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最強って何がいいんですか?  作者: Ⅾ
最強になった男
13/27

剣聖レイン

前回の話。


負傷したローグはシンディーの元で治療を受け、一週間の休養を言い渡された。

そしてメアリーを襲って人間、両親、ローグの集落を襲った関係者すべてが殺害されたことを知ることになる。

ただ事実が分からず、そのことを胸に秘める以外、ローグには何もできなかった。

 「ふぅ~・・・」


 体は正直だ。


 たった一週間。それだけしか休んでいないのに、ちょっと素振りをしたり体を動かしたら自分の体じゃないみたいだ。回路にも魔素を流し込んでみたけど、やっぱり違和感だらけ。


 魔素欠乏症になった訳だが、これは栄養失調みたいなものだ。普段から体内にも存在する魔素がいきなり無くなると体のバランスが崩れ、最悪は死んだ人も中にはいるらしい。死ぬなんてことは珍しい事で、普通じゃ考えられない。悪くて意識混濁とかだ。幸いにも俺はそこまでではなかったし、違和感があるとはいえ、この位なら何の問題もないだろう。


 無事に体の調整を終え、その足でティーグの南門へと向かう。今頃はシンディー達が聖王国へ向かう為の準備をしてくれているはずだ。


 ティーグへと辿り着き、東門へと辿り着くと既に手提げバックを持った三人が待っていた。


 「ごめん、待たせちゃったか?」


 「そんなに待ってないから気にしないで」


 「あぁ、どっかの純情乙女以外は今さっき来たばかりだから気にすることは無い。それよりもさっさと行くぞ」


 その純情乙女は一生懸命シンディーの足を踏むために頑張っているが、足元を見ることなく避けている辺りシンディーの方が上手の様だ。


・・・っていうかここ最近で仲良くなったな。この二人。


 俺たちは港町まで馬車で三日進み、港町まで船に乗る。船で聖王国までは二日ほどで行けるらし。


 その間にローザやシンディーが聖王国についての話をしてくれたのだが、正直あまりイメージが湧かなかった。


 聖王国は海の上に建設された人工島、と言うのは聞いたことがあったのだが、その土台となる基礎は様々な鉱石などを固めて造ったのだと言う。それでいて、つい先日まで滞在していたティーグの二倍の面積を誇るって言うんだから昔の人どれだけ頑張ったんだよ。


 更に波が入るのを防ぐためにかなりの高さにまで積み上げたらしく、船着き場から城下町に上がるのが一番の難所らしい。

 千段ごとに折り返す階段で、全部で五千段もの階段を上らないと町並みが拝めない。足の回路持ちでないとちょっとした試練になるほどだとか。さすがに荷物の搬入などは滑車を使ったリフトなどを使用するらしいのだが。


 それでも石畳の町並みと木々が一つも生えていない場所は聖王国ではないと見れず一見の価値はあるらしい。

 ただ、その頃には俺の意識は別の方に向いていそうで楽しめるのかは不安だ。 だって俺国王に呼ばれたんでしょ?正直気が気ではないよ。


 船が聖王国へ着船し、下船した先にはちょっとした広場があった。そこから視線を奥の方に向けていくと、先に話に出て来た階段が姿を露にしていた。それを見た俺とメアリーがどんよりとしたのは言うまでもないが、聖王国に住む二人から言わせれば慣れだそうだ。


 五千段もの階段を上り終えた時には汗が滲んでいた。初めての聖王国の感想としては「一度でいいや」と言うのが素直な感想になる。隣を見ればメアリーも同じようにげんなりとしていた。

 ほぼ垂直に聳え立つ階段。行き交う人々がいるのにぶつかったりしたらシャレにならない。それでなくても涼しい顔で上り下りする人たちがいる中で回路を使っていたら白い目で見られそうだ。


 それにしても不思議な光景ではある。今まで自然豊かなところで生活していたからなのかもしれないけど、レンガ造りの家、地面全部が石畳で覆われ、波のせいなのか、たまに小刻みに揺れているような感覚。木や草は一本も無く、風はやたらと強い。

