転!(絶対にこの子様子おかしい!?)※ここまでは安心して読めます
「あら……?あらあらあら?」
私は首をかしげながらハナちゃん達を覗き込みました。
胸がドキリとして、少しだけ声が震えます。
「今日はなんだか……ずいぶんと落ち着いた色合いをしていますね?
そのカサカサした見た目……もしかして、新しいファッションですか?」
愛しのハナちゃんはかつての瑞々しさをすっかり失い葉も茎もくすんだ茶色に
丸まっていました、私の呼吸が浅くなり、不安になりながら
急いでネットで買った愛用している霧吹きを手に取ります。
指が滑りそうになるのを抑えて吹きかけ続けます。
シュッシュッ!とリズム良く、何度も、何度も。
「さあさあ、元気になって!ハナちゃん!
私の熱い吐息で光合成を促してあげますからね!
はぁーっ、はぁーっ…はぁぁーっ!!」
近くで吐息を吹きかけてあげます、いつもならこれで元気になりますが
いつもと違い、反応はありません。
「…あれ?……ふふ。なるほど、そういうことですか」
私は、なぜか少し安心したように微笑みました。
「さてはハナちゃん、ここまで元気に育った反動で……
思いきって、『冬眠』を選んだんですね?」
指先が驚くほど冷えていて、いつもと違う自分に気づきそうになり
目の前の『乾燥した命』を抱きしめようと思わず腕を伸ばしました。
満面の笑みを浮かべたまま…私は乾ききった茎にそっと触れ――
〝ぱきっ〟
と乾いた音を立ててそれを折ってしまいました。
「……………」
一瞬の沈黙。
「……あはっ、そ、そうですよね…形あるものは
いつか枯れる。それが…自然の摂理です」
ぱっと顔を輝かせました。
「じゃあ標本作りのお時間ですね!」
まるで図鑑を読み上げる様な声で続けます。
「この一番きれいな瞬間を、永遠に閉じ込めてしまいましょう!」
ルンルン気分で部屋中を歩き回りこれまで大切に育ててきた枯れた植物たちを
集めていきました。宝箱を開ける時のようなときめきを胸に、
部屋中を動き回ります、一つ、また一つと、優しく。
針でぴんっと固定し、防腐剤を塗り、透明な樹脂の中にそっと沈めていく作業。
〝慣れた〟手順は驚くほどスムーズです。
「あぁ……素敵……」
透明の中で静止したそれらを眺めながらうっとりと息を吐きます。
「こうすれば貴方たちはもう、迷わない。動かないし、喋らないし……
ただ、ここにずーっと在り続けるだけ!」
「私がずっと、ずっと見ていられる……完璧な芸術品です!」
頬を赤らめながら震える手で最後の一針を刺した、そのとき。
「……あ!」
ふと思いつきました。
「そうだ!ハナちゃんたちの〝成果〟ちゃんと残しておかないとっ!」
私は作業台の端に集めてあった、ハナちゃんが残した赤い果実の名残や
よくわからないけれど〝効きそうな〟栄養剤
そして標本化の過程で出た、小さな欠片をニコニコ眺めます。
「……もったいないですよね?」
それらを、私はためらいなくミキサーに入れて
考えるより先にスイッチをポンッ!
ガガガガガッ!と景気のいい音が部屋に響き渡ります。
「ふふ……。
元気の素を、ぎゅーっとまとめて……」
ミキサーの中で、色と形が混ざり合っていきます。
「完成ですっ!」
私はグラスに注ぎながら、焦点がズレた目でグラスを眺めます
どろりと濁った液体はなぜか、キラキラ光って見えました。
「これを飲めば私も…ハナちゃんたちみたいに…ちゃんと元気でいられるはずです」
震える手でグラスを掲げ、うっとりと眺めます。
鼻をくすぐるのは芳しさと甘さと
少しだけ重たい強烈な香りが鼻腔を突きます。
私は、迷いなくそれを飲み干しました。
「…………ッ!!」
喉を焼くような熱。
全身にジワりと広がる妙に力強い感覚。
「ふふ…あははははっ!!すごい……すごいです!ハナちゃん!!」
「私、今…最高に…最高に〝植物みたい〟……っ!!」
幸福感に身を任せ標本たちに囲まれた部屋の真ん中で
ふわっ、と体が軽くなって、そのままゆっくりと横たわりました。
「これで…これで私も、皆が元気になるまで……ちゃんと、頑張れ……そう……」
その顔はどこまでも幸せそうでした——。




