第106話 プロポーズすること、映画の如し
香の花嫁行列は、甲府の住民に囲まれながら躑躅ヶ崎館の前に到着した。
俺は板垣さんたちを引き連れて、門の前まで迎えに出た。
オープンカーが俺の前に停まる。
香と目が合った。
初めて会った時、香はゲッソリ痩せていたけれど、美しく成長した。
幼かった顔立ちは消え、成長期の少女が持つ子供から大人に入れ替わる独特の儚い美しさをたたえている。
そして香の目には力がある。
現代の日本から戦国時代の京都へ。
いきなり武田家に嫁いできて、金山の場所を言い当て、戦場を駆け回り、強敵と切り結び戦場の理不尽さを経験した。
全てをのみ込み乗り越えてきた自信が、香に力強さを与えたのだ。
(俺は香に釣り合う男なのだろうか?)
真っ白なウエディングドレスに身を包み光り輝く笑顔を振りまく香を見て、俺は少し怖じ気づく。
(いや、そうじゃない。釣り合う男になるんだ)
俺は香と一緒に戦国時代を歩んでゆくと改めて決意を強くした。
二人の未来のために戦うのだ。
俺がオープンカーに歩み寄ると、香が俺の方を向いた。
「ハル君! 見て! きれいでしょう?」
無邪気にはしゃぐ香を見て、俺は自然と笑顔になる。
「ああ、とてもきれいだよ」
俺はオープンカーのドアを開けて香をエスコートする。
羽織袴姿の俺はウエディングドレス姿の香をエスコートする様子は、現代人が見たらおかしいだろう。
けれど大事なのは気持ち!
お姫様を大切に扱いますよという俺の香への気持ちなのだ
香が車外に出た。
俺は背筋を伸ばして香を見る。
「香さん」
「はい?」
俺は懐から指輪の入ったターコイズブルーの箱を取り出した。
香が驚いて目を見開く。
ターコイズブルーの箱を開くと、プラチナの指輪に小さなダイヤモンドがちりばめられ、中央に美しくカットされた大きめのダイヤが光り輝いている。
「香さん。私と結婚して下さい。一緒に幸せになりましょう」
「わっ! ハル君! プロポーズしてくれるんだ!」
「最初に甲斐に来た時は、なんだかドサクサ紛れで結婚したみたいだったからさ。ちゃんとしようと思って……」
「嬉しい!」
「本当はひざまづいてプロポーズしたかったけど、立場上難しいから。立ったままで許して欲しい」
「ふふ、許してあげる」
周囲は俺と香が話している内容が理解出来ていないでポカンとしている。
完全に俺と香だけの世界だ。
俺は周囲の反応を無視して続ける。
「この世界に来てから不安があったけれど、香が一緒にいてくれてなんとかやってこれたよ。本当に感謝をしている。これからも一緒にいたい。幸せになろう」
「はい……」
香が頬を赤らめた。
俺は手にした箱から指輪を取り出した。
丁寧に箱を懐にしまい、香の手を取る。
白い手袋を外して、香の左手の薬指にダイヤモンドの指輪をゆっくりとはめた。
俺は用意していた言葉を香に告げた。
「ダイヤモンドの輝きは永遠。香への愛も永遠だよ」
「嬉しい! ありがとう!」
香が俺に抱きついた。
俺は香をお姫様抱っこして躑躅ヶ崎館の門をくぐる。
板垣さんが、後ろから声をかけてきた。
「御屋形様、香様、おめでとうございます!」
俺が香を抱いたまま振り向くと、通りにいる家臣、領民がみんな笑顔で祝ってくれた。
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」
「「みんなありがとう!」」
こうして香の花嫁行列と俺のプロポーズは無事に終った。





