聖装士の秘密
前書き失礼いたします。
今まで【回路】と表現させて頂いていましたが、この話からは【回炉】に変更させていただきます。
これによる物語の変化や意味合いが変わる物ではありませんのでよろしく御願い致します。
また、時間に余裕のある時に前回までの投稿文も徐々に変更させて頂ければと思いますので重ねてお願い申し上げます。
「アンジェーーーー!!!」
声の聞こえた方に振り向くと、人が自由落下を始めていた。
ローグは咄嗟に地面を蹴る。
「変革の廃墟!!」
それだけでは間に合わないと、自分の体に向けて魔法を放ち加速させる。
地面と女性の間に体を滑り込ませることに成功。そのまま背中から壁にぶつかる事で止まった。
「ローグ様、初めまして。私はアンジェと申します。以後よろしくお願いいたします」
痛みより不思議の方が勝った。
落下した後に《以後よろしくお願いします》って意味が分からない。更に言うなればなぜこのタイミングで自己紹介なのか?
それでもすごく綺麗な人だとは思った。
透き通る様な白い肌に、俺と同じ黒髪を肩の辺りで切り揃え、一つ一つがサラサラとしている髪。目には曇りの無い大きな瞳。
それなのに度胸があるのか表情を変えることなく、瞬きを繰り返す彼女に何と声を掛けていいのか分からずに見つめる事しかできなかった。
「アンジェ! 無事か!?」
聞こえてきたのはどこかで聞いたことのある声。
その声に振り向くと、明らかに作り笑顔の王がいた。
「ミストリア君、君にはなんと感謝をしていいか。とりあえずはその手を見てもらった後に食事でもしようではないか」
(この人、王女様だったのか……。っていうかそれなら何で落ちてきたんだ?)
王女と王を交互に見やるも、王とアンジェはローグしか見ておらず、頭に疑問符が出ている。
「……で、いつまで娘を抱いているのかね?」
俺は慌てて王女を立たせることにした。
王城に待機している医者に手首を無理やり固定された後、呼ばれている部屋へと足を向ける。
本来なら王城の内部などン把握していないローグが向かうの迷路を進むようなものだが、今に限ってはそんなことは無かった。
「ローグ様、そこを左です」
なぜか隣にいる彼女のおかげで迷うはずもない。
呼ばれていた部屋の扉を開けると豪華絢爛ともいえる景色が待っていた。
十人以上は余裕で座れるであろう長いテーブルの上座に王が、その左右には一人分の空席を空けて聖装士、それ以下と席に座っていた。更にはローグが来たのを見計らってか、様々な料理が運ばれ始める。
「おーローグ!待ってたぞ、さっさとこっちに来い!」
氷漬けにされたはずのギルがジョッキを片手にローグへと振り返り手招きをしている。
言われたとおりにギルの横に空いている空席に腰をかけたローグだったが、なぜか王女はローグの斜め後ろに立っている。
「アンジェはこっちに来なさい」
王が自分のとなる位にある空席を指さし、娘を呼んでみるが娘は一瞥するだけでギルに視線を向ける。
「ギル、王が呼んでいます。即刻あちらに移動しなさい」
「はぁ? 呼ばれてんのは姫さんだろ?」
「ギル、早くしないと冤罪で縊りますよ」
「まじかよ……」
アンジェの声にため息を吐きながら渋々と王の横に移動したのを見て満足げにローグの横に座る王女。
「王女、いいんですか? かなりへこんでますよ」
ローグは耳打ちする様に王女に声を掛けたが、返ってきたのは──
「私の事はアンジェ、またはアンとお呼びください」
アンジェの答えになっていない答えに「えぇ……」と若干引いていると、王が諦めた様な溜息と共に口を開いた。
「皆、今日はご苦労であった。聖装士の皆は無事に視察を終え、そこにいるミストリア君と言う若者との出会いもあった。皆をねぎらう為にも私としてささやかではあるが宴の準備をさせてもらった。まだ時間は早いが酒も用意してある故、各々好きなものを手に取るがよい。──さぁ、今日は無礼講で行こうではないか!」
