激昂
デルが死ぬ一分ほど前。
ミサは窓の外から男を見つめていた。
彼女の能力は眼圧。
見つめたモノの動作を遅くする能力だった。
「惜しいですっ。もう一歩でした」
小声で愛が言った。
「ええ。でも次で決めてくれるはず」
ミサがそう返したその時、愛がミサの服を引っ張り呟いた。
「やばいです。もう一人いました」
「えっ?」
ミサが横を向くと、自分たちと少し距離を取ったところに、スラッとしたニット帽の男が立っていた。
男は爬虫類のような肌感をしており、顔はトカゲを思わせた。
ミサが身構えた時、男はニット帽を脱いぎ額の三つ目の瞳を曝け出した。
その姿に驚いたが、ミサはすでに自分の能力で男の動きを鈍らせることを始めていた。
そんな時だった。
愛が叫んだのは。
「ミサさん!」
その声のおかげか、自分の足の違和感に気付いた彼女は足を見る。
すると着ているズボンごと、くるぶしの付近まで石化していた。
「何これ?石?」
彼女は足を動かそうとするが、筋肉に信号が伝達していないのか、膝あたりまでしか力が入らない。
その様子を見ながら、男はゆっくりと近づき出す。
しかしふと何かを疑問に思ったのか、少し進んで足を止めた。
「君、なぜ俺を見ているのに固まらない?」
どうやらその言葉は、愛に向けられたものだった。
ミサはその言葉を聞き、男の能力が自分と逆の見られて発動するモノだと、瞬時に仮説を立てた。
そしてわざわざニット帽を脱いだことを思い出す。
「愛ちゃん!そいつの目を見ちゃダメ!」
額の目だけなのか。それとも全ての目なのかはわからないため、彼女は目とまでしか言わなかった。
「分かりましたッ」
そう指示は出したものの、ミサは私たち二人だけでは男を倒せないと考えていた。
彼女の能力は完全サポート型。
愛はAIで体は義体。
戦える戦略ではない。
部屋の中を見る。
するとそこにはデルを優しく抱えて座る、ルカの姿が見えた。
何かあったことは明白だった。
ただ彼女はひたすらに生き抜くために、視線を男の足元に集中し時間を稼ぐことにした。
「この感覚。君らのどちらか、能力を使っているな」
そう言った男は違和感の感じる足を、ゆっくりと動かし出す。
ミサの能力は、対象が自分に近ければ近いほど強くなる。
男は次第に重く鈍くなる足に歩みを止めた。
二人への距離は後10歩ほど。
「近づくほど重くなる。気持ち悪い感覚だ。君、俺と同じような目の能力だろ。なら、これが見えるか?」
男は足元に小さい何かを置いた。
不意に置かれたそれをミサは見てしまう。
鏡だった。
そして鏡越しに男の顔を見たミサは、足の違和感が上がってくるのを感じ、つい目を閉じてしまう。
その瞬間男の足音が聞こえ、ハッとしてすぐに目を開くと、愛が近づく男に向かって思いっきりタックルしていた。
彼女は愛を止めようと手を伸ばしたが、足のせいで前のめりに倒れてしまう。
「ッ、待って―」
バリンッ!
「愛ちゃんッ」
愛は男ともに部屋の中へ、窓ガラスを破り侵入した。
「ルカさん!ミサさんが!」
愛はそう言うと片方の手、肘から先の形状を変化させて作っていた刃を使い、男を切りつけた。
しかし戦い方など全くの知らない素人の一撃を、男は何なくいなすと、愛を蹴り飛ばした。
「ふう。それが君の能力か?」
「そ、そう、です」
愛はそう答えたが、正確には愛の能力ではない。
形状変化は義体の能力で、それは愛の記憶の中にあるものに姿を変えられた。
実際の愛の能力は、特定のものに意識を移せるAIインストールだった。
「テメェら、絶対許さねぇ」
強い意志を感じる声をルカが発した。
彼は消失の始まったデルの体を少し見つめた後、バチバチと音を鳴らし出した。
「もう見飽きたぜ、それ」
「おいデスサイズ気をつけろ。窓の外の女、あいつに見つめられると体の動きが鈍くなるぞ」
「ほう。あの女のせいだったか」
そう言いながら、女を見つめる男の視線の間にルカが立ち塞がる。
「お前の相手は俺だ」
「そう睨むなよ」
大鎌をしまいながら男は嘲笑まじりに言った。
そんな男にもう一人が指示を出す。
「俺はこっちの女の相手をする。あの女の視界に同時に入らないよう、左右に分かれて戦うぞ」
「オオケェ〜」
二人の男はミサの視界に同時に入らないよう、彼女をだいたい真ん中に置き左右に分かれる。
「ミサッ、俺の方はいい。愛ちゃんの方をサポートしてくれ」
「分かった。でも気をつけてっ。あっちの男の目を見ちゃダメ。体が石になる」
「分かった。愛ちゃん、何とかそいつを抑えといてくれ。俺はあいつを殺す」
「はいっ、了解です」
そうは言ったものの愛は、無いはずの心臓の張り裂けそうな感覚を感じていた。
「じゃあ行くぜッ」
ルカが鎌の男に向かって高速で突っ込み、目前で止まった。
しかし勢いを完全に殺したわけではなく、上半身を捻り、加速分の勢いを乗せたパンチを繰り出した。
驚いた表情をした男の顎にそれはヒットする。
バチバチッ。
少しのけぞった男に間髪入れず、短いステップに能力を使い重い膝を喉に打ち込んだ。
すると男は声にならない声を出し、その場に膝を着いて蹲る。
バチバチッ。
その男に対しまた短いステップで能力を使い、サッカボールキックで頭部を蹴り飛ばした。
男は攻撃の痛みと呼吸の出来ない苦しみで、今にも死にそうな顔でルカを見上げている。
「どうした?」
バチバチッ。
「俺の攻撃は効かないんじゃなかったのかッ?」
男の顔面にもう一度サッカーボールキックを見舞う。
男はなんとか片手でガードしたが、脳まで響く衝撃があった。
そしてなんとか距離を取ろうと男は動くが、ルカは張り付いて決して距離を取らせない。
バチバチッ。
男はなりふり構わない大ぶりの拳を放つ。しかしルカは軽くいなすと、また重い膝を鳩尾に食らわせた。
もう男には喋る余裕どころか、呼吸する余裕すらなかった。
「立てよ。蹲ってちゃ、テメェの苦しむ顔が見えないだろ」
バチバチッ。




