第032話 実技試験前の鍔迫り合い
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
ロスレス・ソージョー……女児服女装の国家魔術師。
ジオ・サンコーザ……43歳。貴族の次男坊。筋肉質で、生え際が後退している。
ビショッポ・チヌレ……チクニーダイアモンドから指令を受けた。〔ペドベッド一味〕に所属。ウニのようにとがった黒髪に、つややかな黒肌。2本の杖を持つ。
ジャモ・ジャングル……アナコンダを便秘から救う。結婚前の記念受験のつもりが、まさかの実技試験進出。
プリケッツゴールド……ドジョウ王国の第2王子。5歳。わがままで生意気。魔力がない。
98点 サオ・アルージャン
87点 タギドロ・ボーシ
82点 キャッティス・ニャンニャン
82点 ビショッポ・チヌレ
80点 ピアー・スニップル
79点 エンコ・リバーチャイルド
75点 イッセイ6世
73点 ジオ・サンコーザ
71点 ジャモ・ジャングル
70点 アナコンダ・クーパー
合格ラインは例年通りだが、内容は前代未聞の難しさだった。
「なんで今年だけこんなに難しいんだよ」
「俺、69点だった……」
「俺なんて19点だぜ?」
「パスできる方がおかしいだろ!」
「親に会わせる顔がないよ」
パスできなかった受験者はひどく落ちこんだ。
過去問や模試で百点満点以外を取ったことのないサオですら、今回は、
「98点だったんだもぉん」
「サオってマジで頭いいな」
「えぇ? そんなことないよぉ」
「だって成績トップじゃん」
「ふふぅ……ねぇ」
「ん?」
「ぼくが頭いいって、もう一回言ってぇ♡」
「頭いいな」
「嬉しぃ~♡」
さて。
サオがアナコンダにべたつき、まさかの実技試験進出にジャモが愕然としている近くで、
「こんなの納得いかねえ!」
騒ぎ出したやつらがいる。
「問題が難しすぎる! これ無効にすべきだろ!」
「そもそも、やらないって言ったり、やっぱりやるって言ったり、今年の試験おかしくねーか!?」
「責任者、出て来いよ!」
「このクソ試験パスできたやつら、怪しいよな? 絶対不正しただろ」
「やっちまうか!?」
どうやら不合格者たちがいちゃもんをつけているらしい。
試験官のロスレスが、
「負けを素直に認めるの大事よ。自分のダメなところを把握する。それ次につなげる。理解したか?」
なだめようとしたが、女児服女装しているおじさんによる説教は、むしろ火に油をそそぐ結果となった。
不満が爆発。
数人の落伍者たちが、それぞれ身近にいる実技試験進出者へ襲いかかった。
当然、彼らは魔術が使える。
市街地にもかかわらず、杖を振り、派手に攻撃を繰り出した。
だが……
「しゃらくせえ」
相手もまた魔術師。
身の丈2メートルを優に超える大男は、刃向かって来た者たちを赤の魔術で黒焦げにした。
これを遠巻きに見ていた受験生が小声で、
「よりによって、あいつに戦いを挑むとはバカなやつらだ。〝マフィア殺し〟のエンコ・リバーチャイルドだぞ」
有名人らしい。
エンコと呼ばれた男は、すでに虫の息の者たちへ、もう一発おみまいしようと再び呪文を詠唱し始める。
過剰防衛なのは誰の目にも明らかだった。
周囲にいる受験者のほとんどがびびって傍観者になりさがる中、
「やめなさい。命まで奪うつもりでありますか?」
勇気ある男が両者の間に割って入った。
小綺麗に整えられたあごひげ。
屈強な肉体。
ながいまつげ。
色気にあふれたいい男は、
「キャッティス・ニャンニャンであります。自分に免じて、この場はおさめていただけないでありますか?」
「てめえのことなんて知るかよ。噴炎!」
「噴水」
エンコの放った炎は、キャッティスの水によって消されてしまった。
大の大人二人がにらみ合う。
その一方。
別の場所で暴れた者は、
「熱血だー!」
「クズには死んでもらうよ」
アナコンダと、もう一人の子供によって、たちまちのうちに倒された。
その子供というのはサオのことではない。
黒い髪と肌。
鋭い眼差し。
まさしく、
「あの時の……」