 なんでも草木が生えると根が地面を荒らし、大きいものになれば補修が面倒なのだとか。その為に王城お抱えの造園担当者が毎日島の中を確認するほど。


 ──なんでこんなところに島造ったんだよ。


 まぁ、なんかしら理由があるんだろうけど、それは俺のあずかり知らぬところなんだろう。


 「──リュール様!!」


 ガシャガシャと大きな音と足音をさせた何かに呼ばれたシンディーが顔だけをそちらえと向ける。

 こちらに近寄ってきたその男は目の前まで来ると急いできたのか、切らした息を整えるために深呼吸を一つすると口を開いた。


 「お帰りなさいませ、リュール様、レイン様。王から案内を任された者です。まずはここまでの旅路の疲れを癒していただく為、王城に部屋を用意してあります。まずはそちらに案内をさせていただきます」


 「私とローザがいるのに案内とは・・・。まあいいか。それではよろしく頼む。私とローザは平気だがそこの二人はいい顔になったしな」


 悪戯っぽい笑みで見てくるシンディーは心底ドSだと感じるよ。


 案内役の兵士の後を付いて行き、城へと向かう。

 

 遠くから見えていた城が全容を露にした時、その大きさにも驚いたが正門をくぐったところでイメージとは違った城にも驚いてしまった。


 俺のイメージでは門をくぐれば、花や噴水、ちょっとした花壇などもある様なイメージだったのだが、現実はとにかく広い長方形の広場の様。長方形を囲む様に石を積み重ねた壁が囲み、その上には座る場所が設置されていた。更に正門とは反対側の観客席は一段と豪勢な造りになっている。


 「・・・これじゃまるで闘技場じゃないか」


 ティーグの闘技場は円形のすり鉢状だったから形は違えど、漂う雰囲気はそのまま闘技場だ。


 「ああ。ここは闘技場だ。一応騎士団員の訓練なども行ってはいるが、基本的には闘技場そのものだ」


 それにしてもこんな玄関口に闘技場なんて造らなくてもいいだろう、とは思う。


 そのまま兵士が「こちらです」と手で促すので辺りを見渡しながらも付いて行くと、闘技場を抜けた先には人が十人は横に並んで歩けるだろう幅の通路。等間隔で立ってる柱にもちょっとした装飾が凝らしてある。それをだるそうに歩いているシンディーとローザを見ると本当に来慣れているんだと思う。 俺なんか体がキュッと音とたてて縮こまってしまいそうだ。


 柱の合間から見える中庭が見えなくなった頃、反対側から歩いてくる人影を見付けた。


 腰の辺りまであるフワフワとした金髪と、それと同時に揺れる二つの果実が遠くからでも分かってしまう。顔はまだはっきりとは見えないが、甲冑などを身に着けているでもなく優雅に歩いているのが少し気になり、前を歩いているローザに尋ねてみると──


 「・・ん? ──ああぁぁぁ!! 姉ぇぇぇぇぇ様ぁぁあーー!!」


 俺の質問には答えず血走った目で走り始めた。そのお陰で誰だかは分かったけど怖いよ。いや、本当に怖いから。


 とりあえず猛ダッシュで離れて行ったローザを追う様にみんなで足を進めた。


 ローザが姉の胸に顔を埋め、頬ずりと言っていいのか乳ずりと言っていいのか良く分からない行動をしているのが見えて来た。


 「リーザ、久しぶりだな」


 近くに見えたローザの姉は剣聖と呼ばれているのが疑いたくなる程、優しそうな雰囲気が溢れ出ていた。俺の目にはフワフワとした髪もおっとりとした目もそれを後押ししているように見える。


 唯一雰囲気と違うのは控えめに身に付けられた白を基調とした軽そうな防具と腰に挿してある二本の剣。剣聖と言うよりはおとぎ話にでも出てくる戦乙女のようではあったが、それでも俺は〝聖女〟と言われた方が納得してしまいそうだった。


