新しい地へ
「みんな忘れ物は無いな?」
シンディーの一言で皆が下船の準備を始めていた。
元から呼ばれた身であったし王との対談の後、シンディーの提案で魔の国マギアークを目指すことになった。
なったのだけど……
「ローグ様、足元に気を付けてください」
「ローグなら大丈夫よ。それよりも自分の事を心配したらどうかしら?」
「あらあら~」
「お前ら、さっさと下船しろ」
「姉様、あんな奴らは放って置いて早く行くです」
上からアンジェ、メアリー、リーザ、シンディー、ローザ。
みんな付いてきた。
メアリーとはそういう約束をしたし構わないのだけど。
でもね、男一人、女性五人という状況はいろいろと痛い。
羨ましそうにこちらを眺める騎士団もいれば、怪訝な視線を叩きつける様に送り届けてくる旅商人。それ以外にも好奇の視線や汚物を見る様な視線が次々と俺だけに向けられるのはきつい。
それと流石にアンジェはドレスではなく質素な旅人を装ってはいるが、それもどこまで隠しきれるものなのか不安だ。
聖装士の二人は主に〝暇〟だからと言う理由。一応は王の近辺警護としてギルが残ってくれたから許可が出たらしく、俺の想像以上に世界は平和なのかもしれない。
ローザは「姉様が行くところなら私が行かないでどうするです!」の一言。
騎士団はリーザの名が挙がった瞬間に快く送り出したらしい。
そしてアンジェは王と一晩揉めた末に勝利を勝ち取ったらしいのだが、翌朝見送りに来てくれた王は目を真っ赤に腫らしていた。
娘に負かされた世界ただ一人の王。もうちょっとどうにかならなかったのだろうか?
そう言う訳で六人でシンディーの店へ向かう為に魔の国へと入国した。
初めて見た首都マギアークは感嘆の一言だ。
首都中央に聳える雲を突き抜けた活火山。
火山の周りには恵みである温泉が川を作り、街中の至る所に温泉が流れている。その為、地面よりも渡橋が多く見られるこの景色はティーグではお目にかかれないだろう。
シンディーの店の前まで行って更に驚愕。
歩いてきた町並みにいくつか魔装具屋があったが、大小はあっても戸建ての平屋が多かった。
それなのに、今目の前にあるのは五階建て。更に他の魔装具屋が霞んで見える位にでかい。
それにも関わらず、俺とメアリー以外は見たことがあるのか別段驚くこともなく案内されるがままに店内へと足を進めた。
「いらっしゃい──」
「あぁ、ギルバート。私がいない間何もなかったか?」
出迎えてくれた金髪碧眼の男は営業スマイルから一気に歓喜に表情を染め変えた。
余程シンディーを慕っているのか、その男は走り出す。
「帰りをお持ちしていました!! ──さぁ! 熱いベーゼを!!」
走り出した男は両手をいっぱいに広げ、なぜかシンディーとリーザ目掛けて走っている。
そして彼を出迎えたのは──
「選別の盾」
シンディーがリーザを庇う様に体を滑らせ、目の前に現れた水の壁がギルバートをはじく。
「葬華・迦楼羅炎」
シンディーが横にずれ、宙を舞っていたギルバートにリーザが炎を宿した二本の剣で斬りかかる。
「ぎゃーーーーーー!」
全身から火を噴き上げながらのた打ち回るギルバート。
「ちょっとやりすぎなんじゃない!?」
口を開いてみたが、動揺を隠せなかったのは俺とメアリーだけの様だった。
「あ~説明は後でするがこいつは気にするな」
「そうね、いつものことだし」
……本当にいいのだろうか?
シンディーは「確認ごとがある」と言葉を残し、リーザに案内を投げてフロアの奥へと消えて行った。
それを見送った俺たちは五階にあるシンディーの部屋へと案内されるが、家主のいない部屋でどう寛げと?