大通りの路地裏で戦った子――ビショッポだった。
アナコンダは負けた悔しさを忘れていない。
これにビショッポがにらみ返すのは、
「また邪魔してくれたね」
アナコンダが暴徒を殺さず軽傷だけを負わせ、それどころかビショッポの魔術が当たらないよう暴徒を吹っ飛ばしたからだ。
「クズは殺すべき」
がビショッポの信条だった。
それを阻止された怒りは強い。
互いに視線を外そうとせず、にらみ合う。
こちらも赤と青の魔術師という組み合わせ。
一触即発か。
周囲の緊張が高まる。
が、急にアナコンダが、
「ふっ」
と笑って視線を外した。
そして外壁に貼り出された合格者一覧を指し示し、
「アナコンダ・クーパー! 国家魔術師に、俺ぁなる!」
要するに、
「俺には試験合格の余裕がある。落ちてカッカしているお前とは違うんだ」
ということを無言で示したわけだ。
が、こんなことで黙る相手ではない。
「俺ぁビショッポってんだ」
「そう。ビショッポくん。来年がんばってな。俺は実技へ進むぜ」
「一緒だな」
「?」
「見てみろ」
合格者一覧の紙には、
「82点 ビショッポ・チヌレ」
と記載されている。
順位はアナコンダより上。
上から数えて4番目の好成績。
「くっ……」
「気分を害しちまったなら謝るよ。別に自慢するほどのことじゃないからね」
「ぐぬぬぬぬぬ!」
険悪な雰囲気のアナコンダとビショッポに、サオがあわてる。
こんなところでケンカでもされたら試験を失格あつかいにされてしまうかもしれない。
騒ぎに震えているジャモは頼りにならなさそう。
誰かまともな大人はいないかと周囲を見回すと、
「あっ」
何もしないで暴徒の顔を青くさせている者がいた。
ずいぶんとデコの広い中年男性――ジオ・サンコーザだった。
他とは違い、魔術を発するわけでもなく、落ち着くよう呼びかけるわけでもなく、
「……」
ただひたすら無言で目を血走らせている。
頬はこけ、鼻息が荒く、なにやら思いつめた様子。
完全に、
「やべーやつ」
だった。
ところで、サオはジオを見て、
「あれぇ……?」
その隣にアフロの中年ビリー・ブルドッグがいないことに落胆した。
(ケーキ作りを手伝ってくれたお礼が言いたかったのにぃ)
このように予想外の流血沙汰はあったものの、騒動はすぐに終息した。
試験内容に対する不平不満が消えたわけではなく、
「今年はやけに血生臭いな。逆に考えると、こんなヤバイやつらと一緒に実技試験を受けないでよかったぜ」
という考えが彼らの心を支配したからだった。
すかさずロスレスが、
「実技試験へ進出した人たち。こっち来て。馬車に乗って闘技場へ移動するよ。よろしいか?」
筆記試験合格者10人が3台の車へ分かれて乗りこんだ。
アナコンダとサオは、二人の女性と相乗りになった。
一人はジャモ。
ようやく安全圏へ入ったことで、ほっとすると同時に、
「子供なのに、よく戦えたね」
アナコンダに感心している。
「熱血だからな!」
「私、大人なのに全然ダメだー」
「俺より成績よかったじゃんか」
「たった1点だけね。しかも、この子にはボロ負け」
サオがはにかむ。
すると、もう一人の成人女性が、
「お前、この子のこと知らんのか?」
金髪を頭のてっぺんでお団子にし、真夏なのに黒い長袖のパーカーを着こんでいる。
そばかすのある顔は一見優しそうな印象をあたえるが、声は酒焼けしたようなハスキーボイス。
サオを見つめ、
「サオ・アルージャン。国家魔術師チッチ・アルージャン様の息子じゃ! そりゃ優秀なんも当然よ!」
ジャモはまったく別のところに驚いた。
「え!? きみ、男の子なの!? やだ。私、てっきり……」
すると、サオはさも嬉しそうに許し、
「それにしても、ぼくのママって有名だよねぇ。なんか逆に肩身がせまいよぉ」
「しょうがないじゃろ。国家魔術師やっとる女なんてそうそうおらんし、しかも強いもんなあ。憧れとるんよ。わしの名前はピアー・スニップル。お前のお袋の同僚になる予定じゃ。覚えてつかえや。ところで、そっちの赤毛は?」
自己紹介をうながされたアナコンダ。
