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元勇者、子育てに奮闘する  作者: カランコロン
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元勇者と剣舞祭前編その2

……いつ剣舞祭に入るんだろう?

魔金剛(アダマンタイト)……。その意味を理解しているのか?」


先程までの笑いが消え、怒りに顔を歪めている商業ギルドマスター。冒険者ギルドと商業ギルドでは管轄が違うがお互いが無くてはならない存在だ。冒険者ギルドは商業ギルドの欲しがる素材、販路の安全確保、場合によっては冒険者その物の生活が掛かっている。商業ギルドは冒険者の手に入れた素材を買取、そのお金で管理下の商品を買ってもらい、宿に泊まり、金銭を回す。


その効果は1国家の規模に収まらず、どちらかのギルドが潰れれば少なくとも大国の一つや二つ、余波で共倒れになりかね無い。


だからこそ冒険者のランクは重要な役割がある。低いランクには低賃金の依頼を、高ランクには高価格な賃金を払う。ランクによって払う金額は変動し、その強さの指標になるのだから。


何より、魔金剛(アダマンタイト)はなりたくてなれるほど甘くはない。大量にいる冒険者の中で中級と言われる銀、金、金剛、その上に行くには個で圧倒的な戦果が必要だ。例を挙げるならミスティ・レイドが魔銀(ミスリル)に認められたのは何処ぞの国の国境で人攫いの組織を1人で壊滅させたからだ。その中に当時金剛だったミスティより上の魔銀(ミスリル)クラスの犯罪者が居り、その男の首をギルドに提出したのがきっかけである。


魔銀(ミスリル)ですらこれ程の戦果が必要なのだ。魔純塊(オリハルコン)なら更に小鬼の軍(王無し)を敗走させる程には強くないといけない。


そして、魔金剛(アダマンタイト)は最低5年間、計300件魔銀(ミスリル)クラス以上の依頼を依頼破棄無しで達成し、冒険者ギルドギルドマスター及び最低5カ国(その内商業国家、創世国、グランハイブ帝国の三国確定)の国王から許可を貰わないとなれないのだ。


当然ながら笠戸はどれひとつとて満たしていない。誰もが認める訳が無い。


だが此処に一つ抜け道がある。それは


「はい。魔金剛(アダマンタイト)クラス二名と模擬戦を行い、実力を示してもらおうと思っています。」


魔金剛(アダマンタイト)クラス二名との模擬戦、それを行い二名ともが認めれば魔金剛(アダマンタイト)になれるのだ。現に現魔金剛(アダマンタイト)クラスに1人その存在がいる。歩く者ライト・ウォーカーと剣の愛し子ウィリアムに戦いを挑み、2人に認められた存在、無血開城サルヴェル・ド・ファーストが……。


そう、嫉妬の魔王サージェは剣舞祭で毎年集まる黒獣と剣の愛し子を利用し手っ取り早く笠戸を魔金剛(アダマンタイト)にしようとしていた。


この計画は笠戸が契約書に署名してから考えたものであり、サキュバスを通じて笠戸の強さを何度か確認し、この強さなら黒獣と剣の愛し子ともやり合えると踏んで立てた計画だ。最近のサキュバスが一緒に同行していた理由でもある。当然ながら深い心労を味わったサキュバスに他の同僚は大袈裟と笑っていたが彼女のにこやかな顔(何時もは絶対に笑わない。)で詰め寄られ、「何なら……代わりますか?」の一言でヤバいと感じ取った者が多数出たがそれも仕方がないことだった。


強いての不安なら剣の実力がヴィゼとの戦いだけなので余りよくは分からないだけだが配下の剣士に見せたら戦いたくないと言っていたので相当と判断、この計画を実行した。


サージェの返答に商業ギルドマスターは怒りを消し、不信感の顔で笠戸を見る。見た目はそれなりに鍛えられた剣士、黒獣ガーランドや剣の愛し子ウィリアム程の威圧は無い。その考えはほぼ全員思っていた。場に集まった剣士18名、グランハイブ帝国国王、ダンジョン国家国主、商業ギルドマスター、神聖国家王女、創世国第三王子。


それら全員が怪訝な顔で見ていた。


だが、2人違う。


「ほう、俺に挑むか!」


1人は楽しげに、獰猛に、笑みを浮かべ、牙を剥き出しにし、威圧を放つ。ただそれだけで気の弱い第三王子は気を失い、王女は歯を食いしばって耐えていた。他の代表達は冷や汗一つ書いていないが内心驚いている者もいる。


集められた剣士も何割かが膝を付きそうになり、慌てて耐える物者もいる。(獣人は嬉々として膝を付いている。)


だが笠戸は気にしない。他の者に取っては脅威となる威圧でもこの程度としか感じない。元々成した事が違う。あの世界で召喚されてから一般人だった彼は死にかける事など当たり前の日々を過ごし、七人の魔王を殺し、堕ちた聖女を殺し、神の尖兵を倒し、そして神殺しを成した。


過ごした悲劇が、起きた災難が、見てきた地獄が、味わった苦痛が、乗り越えたそれら全てが今の笠戸を作っている。たかがこの程度の威圧で揺るぐことは無い。


それを確認した黒獣ガーランドはより楽しげに笑みを深め、威圧を消した。


誰もが一息、吐く。それは笠戸でも同じだ。


だが


「きみ、ふしぎだ。」


その隙を付くように、剣の愛し子ウィリアムは全ての剣の手入れを終わらせると笠戸の横から覗き込んでいた。


身長は150もあるかどうかの低身長、だが顔立ちは整っており金髪碧眼の瞳はしっかりと笠戸を捉えている。髪は短くざっくらばんに切り整えられており、服装は被弾を考えていない普段着にしか見えない何処にでもありそうな服。


ホビットと人間のハーフ、それがウィリアムだ。だが持っている剣は下手したらウィリアムより長いのも有る。どう戦うのか笠戸は初見では分からず、それよりもいつの間にか近寄って来ていた事に(油断してたか?)と謎に思う。


だがウィリアムはそんな笠戸を気にせずにじっと笠戸の眼を覗く。そして


「うん。ふしぎだ。剣を持ってないのに。剣を握ってる。」


そう言い残し、改めて20本の剣を帯剣させたウィリアムは退室した。

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