数十分後。
シンディーが戻ってきたと思えば、表情を曇らせていた。
「あら、だいぶ浮かない顔をしているのね」
親友と言うだけあっていち早く反応したリーザ。それに釣られる様にその場の皆が顔をシンディーへと向けた。
「あぁすまない。私がいない間にちょっとあったらしくてな。……まぁ噂程度の話だから気にしなくてもいいのかもしれんが……」
「一応報告は必要じゃないかしら? アンジェ王女もいるのだし」
人形の様に微動だにしない王女にリーザが一瞥した。
「リュール嬢。私は若輩者ですが世界を担う者でもあります。まずは聞かせてください」
「まぁ王女がそこまで言うなら一応は伝えるが……〝イクシード〟の情報と魔物についての話が上がっているらしい」
魔物に関しては四大精霊がいるのだからそこまで気にする必要はないのではないか、と考えてみるのだが俺の時を思えば例外なんてそこら中に転がっているのかもしれない。
それよりも……
「「イクシード??」」
初めて聞いた単語に反応してしまう。
「お前たちは知らないか。──〝イクシード〟と言うのは自称〝犯罪者支援組織〟などと公言しているのだが……。 等価措置法、証拠制度のせいだけではないのだが、冤罪者などを保護する団体があるらしいんだ。実際には匿うだけで表立って何かするわけではない。そのイクシードがどうやら此処、魔の国で見かけられたそうだ。情報元すら断定できなかったから悪戯の可能性もあるのだが……」
ほほぅ…。
少しだけ感心した自分がいた。
もし何かに傷つき、それに対しての保護を無償でしているのであればどれだけ立派な事だろう。
もちろんそれを悪用する奴らも出てくるのだろうが、それさえクリアしてしまえば俺のやりたかったことと似ている気がする。
そんな風にさえ思えた。
「リュール嬢、私は魔物の方が気になります。イクシードに関しては聖王国ですら実態のつかめていない存在。短期的決着を必要とするのなら魔物の方だと愚考しますが」
表情を一切変えないままこの発言。
これで俺より三歳年下言うのだから驚きである。
まぁその分苦労もしているのだろうが……それは俺なんかじゃ理解できないのかもしれない。
「王女の言う通りなんだが……それも何とも動けなくてな。なんたって竜種の魔物だという話だからな」
竜種。
おとぎ話に出てくるレベルの獣だ。
もしそれが本当なら世界がざわつく位では済まないはずなのだけど……
「アウラ、オンディーヌ。魔物の気配はするのか?」
たまらずに空に向かって訪ねた。
もし魔物だとするならこの二人に聞くのが手っ取り早い。
なんたって曲がりなりにも世界の守護者ではある訳だし。
「相変わらず急に呼んでくれるね~ローくん」
「あらあらぁ~シンディー以外に呼ばれるのひさしぶりだわぁ~」
室内には水と風の塊が人型に変わっていく。
「で、何か分からないか? 竜種なんてモノが魔物化したとなると精霊の出番じゃないか?」
「それがさ~普通の魔物の気配は感じないんだよ。ここら辺はウェスタちんがいるはずだし……。もしいるとなると僕たちよりウェスタちんが向かうはずなんだけどな……」
「アウラちゃんの言う通りよねぇ~。私もぉ~何も感じないわよぉ~?」
なんと。
ここら辺には火を統べるものであるウェスタがいるらしい。
これにはさすがに一人を除いたみんなが表情を変えた。
「魔の国にウェスタがいるのなら魔物については大丈夫だとは思うが…。──オンディーヌ、一応確認してきてもらっても大丈夫か?」
「相変わらずぅ人使いが荒いわよぉ~シンディ~。まぁぁ~いいんだぁけどぉ~」
「なら頼んだ。──それで皆には提案なのだが、せっかく魔の国に来たんだから巡回がてらに風呂でもどうだ? 魔の国と言えば魔装具と天然温泉だからな」
心が躍った反面、それを否定する自分が胸を締め付ける。
こんなんじゃダメだって自分でも分かっているのに、それでも胸が緩むことは無い。
「せっかく来たのだしい……いんじゃないかしら?」
「私温泉は初めてだからドキドキするわ」
リーザとメアリーが気乗りしている後ろで涎を垂らすローザ。
聖王国でリーザに会ってから少し怖くて距離を置いている自分がいるんだけど……人としてだ大丈夫か?