堂々と胸を張って、
「アナコンダ・クーパー! 国家魔術師に、俺ぁなる!」
「ははあ。お前、バカじゃろ?」
「熱血だ!」
「話が通じんのう」
やがて馬車は城下町の大通りへ入った。
歩道を埋め尽くすほど大勢の人々が、
「わーっ!」
と大きな歓声をあげて手を振っている。
花びらが舞う。
祝砲が鳴る。
犬がほえる。
なんの関係もない人が胴上げされる。
みんな、やけにテンションが高い。
「なんだ、こいつら……?」
アナコンダはいぶかしがる。
サオは窓から手を振りながら、
「要するに、お祭り騒ぎだよぉ。王都の人はなんでも楽しんじゃうからぁ」
「あーなるほど」
「闘技場には、もっとたくさんの人が来てるはずだよぉ」
「なんでだ? 応援か?」
「そういう人もいるけど大半は観戦だよぉ」
「観戦? 試験を? 観て楽しいのか?」
楽しいらしい。
というのも、毎年、実技試験の内容は異なるが、いずれにしても趣向をこらしたトラップが受験生を苦しめ、観ている分には楽しい行事なのだった。
いわば、
「娯楽だねぇ」
「へー」
「ほらぁ。見てぇ!」
大きな闘技場が見えてきた。
巨石を積み上げて造られた、王都の象徴的建造物。
その周囲には、たくさんの人が集まっている。
試験がもうすぐ始まるのにわざわざ外にいるのは、受験生の入待ちをしているからだ。
馬車から受験生が降りると、
「やっぱり、あいつ筆記試験を突破したぞ!」
「お前なら実技に進めるって信じてたぜ!」
「がんばれよ!」
子供たちから声援を受けているのは、アナコンダより少し年上に見えるタギドロ・ボーシという少年だった。
おかっぱ頭に、うりざね顔。
小さな目を細めてはにかむ様子から、いかにも穏やかな気性の持ち主だということが伝わる。
応援のために駆けつけてくれた子供たちは、おそらく同級生だろう。
不意にアナコンダがサオに向かって、
「サオにも応援が来てくれてるんじゃないのか?」
「……」
「なんで黙ってんだ?」
「……ぼく、友達いないんだぁ……」
「友達がいない? どういうことだ? 普通に生きてれば友達くらいできるだろ? それとも、学校ってところでは会話禁止なのか?」
「や、やめてよぉ。ぐさぐさ刺さるじゃぁ~ん! て言うか、ぼくもう学校卒業してるんだよぉ」
貴族の子供は貴族専門の学校へ通う。
そこでは政治・経済のことからテーブルマナーにいたるまで、貴族として身につけるべきことをあらかた学ぶわけだが、サオは頭がよすぎて飛び級しまくり。
普通なら5歳で入学し15歳で卒業するところを、サオは去年、つまり9歳で卒業していた。
「し、信じらんない……」
「さすがチッチ様の息子じゃ……!」
ジャモとピアーが驚愕した。
だが、アナコンダは食い下がって、
「でも、学校へ通ってた時に友達はできただろ?」
「……ぼく、いじめられてたからぁ……」
「あっそう……」
受験生一同は裏口から控え室へと案内された。
「じきに実技試験が始まります。それまで、こちらにてお待ちください」
スタッフの指示にしたがい、おのおの座ったりストレッチしたり、自由に過ごした。
アナコンダは小腹がすいたので、サオに果物を生成するようせがんでいたが、
「アナコンダ様」
見知らぬ男に話しかけられた。
「なんだ?」
「ちょっと、こちらへ……」
「何かくれるのかな?」
知らない人についていったらダメ。
田舎生まれのアナコンダに、そんな都会の常識はなかった。
言われるがままついていくと、
「こちらの部屋へお入りください」
やけに分厚い扉の向こうへ通された。
そこは闘技場の内部とは思えないほど、たくさんの花が飾られ、かぐわしい匂いに満ち、金銀その他あらゆる宝玉で輝いていた。
(サオの家より豪華かも……)
奥には、絹の服を着た女性たちに扇でそよがれている少年が一人。
「アナコンダか!」
栗色の髪の毛。
太い眉毛に、ぷっくりした福耳。
血色のよい、いかにも恵まれた少年が栗きんとんを放り投げて立ち上がり、アナコンダのもとへ駆け寄った。
アナコンダは一目でわかった。
「王子じゃん!」
ヾ( ゜∀゜)ノ