 そんなリーザにシンディーが歩み寄る。


 「やっぱりシンディーも帰っていたのね。ローザの面倒まで見ていたみたいだけど迷惑ではなかった?」


 「そこはもう慣れたし・・・相変わらずだったな。リーザこそ確か技の国の視察だったか?」


 「ええ。私も昨日帰って来たばかりよ。 ──それよりも立ち話もなんだし少し部屋で話さないかしら?」


 「そうだな。私は平気だが後ろの二人は初めての階段で疲れたみたいだしな。 ──おい、王に日が暮れた頃に剣聖と伺うと伝えておけ。それとそこの客間を一部屋借りるぞ」


 割り込む間もなく話が決まり、シンディーの「先に入ってくつろいでおけ」と言う言葉に従って、顎で指示された部屋へとメアリーと二人で向かう事にした。


 扉を開けると様々な装飾品や凝った造りの棚などがあり、部屋の中央には大きな円状の背丈の低いテーブルと、それを囲う様にソファーが置かれていた。

 只でさえ田舎出身、趣味は野宿と星空観測になっていた俺としては居づらいことこの上なかった。


 とはいえ、どうすることもできない俺はメアリーとソファーに腰を掛け、三人が来るのを待つしかできないのだが。




***




~~~その頃のシンディー達~~~



 「シンディーが一緒にいたってことはあの男の子が例の子なの?」


 リーザが棚から陶器で出来たコップなどを出しながら大きめのトレーへと乗せながら口を開いた。


 「なんだ、もう聞いたのか。あいつ・・・ローグと言うんだが、回路が六ケ所、四大のアウラも傍にいるぞ」


 シンディーがテキパキとお菓子などを皿に盛りつけながら答える。ローザには果実水を取りに行ってもらっている為、この場には二人だけしかいない。


 「それはまた・・・。じゃあ、あなたが負けたって言うのも本当なの?」


 「それも本当だ。途中まではそんなでもないかと思ったんだがな、まさか終わる世界(アクワディザスター)まで使ってやられるとは思ってなかったよ」


 シンディーが話し終えると同時に食器が割れた音がその場に響き渡る。


 「──それ本当なの!?」


 さっきまでトレーにせっせと食器を運んでいたリーザは手を止め、食い入るようにシンディーを見ていた。それに気付いたシンディーも一度手を止め、世間話でもするかのように話すことにした。


 「まぁ信じられないのも無理はないが本当の事だ。 最初は小手調べで闘っていたんだが・・・どうもその時は私相手に本気を出すかどうか迷っていた節があるな。最後は耐えられた上に押し切られたよ」


 リーザは動揺が瞳に色濃く出ていた。


 シンディーの終わる世界(アクワディザスター)はリーザも一度見たことがある。それを見た時は既に剣聖と呼ばれていたが、それでも勝てないと思わせるだけの魔法だった。


 リーザは剣聖と呼ばれてはいるが、本質は目の回路にある。


 本来なら魔素を見る事が出来るようになる回路だが、リーザのそれは次元が違った。魔素と意思疎通ができるのではと言うほどに〝魔素がどう動きたい〟のかまで見えてしまう。それが闘いに生かされた結果、彼女は相手が動く前にどう動くのかを魔素の動きから先読みし、相手が動く時にはそれを封じるように先制することで聖装士となった。


 だから言えるのだ。シンディーの終わる世界(アクワディザスター)に対して普通の魔法でも対抗は出来ないし、武器を持って闘うような戦士には太刀打ちできない魔法なのだと。


 それを自分よりも若い男が、それもアウラがいるとはいえ、刀をメインで使う者に負けるなんてことは信じられるはずもない。だけどシンディーとは親友と呼んでいい程には浅からぬ付き合いをしてきたのだから彼女が嘘をつくようなタイプではない事も重々知っている。


 「貴方にそこまで言わせるなんて・・・」


 「そこでリーザに頼みがあるんだが、一度奴をお前の目で見て欲しいんだ。 私も何度も見たんだが普通とは違う、その位しか私には分からなかったんだ」


 「ええ、一応やってみるわ。貴方の言っていることが嘘だとは思わないけど・・・信じられないもの」


 話が決まると二人はさっさと準備を済ませローグのいる部屋へと向かうのだった。


 ローザの存在を忘れたまま。




***