「俺は遠慮しておこ──」
──バンッ!
俺の言葉を遮るように扉が勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらいました!! お二人がどうしても言うのなら護衛として私が行かなくてはなりませんな!!」
ギルバードが立っていた。
「お前は店番だろうが」
「シンディー、いい加減この蛆虫だけは始末した方が良くないかしら?」
「お二方! ツンデレもそこまでにして頂きたい! 幾夜ぶりの再会、こういった時くらいは素顔をさらけ出していいのです! 私は受け入れる準備なら出来ているのですから!!」
ギルバートが大仰に手を広げ、何かを待っているようだ。
それよりもこれは会話になっているのだろうか?
少なくても俺には会話が噛み合っているようには聞こえないのだけど……
シンディーとリーザが大きなため息を吐きながらも、なぜか俺の方にすり寄ってきた。
そしてなぜか俺の両腕に二人が腕を絡めてくる。右腕にはリーザ。左腕にはシンディーが。
メアリー。口をパクパクしてるけど…。無理。ここから逃げる手段が俺には思いつかないから。
「あー、そういえばお前は知らんよな。私とリーザはもうこの男と婚姻を結んでいるからな?」
……いつそんな約束しましたっけ? っていうかなんでそんな悪戯を張り付けた様な顔で?
「ごめんなさいねギルバート。そういう事だから貴方は仕事以外で私達に近寄らないでね?」
リーザまで何を言っているのか? なんか後ろからどす黒い殺気感じるんだからね?
「なっ!? それは本当なのですか!? 何故!? なぜ私と言う者がいながらそのようなひ弱そうな男などと!? 第一お二人より強くなければ婚姻は結ばない約束ではなかったのですか!?」
要はリーザとシンディーの事が好きだけど、肝心の二人は嫌がっているというのは分かった。
それにしたって二人に同時に告白するのってどうなんだ? いや……それよりも早く何とかしないとリーザの包まれるような柔らかさと、シンディーの慎ましながらもしっかりと主張してくるそれも結構辛いのだけど……。
「……ぴと」
動揺を必死で隠しながら耐えているのにも関わらず、今度は後ろから腰に手を回してくる人が一人。
「……アンジェ? 何してるの?」
「二人ではありません。三人です」
何がどうなってるんだ?
「いいえ、四人よ」
いや、なんでメアリーまで? これギルバートを追い払いたいだけなんだよね?
驚いたのは背中からくる押し付けられている圧迫感が一番強いことだ。
いやいや、そうじゃない。
円舞は心を落ち着けて放つ武術だ。
これは四人からの試練なのかもしれない。
(……心頭滅却)
「……ま、まさか……シンディー様がティーグの大会で負けたなどという噂を聞きましたが……」
「やはり知っていたか。そうだ、それがこの男だ。ちなみに四日前には獣王にも勝利しているぞ」
「私は戦ってはいないけど彼に勝てる気がしないわね」
リーザ、頼むから押し付けないでくれ。……あっ……煩悩滅却。
「貴様!! 名は何という!?」
「……ローグです」
「ローグとやら!! 表に出ろ!! このギルバート・フェブルが決闘を申し込む!!」
腰から曲刀を抜き、真っすぐに俺へと向けてくる。
なにこの状況? 誰か教えて?
ギルバート個人的には好きなんです。
此処までお馬鹿だと気持ちがいいですな。
さぁみんなも一緒に──煩悩滅却!
*完全なる諸事情により明日の投稿が困難なため、木曜日ではありますが投稿させていただきました。




