泉などは無いから水浴び場が主流だ。温かい湯船もあるにはあるが、どうしても高価な物になりがちで庶民とさえ言いづらい俺には手など出せるはずがないのだ。

 つまり、今日が初めての温泉デビュー。


 アイラに謝りながらも、お湯で体を流して湯船へと体をつけていく。


 露店風呂というらしいこの風呂は実に心地が良かった。

 温まっていく体を風がゆっくりと肌を撫で、その風が届けてくれる土や草木の香り。

 風が収まれば下から湯気を伴って何とも言えない温泉の香りが、体の疲れごと連れ去ってしまうみたいだ。


 しいて言うならば、様々な香りに誘われて辺りを見るも、湯気が邪魔をして景色が見えないこと位だろうか? だがそれも湯船から出て見渡せば見えるだろうけど。


 ──がたっ


 木製の扉が開く音が響く。

 自分以外にもお客さんが入ったのだろうと、邪魔にならない様に垣根の方に移動し再び湯を楽しむ。


 「それにしてもマギアークのお風呂は香りが違うわね」

 「あぁ。聖王国にも風呂自体はあるが、あれは魔装具によって温められただけだしな」

 「私はお湯に浸かること自体が初めてだわ」

 「……姉様の裸体……この目に焼き付けなくては……です」

 「…………」


 どうやら仲間たちも湯船へと浸かるために更衣室から出てきたらしい。

 相変わらず一人おかしくなってしまったのがいるが、それに関しては色々と遅いのだろう。

 とはいえ、やはりこういった場所で女性の声を聞くというのにはなかなか抵抗がある。実際には姿を見ている訳ではないのだから気にする必要は無いのだけど、どうしても状況が連想させてしまう。まぁそれも腕を組まれたりするよりは何倍も気が楽なのだけど。


 ──ちゃぽん


 (……ん?)


 湯船へと足を入れたのだろう。

 気になったのはそこではなく、なぜその音が〝俺のいる湯船〟から聞こえてきたのか。


 まったりとした意識を少しだけたたき起こし、視線を巡らせると──


 「ロ、ローグ!!?」


 なぜかメアリーがタオルを前面に垂らしているのが視界に映る。


 さて、ここで慌てるのは円舞の使い手としてはいけない気がする。メアリーが何故ここにいるのかは不思議ではあるが、可能性としては間違えて男湯に来てしまったことも考えられる。ならばいかに自然に間違いを認めさせるかが重要になってくるのだが、それは俺にとってかなり難しいのではないのだろうか?

 俺は女性と話すこと自体に慣れていない。さらに今は全裸。そして目の前に映る女性も全裸。


 アイラのですら見たことが無い俺が冷静に対処する。そんなことが可能なのだろうか?


 「……そういえばここは混浴と書いてあったな」


 混浴。

 混浴とは男女という垣根を乗り越え、人としての尊厳を重んじ、その中で交流を深めるというあれだろうか?

 だとすればこの状況も納得がいく。だが、なぜそれを一番に気にしなくてはいけない女性陣は気にしていないのか?

 そもそも、なぜ俺はそれを風呂に入る前に確認しなかったのか。


 (……あっ、俺はギルバートと闘っていたからこの温泉の情報何も知らないや)


 「へぇ~、此処って混浴だったんだなぁ~。……よし、出るか」


 何事も無かったように風呂を出る。それが俺に課せられた修業なのかもしれない。この位で取り乱さず切り抜けて見せろ。そういう事なのだろう。


 俺が言葉を発した時には湯気が立ち込める中でもはっきりと顔が分かる距離に五人の姿が見えた。


 「あれ? ローグはもう出ちゃうのかしら?」

 「……」


 音を立てず、それでいて素早く更衣室に戻りとした俺に何故立ちふさがるのか?


 「リーザ、アンジェ。さすがにみんがゆっくりしている中で男の俺がいるのも変だろう? 俺は出るからそこをどいてくれないか?」


 「何が変なのか私には分からないわねぇ~。……あら? もしかして困るのはローグなのかしら?」

 「……ローグ様。逃がしはしません」


 アンジェは王族とあって流石に堂々としている。背筋もピンッと伸びている。……だが、そのせいで大きな二つの果実が余計に目立ってしまう。

 リーザは上目遣いになるために上半身を軽く前に倒し、首を軽く傾けてはいるが今は全裸。アンジェとは違う意味で大きなそれがプルンッと音が聞こえてきそうだった。


 いや、そんな事よりも女性としての慎みは大事だと思うんだよ俺は。そんな簡単に肌をさらすものじゃない。


 「捕まえたぞ」


 声と共に左腕をガシッと掴まれ痛みが走る。

 未だに完治していない手首付近を掴むのはいくら何でもやり過ぎではなかろうか? そう思い、掴んできたシンディーに目で訴えてみた。


 「お前を逃がしたら面白くないだろうが」


 要は本気で逃がすつもりはないとそういうことだ。……それよりもせめてタオル巻いてください。


 「分かったから風邪ひく前に湯船につかろ!」


 目の前の裸体から目を背け、半ばやけくそ気味に湯船へと浸かった。幸いにも湯船は濁り湯だから浸からせてしまえば今よりも状況は好転するはず。


 ──甘かった。




 「……いや、あれだよ? お風呂ってさ? のんびり浸かるものじゃなかったけ?」


 只一人、ローザを除いて仲間が俺を取り囲む様にお風呂に浸かっている。ここまでは百歩譲っていいとしよう。


 問題は俺を背もたれの如く、皆が体を預けてくることだ。

 メアリーなんかは既に顔が茹で上がっているのだから無理する必要はないと思うのだが。それにローザ、湯船に涎垂らすんじゃないよ。


 「のんびり浸かっているだろうが」

 「そうねぇ~、体が芯から温まると思考も溶けちゃいそうで……悪戯したくなるわね?」

 「わっ、私は悪戯じゃなくてもいいからっ!!」

 「……渡さない」

 「……姉様ぁぁぁ~~」


 聖装士の二人は揃って悪戯っぽい笑み。……俺をかまうのってそんな楽しいのか?