~~~ローグ point of view~~~



 「待たせたな」


 シンディーと剣聖がシルバーのトレーを手に持ち、中央のテーブルへと置く。が、俺は動揺しかなかった。


 剣聖が目の回路をしっかりと開放しているのだから。シンディーの様な深い海の様な色とは違い、もっと淡く、水色に近い色に綺麗だと感想も抱きはしたが、それよりも何で回路を開放しているのか方が気になる。


 剣聖がトレーをテーブルに置いたその瞬間───


 ──ガキンッ!


 剣聖が剣を鞘から抜き、斬りかかってきた。


 ソファーから尻を滑らせるようにして体勢を下げ、刀を振り上げる事で眼前で防ぐことには成功したが、元から間合いの内側にいたせいもあってかなりギリギリ。 後もう少し遅かったらそうなっていた事やら・・・。


 それも怖かったが、斬りつけてきた剣聖が優しそうな笑みを浮かべていることの方がもっと怖い。


 「あら、やっぱり防ぐのね」


 「・・・理由が分からないんだけど、なんで剣を抜いたんでしょう?」


 優しそうな笑みはそのままに、剣を鞘に戻し一礼をしてくる。

 剣さえ持ってなければ本当に聖女だと思わなくもないが、さっきの一撃でそんな考えはきれいさっぱり吹き飛んでいた。


 「ごめんなさいね、貴方がシンディーに勝ったって聞いたから気になっちゃって・・・、少しだけ試させてもらったの」


 「はぁ・・・」


 この世の中には意味の分からない事が多すぎる。実力を測りたいにしろ、いきなり斬りかかるってどういうこと?防げなかったら死んでるよね?


 「自己紹介がまだだったわね。 私はそこのシンディーと同じで聖装士の一人、リーザ・レイン。 剣聖レインなんて呼ばれることもあるんだけど、あまり好きじゃないから名前で呼んで頂けると嬉しいわ」


 「俺はローグ・ミストリアです。よろしくお願いします。」


 「あら、少し距離を感じる自己紹介ね? シンディーの知り合いなら私の知り合い良いってもいいのだからもっと気軽にして欲しいわ?」


 リーザの言葉は嬉しいのだが、初対面で砕けた対応っていうのも少しばかり抵抗がある。あるのだが、リーザの瞳の奥に殺気とは違う何かが俺に訴えかけてくる。


 ──気軽に接してくれないと・・・殺しちゃう・・かも?


 リーザがそう言っている訳ではない。それなのに、そんな言葉を投げかけられているような違和感に従う事にした。


 ───ガチャ


 「あぁ、分かったよリーザ。これからよろしくね」


 俺の勘に従うまま、少し砕けた感じで再度言い直すと同時に、部屋の扉を開ける音が聞こえた。自然と視線を移すと──


 「・・・ローグ? 私の耳が確かなら今日会ったばかりの姉様を呼び捨てにしやがったです?」


 片手にピッチャーを持ったローザがゆっくりと歩き始めていた。不思議な事にそこまで離れた距離にいるわけでもないの目の辺りが暗く、いつものローザとは常軌を逸した雰囲気を放っている。


 「あ、あぁ。いま自己紹介を──」


 事情を説明しようと思ったのだが、それを遮るようにこちらへと走り出すローザ。しかも、なぜか剣を抜くという不思議現象を携えて。そこに言葉などはなく、あるのはなぜか純粋な殺気のみ。


 (──えっ?ナニコレ?姉妹揃って人を見ると斬りたくなる病気だったりするの?)


