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第031話 便秘で死にそう

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

ロスレス・ソージョー……女児服女装の国家魔術師。

「暑すぎるぅ~」


 馬車をおりたサオに、ぎらぎらとした強烈な太陽光が降りそそぐ。

 真夏。

 国王カイメンパールが光を尊ぶナマバ教に傾倒しているため、王都にはいたるところに松明が置かれたり、石畳などの白い物が光を反射していたりと、暑さを増長する要因であふれている。


「朝から、この調子なんだもぉん。昼はどれだけひどいことになるのかなぁ。考えただけで疲れちゃうよぉ」


 だったら、すずしいところで日中を過ごせばよいのに、サオはよりにもよって大勢の人が集まる場所へ行こうとしている。

 行き先は、国家魔術師試験の会場だ。


「緊張するねぇ……?」


 サオは後ろを振り返る。

 今ちょうど馬車をおりたアナコンダに問いかけたのだが……


「ううう……」


 明らかに体調不良だった。

 顔が青ざめ、だらだらと汗を流し、苦しげな表情。

 炎天下の道を爪先立ちでよちよち歩きする。


「ね、熱血だー……」


 そして声に張りがない。


「まだ回復しないのぉ!?」

「よ、余裕だぜ……」

「余裕なんてないじゃぁん! んもぉ~。バカなんだからぁ!」


 サオがアナコンダをどつけるのは、決して命にかかわる症状ではないから。

 その点だけは安心できる。

 では、アナコンダに何が起こったのか?


「今日も出なかったんでしょぉ?」

「おう……」


 要するに、便秘。

 と言うのも、ここ数日のアナコンダはとにかく食いまくっていた。

 あの日――

 プリケッツゴールド王子の誘拐未遂が発生した後、宮殿へ持ちこんだケーキを、


「持ち帰れ」


 と命じられた。

 もったいないので王都の人々と一緒にたいらげた。

 それからというもの、


「ケーキ作りで疲れたから」


 と言って、毎日爆食いした。

 食事の量に比較して水分が不足していたり、座学ばかりで運動が不足していたり、こうした生活が便秘に拍車をかけた。

 挙げ句、試験当日の朝。

 チッチが、


「大事な日だから控えめに」


 腹へ入れるのは、おかゆと野菜ジュースだけにするようすすめたにもかかわらず、アナコンダは、


「大事な日ほど食わなきゃ!」


 殴られても食い散らかした。

 その結果が、これ。

 御者が心配した様子で、


「いったん屋敷へ帰った方がいいんじゃないか?」

「そんなわけにいかないぜ……」


 アナコンダはわがままだけで強情を張っているのではない。

 国家魔術師試験は筆記と実技に分かれる。

 午前におこなわれる筆記試験をパスした者のみが午後の実技試験を受けられる仕組みになっている。


「いったん屋敷へ」


 帰るということは、すなわち試験失格を意味する。

 次のチャンスは1年後。

 それも、開催されるかどうかもわからない。


「あきらめられるわけないんだ……」

「じゃあ、さっさと出しちゃいなよぉ!」


 サオがアナコンダの下腹部をぱしんぱしんとたたく。

 いつもだったら、お腹の中にいるニョルモルモが、


『なんやなんや!? この子、わしのことしばき殺すつもりかいな!?』


 あわてふためいていただろう。

 しかし、今日、ニョルモルモはアナコンダの体内にはいない。


「クソがつまりまくってて入れたもんやないで」


 直腸に入らずにすんだことを、ポケットの中で喜んでいる。

 ニョルモルモにとっては朗報でも、アナコンダにとっては、かなりまずい。


(ニョルモルモに試験問題を解かせらんないし、奇跡的に筆記試験を突破できたとしても、ニョルモルモ抜きじゃ俺は魔術が使えない……)