 メアリーは顔が真っ赤。……のぼせる前に出た方がいい気がするんだけど。


 アンジェは相変わらず無表情。聖王国で初めて会った時からこんな感じだけど……なんでこんなに迫ってくるのか未だに理由が分からないんだけど。


 ……ローザはとりあえずその顔なんとかしよ。


 体中に感じる柔らかさとお湯とは違う温かさを無視し、耐え続ける。


 「そうか、混浴とは一つの修業みたいなものなんだな……」


 「あら?」

 「なにかしら?」

 「ん? のぼせたか?」

 「むしろ欲望をぶつける場所」

 「はぁ…はぁ……姉様の柔肌……」


 気にしてはいけない。心を無にしなくてはいけない。これも修業なのだから。



 □■□■□



 「──くそっ!!」


 まるで牢獄の様な場所。

 金髪碧眼の男は壁に拳をぶつけながら悪態をついていた。


 本来ならば久しぶりに帰ってきたシンディーと、理由は把握していないが来店したリーザと少しでも触れ合うために尽力しているはずだった。

 いつも迷惑そうにいなされはするが、以前聞いた〝私達より強くなれば考える〟などと言ったのだ、せめて彼女たちに一撃でも浴びせられれば認めてくれると思っていた。


 それが突然湧き出た男に掻っ攫われた。


 そんな事態を誰が想像しただろうか? 相手は世界最強と言われる聖装士であるのに。今までの自分の苦労は無駄だったというのか? それが彼、ギルバートの悪態の原因である。


 「荒れるのは勝手だが顔くらい隠してから来いよ。──で、何があったんだ?」


 羽織ったマントと深く被ったフードのせいで体格すら分からない男はギルバートの同僚である。


 その同僚に今日の出来事を吐き出した。


 「あーそらぁ~確か〝ローグ・ミストリア〟とかって奴じゃなかったか?」

 「お前!! 知っているのか!?」

 「知ってるっつうか……アムリタの№3直属の諜報部隊がいるだろ? ちょっと前に偶然会ったんだがそんな話を聞いたな。──なんでも聖装士二人には勝ったらしいぜ」

 「嘘……ではないのか?」


 組織のナンバーズ。

 便宜上番号で呼び合っているだけで番号自体に意味がある訳ではないが、各部隊の部隊長のような存在だ。そこの諜報部隊から聞いた話であるのなら間違いはない。

 そう考えてはいるのだが、信じる事が出来ず苦悶の声を漏らした。



 憧れだった。

 自分より一年長く生きているだけの女性と、自分よりも年下でありながら妹を守るためだけに頂きに昇り詰めた二人は。

 そこからは良くある話である。

 少しでも憧れである二人に近づくために武器を手に取り修業を始めた。以前までお世話になっていた職場を辞め、憧れの店で働くために毎日頭を下げ雇ってもらった。

 そして今では店全体を仕切るほどには信頼されていた。


 彼には自信があった。


 自分が一番近いところにいるのだと。足りぬのは彼女たちに勝てる実力だけ。それさえクリアしてしまえば彼女たちの一番になれるのだと。


 そして現在、彼の自信は揺らぎに揺らいでいた。


 《私とリーザはもうこの男と婚姻を結んでいるからな?》

 《ごめんなさいねギルバート。そういう事だから貴方は仕事以外で私達に近寄らないでね?》


 この言葉はいつもの様な冗談ではなかったのだろうか? 自分よりも〝あんな男〟を選ぶのだろうか? そんな疑問が彼の頭を支配し始めた時──


 「あ~そういえばその話を聞いた時に諜報部隊から連絡を回してくれ、なんて頼まれてたんだ。ギルバート、最近〝イクシード本部〟で行っていた実験の失敗作が息を吹き返して暴走を始めたらしい。だからマギアークから西に進んだ平野には近づくなだとさ」


 沈んだ心のまま聞き流していたギルバートもこれは聞き逃す訳にはいかなかった。

 イクシードの名が出るのなら自分にとっても関係の無い話ではないから。


 「実験の失敗作とはどんな物なのだ?」

 「俺も詳しくは知らねーけど、なんでも実験動物が魔物化しちまったって話だったぜ」

 「それはまた……」


 ギルバートは思った。


 (……これは使えるのではないだろうか?)







 ちょこちょこ動き出します。


 これは私がリアルで昔お世話になった方から頂いた言葉ですが


 【大吉だろうが大凶だろうが運がいいなんて事はまずない。だから自分にとって都合のいい事は起こらないと思って生きた方がいいぞ?】


 では、私からこの言葉をローグに送りたいと思います( ̄ー ̄)ニヤリ

  

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