 ローザは足に回路がない分、ゆとりを持って躱せるのだがその必要はなさそうだった。


 俺の目の前で唐竹斬りを披露しようとしたローザをリーザが剣で止める。


 「ローザ、いきなり斬りかかるなんて失礼よ?」


 (──それをリーザが言うのか!? )


 「姉様に無礼を働いたものを妹である私が許す訳ないです!!」


 正直な感想を言おう。 なんかもう、勝手にやってくれ。


 それからは雑談をしながら用意してくれた果実水とお菓子をつまみ、話しに花を咲かせた。リーザとシンディーは聖装士になってから同じ女同士として仲良くなっただとか、こんな事あったね、とかそんな他愛もない話だったが、その話をしている二人を見ると本当に仲がいいのが伝わってきて心が温かくなっていくのを感じた。


 やはり気兼ねなく話し、打ち明けられる存在は羨ましい。


 ただ、リーザが俺とメアリーの事をカップルだと勘違いしていた気付いた途端、シンディーはニヤニヤとし、勘違いをされたメアリーはあたふたとした時には少し笑ってしまった。


 ちなみにローザは絶賛、乳ずりに夢中である。




 ──コンコンっ


 「誰だ?」


 扉の叩く音にシンディーが答える。


 「聖王騎士団のトーマスと申します。グリモエル王より言付けを預かっております故、失礼してもよろしいでしょうか?」


 「いや、それならば私がそちらへ行こう。少し待て。」


 「はい。」


 シンディーが立ち上がり皆を見渡した後に「引き続きくつろいでくれ」と言い、扉へと向かっていった。


 少し談笑を楽しんでいるとシンディーがあからさまに面倒だという表情をひっさげ、戻ってくるなり ──


 「あ~すまん。私とリーザは呼び出しが入った。お前達は悪いがここでしばらく待っててくれ」


 シンディーの面倒そうな顔に、余分な事は聞くべきではないと、さっきまで乳ずりをしていたローザも素直にソファーへと座り直し、二人を見送ることにしたのだった。



 ***



 ~~~リーザ  point of view~~~



 「シンディー、呼び出しって何があったの?」


 「明日報告をする予定になっていた武装大会についての報告を今日聞いておきたいらしい」


 私達、聖装士はブラブラとしていた訳ではないの。今回私が技の国へ、シンディーが商の国へと向かったのには各国の武装大会を見学に行くため。


 各国の武装大会で特別力の目立つ者を選別し行う〝聖王杯〟への出場者を確認するためではあったのだけれど、今回はシンディーに勝ったローグがいるから報告がてらに話を聞きたいってうのが王の本音ってところかしら?


 「そう・・・」


 「それよりも奴はどうだった?」


 ちゃんと初撃の時に確認したし、教えるしかないわよね・・・。


 「そうね・・・。なんと言っていいか少し迷うのだけど、一言で言ってしまえば私でも分からないわ」


 「──はぁ!? お前の目でも分からないのか?」


 シンディーの言いたいことは分かるわ。貴方の目の回路であれば〝あれ〟はすごく異質に見えたのでしょうね。それも十分わかったのだけど。


 「見えたには見えたのだけど、それが何を意味して、何が原因とかはまるで分らなかったのよ。おかげで斬りつけたあと固まっちゃったわ」


 リーザは決して笑顔で斬りつけたのではない。剣を抜き、斬りかかるまでの間にローグ本人よりも魔素が先に動き、それに釣られるように反応した事に驚いたのもある。それに、あの一撃は受け止められる予定ではなかった。ただ寸止めをして、驚いている間に魔素の観察をしようと思ったの。そんな悪戯心からくる一撃だったのに。


 「言葉に表すならどんな感じなんだ?」


 「おかしいと思わないでね? ──私にはあの子を包む魔素が生きているように見えたわ」


 シンディーなら大丈夫だと分かっていても、やっぱりこの目で見たものを誰かに伝えるのはまだ怖いのね。



 ──本当に私は弱虫。



 人は誰だって自分と違う者を認めたりなんてしない。誰だって自分が〝普通〟で自分だけが〝特別〟でありたいと思うもの。それが子供の時なら尚更だっていうのは頭では分かっているの。頭では。


