二人
金髪の男、デルが横に一歩ずれると床に吸い込まれた。
「またこれか」
男は周囲と頭上を確認する。
しかしいつまで経ってもデルは姿を現さない。
「どこい―」
周囲を警戒していた男は、さっき確認した方向にいつの間にか現れていたデルに、鶴嘴のような武器を振り落とされる。
「ッ!!」
肩口に当たりかけたその一撃を、男は瞬時に腕を曲げ、前腕部分で受ける。
そのまま男は、デルに体重をかけられ片膝をつく。
鶴嘴に前腕を貫かれた男は、白い体を赤く滴る血で染めていく。
「イッテエエなあああああッッ!!」
鋭い目つきで見上げる男に、デルは語りかける。
「随分頑丈な体だな。軟い体なら、腕が千切れてたんじゃないか?」
「テメェ」
「俺を睨む暇はないぞ。殺人鬼」
バチバチッ。バチバチッ。
音のする方に男が視線を向けると、そこにはルカが立っていた。
そして次の瞬間には、胸元にサッカーボールキックを食らっていた。
すると刺さっていた鶴嘴は抜け、男は床に転がり吸い込まれた。
そして、そこそこ高い天井から現れ、床に叩きつけられた。
その確認をしたデルが、鶴嘴を掲げながら言った。
「抜いてくれて助かった」
「まだ気ィ抜くなよ」
「分かってる」
右手に感じる熱、血の匂い。打撲の痛みの数々。
その全てが笑顔と言う表現に出ている男は、ゆっくりと上体を起こすと一言言った。
「ムカつくけどよぉ。楽しいなあ、おいッ」
「行くぞ」
「Digるぜ」
バチバチッ。
デルがまた近くの穴に消える。
「もうそいつは、効かねええッ!」
男は左手に大釜を持ち出し、自分の周りの床を円を描くように削り飛ばした。
そして視線をルカに向け、鎌を手放す。
次の瞬間身をかがめ、高速で突っ込んできたルカの膝を躱し、蹴り足とは逆の足首を掴み、振りかぶるように勢いよく床に叩きつけた。
その衝撃にルカは血を吐く。
そして男は背後の気配に、ルカを振り回すようにし対応、デルを薙ぎ払った。
二人は揃って飛ばされ、床に吸い込まれる。
ルカはすぐに男の背後の天井から現れた。
しかしデルはルカの落下地点近くの穴から現れ、彼をキャッチした。
「お前は自由に穴を選べるんだな?」
今の様子を伺っていた男は、デルを指差しそう言った。
「そしてお前は多分、俺の仮説だが、吸い込まれた後、出てくるタイミングも決めれるんだろ?」
「さぁね」
男の言葉を肯定はしなかったが、実際は全て当たっていた。
「んで、お前。バチバチうっせえ方。テメェはかなり速く動けるが、毎回迫ってくる速度が同じだな。細かく調整できないんだろ?だからタイミング掴んで、攻撃場所予測すりゃ大したことねぇ。どうだ、違うか?」
男はニヤニヤとしている。
「そんな風に推理するのがお前の能力か?」
ルカはデルの肩を借り立ち上がる。
そして一瞬だけ窓の外、細く長いベランダの方を確認した。
「なら、次の一撃でその推理、合ってるか間違ってるか確かめてみな」
「面白い。来いよ」
男はくいくいっと、人差し指で挑発気味に合図する。
バチバチッ。バチバチッ。
「デル、今アイツに一番近い穴はどこだ?」
「めちゃくちゃ近い穴は無い。アイツが床ごと削り取ったからな。だから今作った」
そう言ったデルはルカの背中を叩き、服の背中部分に穴を設置したことを悟らせた。
「おもしれぇ。ミスんなよ」
「ああ」
「どうした?こないの―」
男の言葉を遮り、ルカは一気に距離を詰める。
完全にタイミングを掴んでいる男は、対処の動きに入ろうとし異変に気づいた。
体の動きが鈍い。
またこれかと男が思っている最中に、ルカのミドルキックが男の腹に食い込んだ。
そして、くの字に曲がる男の背中目掛け、ルカの背から現れたデルが鶴嘴を振り翳した。
しかし背中に突き刺さる寸前で、大鎌の刃が鶴嘴と背中の間に現れそれを防いだ。
「くそっ」
そして男は大鎌を掴むと横一線、振り抜いた。
しかし二人は距離を取り、なんなくそれを躱わす。
「どうだ?推理は当たったか?」
「なんだ。なんで体が―」
「お前は俺に蹴られすぎたんだよ」
「なに?」
「俺の打撃は蓄積する。食らえば食らうほど、体は重く鈍くなる」
男は顔を歪める。
どうやら自分の体に何かがまとわりつくような感覚が、心底気持ち悪いようだった。
「次で終わらせる」
バチバチッ。バチバチッ。
男が苦虫を噛み潰す表情をした、その時だった。
「ミサさん!」
ヒビの入った窓ガラスの外、愛の声が響いた。
その声に室内にいた三人の注意がそちらに集中する。
するとそこには愛とミサ。そして二人にゆっくり近づく男が確認できた。
「ミサッ!」
焦ったルカが窓に向かい走り出す。
「ルカッ」
デルがその背中を注視した僅かな時間ののち、視界の端からいつの間にか男が消えていることに気づいた。
慌てて辺りを見回すと、天井に吸い込まれる足だけが確認できた。
そして瞬時にデルは男の狙いを把握した。
窓が目前に迫ったルカ。
その右斜め背後に男は現れた。
さっき二人をそろって飛ばした時の穴。
その後ルカが天井から現れた時の穴。
二つが繋がっていることを確信して、男は自ら見えない穴に飛び込んでいた。
ルカは男のワープに気づいていない。
その背中に男は大鎌を振り下ろした。
グサッ。
見事に大鎌は鶴嘴を切り裂き、デルの胸を貫いた。
その気配に振り返ったルカの体に、大鎌の刃が抜けたデルがのしかかった。
「つぅ……あ、あ、デル?」
デルはむせるように血を吐くと、ルカの顔に触れ笑った。
「ごめん……しくった……」
「おいっ。デル?デルっ?おいっ!」
激しく体を揺さぶるが、デルは閉じた目を一向に開けない。
この時、窓の外も騒がしくなっていたが、彼には気づくほどの余裕は無かった。
「嘘だろ!おいっ!」
「うるせぇよ。もうそいつ死んだんだよ」
「なに、言ってやがんだテメェ。デルが死ぬわけないだろ」
目に涙を溜めたルカの声は震えていた。
「はあ。ちょっと待て。そいつはデルって言うのか?じゃあ、デルが死んでるってことか?あははははははははッ」
「……テメェ」
俯いたままルカは小さく呟いた。
そしてデルを優しく床に寝かすと立ち上がり男を睨みつけた。
その目には涙はなく、あるのは怒りだけだった。
バリンッ!
そんな二人の横に窓ガラスを突き破り、愛が男に抱きつくような形で入ってきた。
「ルカさん!ミサさんが!」
その言葉に背後を確認したルカは目を見開いた。
そこには四つん這いになっているミサがいた。
しかしそれだけならそこまで驚かなかっただろう。
なぜ彼が驚愕したのか。
それは彼女の足、くるぶしから下が石化していたからだった。




