第021話 合法殺人バトル
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。
ジオ・サンコーザ……43歳。貴族の次男坊。筋肉質で、生え際が後退している。
ビリー・ブルドッグ……38歳。貴族の五男坊。アフロヘアーにだらしない体型。
ツェーマン・ベーション……〔杖のベーション堂〕の店主。元々は杖職人だったが、現在は射撃場を経営。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
「動くんじゃない!」
デコハゲのジオが杖を構え、
「全員、杖を置け」
「変な真似をしてみろ。ブッ殺してやるぜ」
重たそうな体を揺らしながらビリーもほえた。
店内が騒然となる中、アナコンダは、
「そういや、いたな。こんなやつら」
なつかしがった。
「この中に国家魔術師試験を受ける予定のやつはいるか?」
ジオが呼びかける。
手をあげる者はいない。
「おいおい。おびえなくていいんだぜ。俺様たちは試験を受ける予定だから、稽古をしに来たんだ。さあ、受験生仲間がいるなら一緒に稽古しようじゃないか。二度と足腰が立たなくなるくらいみっちりと、な。くくく……」
不気味に笑うジオ。
店員はともかく、客は全員うつむいて、ジオたちと目をあわせないようにしていた。
無理もない。
射撃場に通っているだけあって、客は魔術を使えるものの、実戦慣れしているわけではない。
一方、ジオとビリーの二人は場数を踏んでいる分、凄味がある。
たやすく場を支配してしまった。
緊迫した空気。
こういう時に平気で、
「俺、試験を受けるぜ!」
と声を張り上げるのがアナコンダだ。
「一緒に頑張ろうな!」
「アナコンダくぅん。一応言っておくけど、あの人たちの言葉を真に受けちゃダメだからねぇ!?」
サオがあわてたのは、忘れていないからだ。
今朝、襲撃をしかけたジオが、
「ここで潰しておくのが賢明だろうな。俺様たちが国家魔術師試験に通りやすくなるために」
と口にしていたことを。
そう、二人の不良中年の目的はライバルを潰すこと。
白昼堂々、公共の秩序を乱す行為だ。
通報されれば、いかに貴族といえど、ただではすまないだろう。
どうしてこうも大胆にふるまえるのか。
「くく……いい度胸だ……」
ジオが杖を構えたまま、じわじわとアナコンダに接近しつつ、
「じゃあ、この俺様が直々に稽古をつけてやるぜ」
「熱血だ!」
「……承知ってことだな? 双方の同意が成立したな?」
「おう!」
アナコンダの元気いっぱいの返事に、中年二人がにやり。
が、店主ツェーマンがアナコンダをかばうように進み出て、
「アナコンダちゃん。乗っちゃいけないよ」
言うやいなや、杖を振って、
「吹風!」
呪文を唱えた。
年齢の割に悪くない威力だった。
が、ジオが攻撃を食らう前に、ビリーが飛び出てきて、
「衝電打」
黄の魔術を、すなわち電気を放った。
電気は風を粉砕し、ツェーマンの老いた体を直撃。
感電したツェーマンが倒れたことにより、店員は右往左往し、客はざわめく。
「け、警察を呼びますよぉ~!」
勇気をふりしぼってサオが叫ぶ。
しかし、ビリーは汚い笑みを浮かべて、
「げへへ。バカガキめ。そのじじいが先に攻撃して来たんだぜ。正当防衛に決まってるだろうが」
「そ、それはぁ……」
「それに、その赤毛のバカはジオさんとの稽古に同意したよな? 知ってるか? 稽古中の死亡はぜ~んぶ事故として扱われるんだぜ」
殺しても罪に問われないというわけだ。
これこそ中年二人が強気でいられる理由。
ジオとビリーが同時にアナコンダへ杖を向け、
「血祭りにしてやる! 生まれてきたことを後悔しやがれ!」
下衆な高笑いをした。
3秒後――
黒こげになったジオとビリーが床に倒れていた。
ほとんど、
(瞬殺……)
だった。
当然の結果だろう。
実力に差がありすぎる。