 それでも毎日石や汚物を投げつけられた日々は私を壊していくには充分だった。それでも踏ん張れたのは妹のおかげ。あの子がいるから、守らなきゃって思えたから。


 だから両親に捨てられても何とか生きてこられた。捨てられたのが十歳のころだったかしら?ローザがまだ五歳なのに、私だけじゃなくて妹まで捨てた事には憤りしか感じなかったのは、今でもよく覚えている。


 ──この目が無ければ。


 この言葉を言わなかった日は無かったと思うわ。


 だって当時の目の回路を持ってる大人でさえ、見えない物が私には見えてしまうんだもの。私が鑑定した鉱石が鑑定通りの結果を示したとしてもまぐれって言われて、それが嫌で鑑定しないと言えばほら吹きと言われて虐められる。唯一信じてくれたのは妹のローザだけだったわね。


 そんなある日、私は目の使い方を知ってしまった。


 私だけ虐めてくれてればよかったのに。妹のローザを囲み虐めていた場面に出会った。私が十三歳になって抵抗することも覚えたから、まだ十歳のローザにターゲットが変わったみたい。確かにローザも目に回路を持っているけど、私みたいな目じゃないのに何で虐められたのか、この時の私には理解が出来なかった。


 私はローザをかばうため、咄嗟に石の飛び交う中へと身を潜らせた。そしてなんでこんなことをするのか分からずに虐めていた人たちを見渡したの。

 その時、自分では気付かなかったのだけど、目の回路を開放していたみたい。愉悦や蔑みの表情で顔をいっぱいに染めた人達が面白がってまた石を投げようとした時に見えてしまった。

 どこに石が飛んで来ようとしているのか、いま私とローザどちらを狙っているのか、どの放物線を描いて飛んでくるのか、全部見えてしまったの。


 それからは一方的だったのもよく覚えているわね。


 同時に飛んできた石。

 四つの内二つを掴んで、残りの二つはローザに当たりそうだったから私の体に当たるように動いて、掴んだ石を投げ返した。そうしたら今度は「ばけもの!」と言って散っていたわね。


 それから鑑定もさせてもらえない、働き口もない私は木の枝で作ったレイピアの様なもので初めての武装大会に出る事にした。優勝までいけなくても予選さえ突破したら賞金が入るもの。それさえあれば妹にちゃんとした服も、ちゃんとしたご飯も、生きるのに必要なものが手に入るんだもの。




 そして初めての武装大会は三位。賞金で安い剣を一本買った後は生活費。


 二回目の武装大会では優勝。ここでやっと借家に住めるようになった。優勝賞金が一般の人の年収位出たのは本当に嬉しかった。やっと人間になれる、なんて思ったこともあったかしら?


 三回目の武装大会、もちろん優勝。ここで初めて聖王国からの使者が来て、聖装士にならないかと勧められた。驚きもあったし、動揺の方が大きかったかしら?


 でも聖装士の特権を聞いた私は迷わなかったわね。ローザが十三歳になったとはいえ、食べ盛りでもあるし、普通の家庭の様にちょっとした贅沢も出来るようになるんだもの、迷う必要なんて私にはなかったわ。


 聖装士になってから五年、生活もだいぶ改善されたし、この生活にも慣れた。ローザも以前よりだいぶ元気になって本当に嬉しい。


 それでもやっぱり、私達を虐めに導き、私達を生かしてくれたこの目の事だけは未だに好きになれないの。


 



 「生きている・・・?」


 「そう・・・見えたわ」


 「はぁ~。それはどう解釈していいか分からんな。なら考えるのは止めにしておこう。リーザが分からないのなら私達に分かるはずがないからな。今は先に王への報告を済ませるとするか」




 自然と笑顔になってしまうはしょうがないわよね?




 「ええ、そうね。さっさと報告を終わらせてお酒でも飲みましょう」


 「そうだな」






 どうも毎度お読みいただきありがとうございます。


 次話投稿は2020.06. 13(土曜)の昼12:00予定です。

 

 予定ではありますが、次週金曜日(2020.06.19)に十五話目投稿、その翌日にはあらすじ・人物紹介の投稿を予定しております。


 まだまだ未熟者ではありますがよろしくお願いいたします。

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