王が果実酒で満たしたワイングラスのステムを手に高らかに上げるのを見て、皆がそれに倣う。
それぞれが思い思いに食事を楽しみ、酒を楽しんでいる姿はローグには新鮮で仕方なかった。
集落では顔は知っていても一緒に食事を取るという習慣がない。皆がそれぞれ命がけで採ってきた食材を好き好んで他人などには訳ないからというのもあるし、何があってもいいように余った食材は非常食にするのが当たり前だからだ。
折れた左手首では皿を支える事も叶わず、右手だけで食べられる物を見繕いながら食べていると、アンジェが椅子ごとローグの方へと向きなおる。
「ローグ様、言って頂ければ私が食べさせます。それとも私を食べますか?」
「「「「「──げほっげふぉ」」」」」
無表情のアンジェにローグは目が点になり、そのほか多数がむせ返っていた。
「アンジェ、無礼講だから言うが、それではミストリア君も困るだろう。それにまだ私は納得はしとらんぞ?」
「ローグ様、他人が何を言おうと構いませんのでどちらでも好きな方をお食べ下さい」
「ちょっと王女!? いくら何でもいきなりすぎませんか!?」
「……」
「王女?」
目の前で手を振ってみるが、瞬き以外の変化もなくローグは諦める事にした。無礼講と言われたので平気だろう。
「アンジェ、父の言う事は聞いた方がいいんじゃないか?」
「安心してくださいローグ様、あれは私を捨てた身です。現在は私を拾ったローグ様の物ですので何なりと言って頂ければ何でもしますので」
「「「「「ぶふぉっ」」」」」
また皆がむせた後、今度は一斉に王へと視線が注がれた。
「王よ、あまり身内の事に口を出すつもりはないが……捨てるのは良くないと思うぞ?」
「シンディーの言う通りだわ」
シンディーとリーザの声に皆が頷くと、王が両手を顔の前で振り否定する。
「レイン嬢は聞いていたのではないか!? 私が娘を捨てるなんてことがあるはずなかろうが!」
「そこの他人さん、私は《許していただけないなら飛び降りますが?》と質問し、それによって私は飛び降りました。故に私は《落とし物》です。それを拾ったローグ様が主人になる事は必然です。ですので少し大人しくしてください。耳障りです」
王があからさまに凹んだ。まるで周りに黒い靄でもかかったかの様に頭を項垂れている。それと同時に哀れな王に同情するギル、ちょっと面白くなっているリーザとシンディー。それとは別に項垂れているメアリーだが、あまりの暴君っぷりを披露しているアンジェのおかげで周りがメアリーに気付かなかったのはいい事だったのかもしれない。
食事も終わり、一息ついていると項垂れていた王が表情を引き締める。
「ミストリア君、この後少しいいかね?」
「ええ、別に構いませんが……」
その後二人で席を立ち、別の場所へと向かった。
辿り着いた部屋は昨日呼び出された円卓のある部屋だった。今日は給仕などがいない。王と二人だけだ。
「ではミストリア君、いたずらに話を長引かせるのは好きではないから要件だけを伝えるよ」
「はい、その方が俺も助かります」
「君は聖装士のうち二人を負かした。それと君とギルの闘いを見たレイン嬢も君には勝てるとは思えない、そう言葉を預かっている。 ──となれば、ミストリア君の聖装士入りをすべきだと私は考えているがどうかな?」
シンディーの予想は的中していたようだ。それならばと頭の中で考えていた事を口にする。
「俺の住んでいた集落が襲われたのは知ってますか?」
「あぁ、リュール嬢から滞りなく伺っているよ」
「俺はあれを機に、強くなろうと思ったんです。旅に出て、俺と似た様な人がいたら助けてあげたい。そして力があるなら、守るための力があるなら、躊躇いなく使っていきたいって、そう思ったんです」