いい歳をこいて燻り続けているジオとビリーに勝ち目などあるはずがなかった。
「もしかして、こいつら大したことないのか……?」
客や店員の心に余裕が生まれ、店内の空気が明るくなる。
「くそったれ……!」
ジオが拳を震わせる。
ビリーは小声で、
「ジオさん。例の作戦をかましましょうや」
「少し情けない作戦だが、負けるよりは、ましか……よし。行くぞ!」
中年たちはあきらめない。
さっと立ち上がると、ビリーが電気を撒き散らして人々を威圧し、そのすきにジオが、
「こっちに来やがれ、ふわふわのガキ!」
「ふえぇ~」
「ふえふえうるせえ!」
サオを人質にとった。
この二人の性根がいかに腐っているか、誰の目にも明らかだった。
客は全員、もうおびえていない。
「ええ……こいつらマジかよ……」
「稽古をしに来たっていう建前はどうした」
「犯罪者じゃねーか」
「ハゲって性格が悪いよな」
「おい。それは違うだろ」
「黙れハゲ」
「んだと、てめえ」
もう完全に緊張感をなくしている。
ジオはたくましい腕でサオをがっちり抱きしめ、
「貴様ら、静かにしろ! 黙らないと痛い目にあうぞ! それから、そこの貴様。頭髪のことを言いやがって……絶対に殺してやる!」
「うっせー。バーカ。ハーゲ」
「こいつ……っ!?」
血管がはち切れそうなジオを、ビリーがなだめる。
二人の注意がそれたのを見計らって、
「火玉」
アナコンダはこっそりと火の玉を生成して、天井付近へ浮かばせた。
客の中には、この動きに気づいた者もいたが、アナコンダの考えを察し、見て見ぬふりをした。
さて。
この時までに、前髪すかすかいじりされたジオはすっかりブチギレてしまっていた。
「庶民どもめ!」
これ見よがしに刀を示し、
「俺様たちは貴族だぞ!! 低い身分のカスどもが舐めた口を聞いてんじゃねえ! 俺様たちは、このガキどもを潰せりゃそれでいいんだ。ブッ殺されたくなけりゃ、大人しくしやがれ! 少なくとも常識的に行動しろ!!」
それに続きビリーが、
「貴族に逆らうとどうなるか、わかるよな? お前らだけじゃない。お前らの家族にまで累がおよぶぜ。げひひ」
深い考えはなく、ただのおどし文句のつもりだったろう。
しかし。
これがアナコンダから想定外の言葉を引き出してしまった。
アナコンダは真顔で、
「俺は家族いないぜ」
「!?」
ビリーは目をぱちぱちさせる。
「な、なんで……?」
「死んだ。魔物に殺された」
「う……」
さすがに気まずい。
射撃場を静けさが包む。
ジオはなんだか確認せざるを得ない気持ちになり、捕まえたサオに対し、
「き、貴様は? まさか貴様の両親も……」
「生きてるよぉ。でもぉ……」
自分の杖を上下に分離し、刀身を剥き、
「こういう家族なのぉ」
「あっ……」
仕込み刀とは言え、刀剣は刀剣。
これを所持しているということは、
「き、貴族……?」
「うん」
「お、お名前をうかがっても?」
「サオ。サオ・アルージャンだよぉ」
「げぇ!」
アルージャン家と言えば、誰もが知るほど有名な貴族ではないか。
家柄自体は名門というほどのものでもないが、そこに嫁いだ女は有名な、
「国家魔術師……チッチ・アルージャン……」
「ぼくのママのこと知ってるのぉ?」
予想だにしなかった衝撃の事実を突きつけられ、ジオもビリーも固まったまま動かなくなってしまった。
声も出ないようだ。
だらだらと冷や汗が流れている。
それもそうだろう。
国家魔術師になろうとしている者が現役の国家魔術師を敵にまわしたも同然なのだから。
「サオ。動けるか!?」
「うん!」
するりとジオの腕を脱出したサオ。
アナコンダに心配してもらい、ほほえむ。
が、喜んでばかりもいられない。
「俺の家族は死んだ。魔物に殺された」
さっきのアナコンダの言葉が気になる。
出会ったばかりで、まだ何もくわしいことは聞かされていなかった。
(本当なのかな?)
