戦いに酔う
7月19日。岩手県。雫石町。ホテル華人。夜。
ボロボロの施設。今では廃墟になったその一室で、一人の男が立っていた。
すると、その男の元にもう一人ローブ姿にフードを被った男が現れ、向かい合うように立ち声をかけた。
「まさかとは思ったが、お前生きてたのか?グラヴィティ」
グラヴィティ。
それは神奈川で、神にやられた魔族の名だった。
「今までどこにいた?」
親しげに話しかけてくる男に対し、元々立っていた男は無言を貫いている。
「どうした?なぜ無視をする?」
男はフードをとりつつ、さらに近づこうとし足を止めた。
「お前、グラヴィティじゃないな」
男はローブを脱ぎ捨て、細くも筋肉質な白い体を露わにすると、大鎌を空間から取り出し構えた。
その時、踏んだ床に仕掛けられた罠が作動し、男の体は見えない穴に吸い込まれた。
「ウワアアッッ!なん―」
穴に吸い込まれた男は、同じ建物内の狭く長い廊下に現れた。
天井から落ちるように着地した男が、状況を理解しようとした時、廊下の先がバチバチと音を立て激しく光出した。
「G戦場のライトニング」
男は次の瞬間、思いっきり顎に膝を食らい大鎌を手放す。
膝の衝撃で後方に吹っ飛んだ男は、後方の壁にまた設置されていた穴に吸い込まれる。
そしてさっきと同じ廊下の反対側の天井から出現し、背中から叩きつけられるように廊下に落ちた。
「ぐはあッッ!」
バチバチッ。バチバチッ。
ゆっくりと上体を起こす男。
その後頭部に、先ほどと同じようにルカの膝が突き刺さる。
あまりの威力に、男は前転をするように転がった。
そしてまた壁に設置された穴に吸い込まれる。
今度は最初の時と同じ方の廊下端。しかしさっきよりも壁に近い位置にワープし、顔から床に落とされた。
「グハッッッ!」
バチバチッ。バチバチッ。
這いつくばる男目掛け、三度目のルカの攻撃は放たれた。
しかし男は獣のように四つん這いで、突っ込むようにして近くの壁を突き破り、ルカの攻撃を躱わした。
ガラガラパラパラと音を立て崩れた壁の先は部屋になっており、男はそこで静かに立ち上がった。
「このまま膝ハメで終わらすつもりだったんだけどなぁ。やるじゃん」
崩れた壁を跨ぎ、ルカが部屋に入ってきた。
「お前、Deletarだな?警告も無しか?」
「警告?したぜ。聞こえなかっただけだろ?」
「ハッ、こいつはとんだ―」
バチバチッ。
音に気づいた男はすぐに身構える。
そして男は間一髪、ルカの高速の前蹴りを躱すと、Ritualを発動させた。
「背死神ッ」
男の手にはいつの間にか大鎌が握られていた。
「それがお前のRitualか。体に見合ってないんじゃねぇか?」
「ほざけよ三下」
じりじりと二人は、互いににじり寄る。
すると急にルカは、吸い込まれるようにして姿を消した。
「こっちだ」
男の真上から現れたルカは、落下しながら男の鼻っ柱に蹴りを入れた。
「ぐはあッ」
男はバランスを崩しながらも、大鎌を勢いよく横に振り抜いた。
それを身を低くし避けたルカは、バチバチとまた足を光らせ、男に防御の隙も与えず一気に鳩尾に膝を叩き込んだ。
そして、くの字に体を曲げた男の頭を掴み膝を入れ、その衝撃で上がった顔に回し蹴りを食らわせ吹っ飛ばした。
そして男は倒れた床に吸い込まれる。
するとルカの後方の天井から、背中を下にし大の字の体勢で男は現れた。