「……融合者、確かそうな風に呼んでいたね」
シンディーからしっかり話が伝わっているらしい。それに頷きながらもローグは話を進める。
「その融合者に言われたんです。〝人一人守れないお前と俺に何が出来るんだろうな〟って。これは聖装士だから守れるわけじゃない。もし守れたって言うなら彼も、そして俺も、誰も失わなくて済んだんです。子供っぽい考えかもしれないけど、俺は自分が納得できる道を探したいんです。──だから聖装士にはなりません」
ローグも知っている。自分がいかに間違えたことを言っているのか。
全部を全部助ける事なんて無理だし、それでなくても人一人、助けられてないのだから。
それでも偶然自分のいないタイミングで集落が襲われたことで生き延び、偶然融合者に与えられた力。それは何か意味があるんじゃないか。そしてそれは聖装士になる為ではない。そう考えずにはいられない自分がいる。
「……その答えではあまり私も首を縦には振れないな」
宴の時とは違い、威圧すら感じる視線をローグにぶつけてくる。
「……どういうことですか?」
王の眼差しに冷や汗が垂れるのを感じた。
「少し話が逸れてしまうが、ミストリア君は〝メモリアストーン〟を知っているかね?」
それはアイラが好きだった〝鉱石図鑑〟を見たことがあるのだから知っている。赤褐色の希少鉱石だったはずだ。
「ええ、それなら知ってますが……確か希少なだけで何かに使える様な鉱石ではないですよね?」
「確かに図鑑などにはそう記載されているが、実際には違う。ここからは内密に願いたいのだが、メモリアストーンは〝魔素を吸収〟するという特徴がある。そして長い年月をかけて飽和状態になった物が〝魔石〟と呼ばれるんだよ」
「それって……まさか人にも使ったりするんですか?」
「話が早くて助かる。よく考えてみてくれ。力ある者がいなければ治安はいつか破綻してしまう。だからといって力ある者が統率者になってしまっては圧政に苦しむ者がいる。それならば法で縛るのか? いや、それも無意味だろう。君が見て来たように聖装士が相手になってしまった場合、あれを誰が止められる?」
集団でかかれば……などと口を開きそうになったが、シンディーの魔法を思い出し口を噤んだ。
単身でなんてもってのほかである。
「その為に聖装士になる際、承諾を取りメモリアストーンを体内に埋め込むのだ。埋め込むメモリアストーンには特別な魔装具処理を施してあるから通常時は体に違和感などは出ないが、万が一世界に牙を向けるのであれば半数以上の回路が使い物にならなくなる様になっているんだよ」
そこまで聞ければ王が何を言わんとしているのか想像に難くない。
「つまり俺にも埋め込むってことですよね?」
聖装士の内、形式上だけではあっても勝ってしまっているローグをそのまま放って置く程お人よしな王ではない。
「せめてそれだけは同意しておいてほしい。〝信用〟なんて言葉を世界の統率者としては簡単に使えんのだ。いついかなる時も最悪の事態を想定し、それに対策を打っておかなければいつか綻びが産まれ、それは世界を飲み込んでしまうだろう」
王の言っていることも分からなくはない。
それでもこの時のローグにはとても大げさに感じた。人一人の注意不足で崩壊してしまう程、人は弱いのだろうか?
その全ての責任を一人で受け止める事がどれだけ大変なのか、今のローグには知る由も無かった。
ご覧いただきありがとうございます。
社会的には一人が欠けたって何とか回るもんです。仕事だってそんなもんです。
中には俺がいなくなったらどうやって会社回す気でいるんかね? なんて言って辞めて言った方も過去数名見たことがありますが……
安心してください! ちゃんと回ってます!
さて、余談ではありましたが、次回、聖王国を旅立ちます。
次はどこに行くのかな?