たずねていいのかさえわからず、サオは沈黙した。
「それで、どうするの?」
問いかけるのはツェーマン。
従業員に体を支えてもらっている。
電気に打たれ、しびれていたが、重傷ではなかったらしい。
まだ固まったままの中年二人を指して、
「こいつら、警察に届け出る?」
「放っておこうぜ」
「面倒は避けたいのね」
「悪いやつらにも家族はいるだろう。俺は誰にも悲しい想いを味わわせたくないんだ」
「ふうん……」
ほんの少し、ジオとビリーの頬に赤みが戻る。
見逃してもらえそうだと思ったのだろう。
芽生えた喜びは、次の瞬間には摘み取られることになる。
「ただし、土下座はしてもらわなきゃな」
「な……っ!?」
ジオとビリーが再び威勢を取り戻す。
「なんで俺様たちが土下座しなきゃならないんだ!」
「だって、この店のじーさんを傷つけただろ」
「そいつが先制攻撃したんだ!」
「それはおっさんが営業妨害したからだろ」
「稽古しに来たんだ! 合法だ!」
名誉毀損だとか不敬だとか身分がどうとか、ジオは思いつく限りの小難しい単語を言い立てた。
が、バカなアナコンダに難解な言葉は通用しない。
「とにかく土下座しろよ、おっさん」
の一点張り。
客も、
「そうだ、そうだ」
と同調する。
当然のことながら、味方してくれる者が一人もいない状況で、ジオは悩んだ。
(こいつら全員殺してやりたい……が、アルージャン家を敵に回すわけには……)
相棒の葛藤を見抜いたビリーが、ぼそっと助言をする。
「ジオさん。赤毛の方はアルージャンじゃないですぜ」
「!」
アナコンダは平民だ。
どこからどう見ても無知無教養の田舎者。
このことに気づいたジオは勢いづく。
「ふはははは。貴様だけは殺す!」
「じゃあ、よいしょ」
「あっづうううぁぁぁあ!!!」
アナコンダはさっき放った火の玉を操作し、ジオの後頭部へぶつけた。
次にビリーを狙ったのだが……
「くっ……むずいぞ!」
アナコンダは細かい軌道修正が苦手のようで、大ざっぱにしか火の玉を操れない。
サオやツェーマンだけではなく、他の店員や客も一丸となって、
「頑張れ!」
「もっとこう杖を動かして」
「目で追うな! 感覚で行け!」
「お前自身が火の玉になるんだよ!」
「肩の力を抜いてぇ」
「上手い上手い。ああ。惜しい」
「あ。当たった」
「上手じゃないの!」
「いいぞ。もっと当てろ!」
「ステーキにしちまえ!」
応援やアドバイスをしてくれる。
「だんだんわかってきた!」
アナコンダは火の玉を動かすだけでなく、大きさを変化させることにも成功。
「おらおらおらおら!」
「ぎゃあああぁぁあぁ」
「土下座しろ土下座しろ土下座しろ」
「あづいあづうあぢあぢあぢいぃぃ」
とうとうジオとビリーは我慢の限界。
「チクショー!」
「覚えてやがれ!」
捨て台詞を吐き、結局謝罪はせず退散した。
「よっしゃあぁぁぁああぁぁ!」
店の中で大歓声が爆発する。
大人たちがアナコンダを取り囲んで褒めたたえ、頭をなで、胴上げし、大騒ぎ。
ツェーマンも頬を上気させ、サオと喜びをわかちあう。
「あの坊っちゃん、やるじゃないの! あ~。ぼく、久々に血が騒いじゃった!」
「すごいでしょぉ! うちのママが弟子にするだけのことはあるよねぇ?」
「うんうん。さすがチッチちゃん。見る目がある……ん?」
ツェーマンの目が点になる。
チッチが弟子をとらないのは、魔術師の間ではよく知られた話だ。
(なるほど……これは……)
ツェーマンはアナコンダの肩をつかみ、
「アナコンダちゃん!」
「わっ。何だよ、じーさん」
「杖をこしらえてあげようじゃないの!」
「杖を……?」
「ぼくはアナコンダちゃんの才能に惚れこんだの!」
ツェーマンは今でこそ射撃場の経営で荒稼ぎする生活を送っているが、元はと言えば、腕のいい杖職人だ。
しかも、気に入った客にしか作らない頑固者で、価格は生半可ではない。
ツェーマンに杖を作ってもらえるということは、すなわち一流の魔術師であることの証明だ。
ところが、アナコンダは、
「別にいいよ。俺、杖なら持ってるし」
「オーダーメイドじゃないんじゃない?」
「まあ……拾ったやつだし」
「杖ってのはね、自分に合ったものなら、うんと魔力を引き出してくれるものなの」
「ふうん? つまり……?」
「あなた、もっと強くなれるのよ!」
「かっこいいやつを頼むぜ!」
秒速で手のひらを返したアナコンダのかたわらで、サオが不安げに、
「でも、お高いんじゃなぁい……? アナコンダくんはお金を持ってないよぉ?」
「あら。それはサオちゃんが払えばいいじゃない」
「ふえぇ~!? おこづかい、なくなっちゃぅ~!」
( ;∀;)