それが分かっていたかのように、ルカはすでに向き直っており、攻撃の準備に入っている。
それを確認した男は床に落ちる前に、体を翻しつつ、片手でルカに向かい大鎌を投げ飛ばす。
しかしそれをサッと躱したルカは、四つん這いになった男の頭目掛け突っ込み、サッカーボールキックを見舞った。
が、男はすんでのところで両手でガードし
後方に吹っ飛んだ。
ズサザザザザーッ。
「イッテエエ……ハハ、ハハハッ」
吹っ飛ばされた男は満面の笑みで笑い出した。
「何笑ってんだよ?」
「いや、ハハハ。やっぱ頭だよなぁ。狙うなら」
男は自分の頭を人差し指で、つつきながら立ち上がった。
「今あえて頭狙わせたの気づいたか?おいッ」
「ふ。どうやら今の蹴りで脳みそ、逝っちまったみたいだな」
バチバチッ。バチバチッ。
「こいよ。お前の攻撃はもう効かねぇ」
男の言葉に多少なりとも不信感を抱きつつも、ルカは一気に間合いを詰め、勢いのままに前蹴りを仕掛けた。
しかしその蹴り足を脇に抱えられてしまった。
ルカの驚いた顔を見た男は得意げに言う。
「やっぱここだよなぁ。警戒してる相手には、的の大きい胴体、狙うよなあぁ?」
ギラついた目に笑みを浮かべた男は、抱えた足を両手で掴み直し、振り回すようにしてルカを投げ飛ばした。
するとルカは床に吸い込まれ、部屋の天井から現れた。
そしてルカの目の前にはすでに、ニヤついた男の顔があった。
「ッ!?」
「やっぱここだよな」
ルカに空中で右左と二発ボディを入れた男は、片腕をルカの首元に回すと、そのまま反転し後頭部からルカを床に叩きつけた。
「ぐあッ!」
そのままマウントを取った男は、ルカの顔目掛け拳を振り落とす。
その拳を両手でいなしたルカは、男を払いのけ転がるようにして距離を取る。
男はその様子を見ながら、楽しそうに愉快にしていた。
「へっへっへっへ。ベェー!ハッハッハッハッ。やっぱ戦いは楽しいなぁ。お前もそう思うだろ?」
「うるせえよクソがッ」
「ヘッヘッ」
ルカはゆっくり立ち上がると首を回し言った。
「戦うのがそんなに楽しいか?」
「ああ」
「じゃあ、第二ラウンドの舞台に、案内してやるよ」
バチバチッ。
「ほう」
「行くぜ」
ルカは一気に間合いを詰める。
男はまたこれかと思い対応しようとしたが、体が思った通りに動かなかった。
まるで何かに絡まっているかのように、男は体の鈍さを感じていた。
その隙をつき胴体に掴み掛かるようにタックルしたルカは、そのまま男を抱え壁を突き破り、廊下を越え、さらに壁を突き破り逆の部屋に到達。そこで男を床に叩きつけた。
すると男に衝撃はなく、吸い込まれる感覚を覚えた。
「待ってろ。すぐ行くからよ」
そう吐き捨てたルカを視界にとらえつつ、男はまた穴に吸い込まれた。
またも天井から現れた男は、身を翻し綺麗に着地した。
「ここは?」
男は先ほどよりも天井が高く室内も広い、あまり物が散らかっていない空間に立ち尽くす。
するとそんな男に誰かが声をかけた。
「ようこそ。殺人鬼」
部屋の入り口から一人の男が靴音を鳴らし入ってきた。
「ここがお前の墓場だ」
「誰だお前?」
「うーん。お前の死神ってとこかな?」
「死神だと?」
男はそう言うと、また大鎌を取り出した。
「俺の方がよっぽど死神だろ?」
「確かに。じゃあやっぱ俺は死神じゃねぇわ。ディグラーだ」
「ディグラー?」
「ああ。今から俺は―」
彼は長い金髪をかきあげ言った。
「Digるぜ」