 これらの問題を解決するには、


「とにかく出さなきゃ……!」

「ふえぇ~! アナコンダくぅん。こんなところで気張らないでぇ!」


 大通りのど真ん中だった。

 サオはアナコンダを引っ張って会場へ入った。

 すでに多くの受験者が到着。

 ざっと見渡しただけで二百名は下らない人数がいるようだ。

 人ごみをかきわけて歩くと、アナコンダはよろよろ、ひょろひょろ。

 放っておくと人の波に飲みこまれ、踏み潰され、床にへばりついたゴミのようになりかねない。

 サオのおかげで、割り当てられた席へつくことができた途端、


「はあ……」


 机の上に突っ伏してしまった。

 まったくもって覇気がない。

 体の中で余計なものが渋滞している感覚を、


「出したい……出ない……苦しい……」

「もうすぐ試験なのに、どうするのぉ?」

「うー……」

「うーじゃなくってさぁ」


 アナコンダ自身もさすがに、


「ヤバイ……」


 ことは自覚している。

 が、どうしても出そうになかった。

 ポケットの中でニョルモルモが、


「ちょうどええ機会や。国家魔術師になる夢なんか捨ててしまえや」


 へらへら笑っていた時。


「どうしたの?」


 ふと、話しかけてきた人がいる。

 ふわっとした茶色のミディアムヘアーに、地味な服。

 ズボンにゴム底の靴という動きやすそうな格好をしており、手には杖をつかんでいる。

 彼女も受験者だろう。

 容貌からすると20代だろう。

 念のため説明しておくと、成人が国家魔術師試験を受けることは決して珍しくない。

 むしろアナコンダやサオのように、わずか10歳で試験に臨む方が異常だ。

 さて、彼女がいかにも優しそうな声音で話しかけてくれたものだから、サオも気さくに、


「この人、便秘で死にかけてるんですぅ」

「そりゃ大変ね。いつから出てないの?」

「もう1週間ほどはぁ」

「そんなに!? 今すぐ治療が必要よ!」


 すると、この女性、アナコンダに向かって杖を構え、


電気按摩(エガッサム)!」


 放たれた電気はアナコンダだけでなくニョルモルモまでをもびりびり感電させる。


「んほおおぉぉおぉっ……!」


 サオは理解に苦しんだ。


(攻撃ぃ……!?)


 と思ったが、それにしてはアナコンダの様子があまりにも気持ち良さそうだったのだ。

 数秒後。

 電気から解放されたアナコンダが突如として立ち上がった。

 真剣な眼差しで、


「トイレはどこだ!?」

「ア、アナコンダくぅん! もしかしてぇ!?」

「おう。来たぜ! 便意ってやつが!」

「トイレはあっちぃ! がんばってぇ!」


 アナコンダは走り出した。

 廊下には人がいっぱいいたが、アナコンダの鬼のような顔を見ると、


「ひっ……」


 びびって道をゆずった。


「うおおおぉぉぉお! 熱血だー!」


 便所へ駆けこんだアナコンダは目にもとまらぬ速度でズボンとパンツを脱ぎ、すさまじい勢いで排便した。


「ふう……」


 便座に座り、無言でうなだれる。

 あまりの心地よさに放心しているのだ。


「な、なんや、あのねーちゃんは……」


 ニョルモルモがポケットからはいでてきて、


「びびびってやられた瞬間、わしも腸を刺激されたで。ああ。もう出そうや。ほな、わしもいっちょかましたるか」

「よし」

「うぉい!?」


 用を足そうとするも、アナコンダにむんずとつかまれる。


「おい! やめや! わしもクソしたいんや!」

「今日の試験、よろしく頼むぜ!」

「嫌や! わしはもうあんな臭いとこに挿入りたない!」

「んっ……ふうん……」

「話を聞けや! 変な声を出すな!」


 アナコンダは問答無用で、拭いてもない尻穴へニョルモルモを挿入した。

 予鈴。

 それと同時に、


「間もなく試験開始です」


 試験官の声が聞こえた。


     *     *


「余裕で熱血!」


 筆記試験が終了。

 ほとんどすべての受験者が頭を抱えて絶望している中、アナコンダは高笑い。

 試験前とは打って代わり、アナコンダはすっかり元気になっている。

 が、実際のところ、がんばったのはほとんど、


『わしやないか!』


 下腹部でニョルモルモが抗議した。

 試験問題の大半を解いたのはニョルモルモだった。

 何だかんだ文句を言っても、猿人族(ヒューマン)の食事を報酬としてちらつかされたら断りきれなかった。

 試験が終わって、現在。

 受験者は全員、暑苦しいにもかかわらず屋外で待機している。

 何を待っているかと言えば、


「もうすぐ、ここの壁に合格者発表の紙が貼り出されるんだぁ」

「あっそう」

「それにしても、アナコンダくぅん。よかったねぇ」

「あのねーちゃんのおかげだぜ」

「肌つやもよくなってるよぉ」

「お。噂をすれば!」


 アナコンダに電気マッサージをほどこしてくれた茶髪の女性が、通りに出た屋台でおやつを買い食いしている。


「おーい!」


 アナコンダはすぐさま駆け寄る。


「さっきはありがとうな! おかげで絶好調だぜ!」

「よかった、よかった。合格できそう?」

「まあな!」

「おもしろい子だね」


 追いついたサオもまじえ、互いに自己紹介。

 彼女は、


「ジャモ・ジャングルよ。よろしくね」


 と名乗った。

 アナコンダは感動しきりで、


「ライバルなのに助けてくれるなんて熱血だな!」


 褒めちぎったが、ジャモはこれを笑い飛ばす。


「ライバルだなんて。だって私、ただの記念受験なんだもん」

「記念受験?」

「もうすぐ結婚するんだ、私。結婚したら女は好き勝手に生きられないでしょ? だから独身最後の記念に、一番無茶なことをしようと思って」

「国家魔術師になるのが夢だったとか、そういうことじゃ……?」

「ない! ないよ、全然! 魔物とか怖いし。そんなの退治できない。実際に目の当たりにしたら、怖くて気絶しちゃうかも」


 アナコンダとジャモの会話を聞いていたニョルモルモが、


『ほな目の前に飛び出して気絶させてみよかな』


 などとほざいた。

 その声を聞けるのはアナコンダのみ。

 ジャモの耳には届かなかった。

 そうこうしていると、大きな紙を持った試験官数名が試験会場から出てきた。


「今から筆記試験の結果を発表するよ! よろしいか!?」


 大きな声で受験者へ呼びかけたのは、試験官を担当している現役国家魔術師ロスレス・ソージョー。

 今日も女児服女装に身を包んでいる。


「変なおっさんだぜ」

「そんなこと言っちゃダメだよぉ。あぁ。それにしても緊張で手汗が止まんなぁい」


 緊張の瞬間。

 ごくり……と唾を飲みこむ音だけが聞こえる。

 100点満点中、合格点=70点。

 これを1点でも下回っていれば、不合格。

 実技試験へ進出することはできない。

 人生がかかった発表に、受験者一同の視線が集まる。

 会場となった建物の外壁に大きな紙が貼られていく。

 丸まった紙が壁の上で広がるにつれ、ざわめきが大きくなる。

 溜め息。

 嘆息。

 絶叫。

 悲鳴。

 筆記試験を突破したのは、以下の10名。


 98点 サオ・アルージャン

 87点 タギドロ・ボーシ

 82点 キャッティス・ニャンニャン

 82点 ビショッポ・チヌレ

 80点 ピアー・スニップル

 79点 エンコ・リバーチャイルド

 75点 イッセイ6世

 73点 ジオ・サンコーザ

 71点 ジャモ・ジャングル

 70点 アナコンダ・クーパー


「ぼくたち二人の名前があるぅ!」


 サオがぴょんぴょん飛び跳ねた。


「国家魔術師に、俺ぁなる!」


 アナコンダがほえた。


「私の名前もあるー!」


 ジャモがあんぐりと口を開けた。


第5章スタートですε=(ノ・∀・)ツ

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