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第020話 チンアナゴかわいがりゲーム

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

サオ・アルージャン……「ふえぇ~」が口癖の男の娘。かわいいものを集めるのが趣味で、裁縫が得意。アナコンダと同じく10歳。

ジオ・サンコーザ……43歳。貴族の次男坊。筋肉質で、生え際が後退している。

ビリー・ブルドッグ……38歳。貴族の五男坊。アフロヘアーにだらしない体型。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

 多くの人でにぎわう大通り。

 そこに並ぶのは、ほとんどが何かしらの商品をあつかう小売店か、もしくは飲食店となっている。

 その中に〔杖のベーション堂〕という看板が見える。

 さすが王都に店を構えるだけあって立派ではあるが、付近に建つ店と外観に大差はなく、白を基調とした落ち着いたデザインの外壁の前に、メニューを表示した小さな黒板が置かれている。

 一見すると、喫茶店のようでさえある。


「ぼくも行きつけにしてる杖屋なんだぁ」


 のほほんとしたサオにアナコンダはとまどう。


「射撃場へ行くんじゃないのか!?」

「射撃場の方がもうかるから、今では射撃場一本で経営してるけど、ここの主人は元々杖を作る職人さんなんだよぉ」


 チッチもこの店をひいきにしていたらしく、母子ともども、この店で杖をあつらえたのだそう。


「その長い杖、かっこいいよな」


 アナコンダがうらやむのはサオの杖。

 サオの背丈と同じくらいの長さがあり、持ち手は鉄製。

 てっぺんは、目と口をくりぬかれたカボチャの形になっている。

 アナコンダのカリフラワーっぽい杖に比べると、確かにかっこいい。

 だが、その褒め言葉はサオを喜ばせなかった。


「かっこいいんじゃなくて、かわいいのぉ!」

「あっそう」

「ほらほらぁ。見てぇ」


 サオがアナコンダにだけ見えるようにして、こっそり自分の杖を引っ張った。

 すると、杖が真ん中から上下に分離し、中から刀身が剥き出しになった。

 仕込み刀だ。


「やっぱり、かっこいいじゃん!」


 サオは子供とはいえ貴族の一員。

 帯刀の義務がある。

 だが、


「刀と杖を二つも持ち歩くのは大変だし、刀なんてかわいくないから、ひとまとめにしてもらったんだぁ。その分、重いけどねぇ」

「いいなー。俺もそういうのにしてもらおうかな」

「これは貴族しかダメだよぉ」

「ずるいぞ!」


 などと言いつつ、二人は杖屋へ入った。

 防音のため、扉はやけに分厚くて重たい。


「おお!」


 どちらかと言うとおとなしめの外観に比べ、店の中はド派手に飾りつけられ、多くの物と人でひしめき合い、色とりどりの照明がまぶしかった。

 いかにも射撃場といった感じのマトもあれば、動くマネキンや暴れる馬の乗り物など、


「どんな仕組みなのか……」


 さっぱりわからない設備がたくさんある。

 当然、アナコンダはこうした場所へ入るのが生まれて初めてのこと。

 感動するよりも、むしろ、


(こいつら、大人のくせに平日の昼間から遊んでるのか……?)


 と思った。

 視界を共有するニョルモルモは、


(食い物はないみたいやな)


 と、がっかりした。

 さて、サオはせまい店内を縫うように進み、椅子に座ってぼうっとしている老人へ笑顔を振りまく。


「お久しぶりぃ~♡」

「あらあら。サオちゃんじゃないの」

「元気してたぁ~?」

「もちろんよ。この通り。まだまだ死なないよ。そちらは?」


 サオの後ろにいたアナコンダが、


「アナコンダ・クーパー! 国家魔術師に、俺ぁなる!」


 マナーなどお構いなしの大声で挨拶をかました。

 白髪おかっぱの老人は少し耳が遠いらしく、平然と、


「ぼくはツェーマン・ベーション。ここの店主なの。よろしくね」


 小さな眼鏡の上から少年を見つめて、


「坊っちゃん。ここへ遊びに来たってことは魔術師なのね?」

「おう!」

系統(カラー)は?」

(レッド)だぜ!」

「サオちゃんのお友だちなら心配はないと思うけど、ここで遊ぶのはお金がかかるよ。お金は大丈夫?」

「財布は熱血だぜ!」


 本当のところ、アナコンダは一文無しだった。

 今日の支払いはすべてチッチから渡された軍資金だ。

 ところが、サオが言うには、


「もうそろそろお金がなくなるから、あんまり遊べないかもぉ」

「……」

「どうしたのぉ?」

「……」

「どうして黙ってぼくを見つめるのぉ~?」

「……」

「や、やめてよぉ~。そんな目で見られても、ぼくは出さないからねぇ?」


 だが、店主のツェーマンにまで、


「サオちゃん。出してあげなよ」


 と言われると、断りきれなくなった。


「うぅ……じゃあ、ぼくの財布から出してあげるよぉ……」

「サオ、ありがとうな! じゃあ、じいさん。この店で一番高いやつで遊ばせてくれ!」

「ふえぇ~! やめてよぉ~!」


 するとツェーマン、


「一番高いわけじゃないけど、これなんてどう?」


 ある設備(ゲーム)へ二人を案内した。

 ちなみに、ツェーマンが立ち上がったことで、それまで机に隠れていた彼の全身があらわになった。

 胸元がはだけるように服を着て、やたら高いヒールの靴をはいている。

 アナコンダはこういうファッションの成人男性を初めて見て驚いたが、サオにはまったく気にするそぶりがない。

 さて、アナコンダに紹介されたのは、


「ゴミ……?」


 のようにも見える台だった。

 と言うのも、高さ150cm、幅100cm、奥行200cmほどの台の天面には、20個の穴があいているのだ。

 アナコンダの頭をこつんとたたいたツェーマンが、


「失礼なこと言うんじゃないの。結構人気なのよ。ねえ、サオちゃん?」


 話を振られたサオは口もとがゆるんでいる。


「なつかしぃ~。ぼくもよくこれで遊んだっけぇ」

「おもしろいのか?」

「おもしろいよぉ。簡単だから初心者にはぴったりだしぃ」

「ふうん。じゃあ、金を払ってくれ」

「あ、うん」


 代金を受け取ったのは、台のそばに立っていた男。

 どの設備(ゲーム)のそばにも、全身を黒のレザーで包んだ大柄の男性店員が立っている。

 この店員が、足下にあるハンドルをぐるぐる回し始めると、台の穴から、


「なんだ、これ!?」

「お魚さんだよぉ。チンアナゴっていうのぉ」

「チン……!?」


 細長い魚のオブジェが出現した。

 かと思うと、姿を消し、別の穴から現れる。

 複数の穴から同時に出てくることもある。

 ツェーマンがたもとから杖を取り出し、


「チンアナゴをかわいがる遊びよ! 吹風(エクフ)!」


 (パープル)の魔術を発動。

 見事、1匹のチンアナゴに命中させた。


「さあ、坊っちゃんの実力をみせてごらんなさいな」

「おう!」


 アナコンダは言われるがまま、定位置に立った。

 そして、立ち尽くした。


「どうしたの?」

「……」

「もう撃っていいのよ」

「呪文、忘れちゃった」


 ツェーマンとサオが、がくっと脱力する。

 だが、腸内にいるニョルモルモが、


『アホ。火玉(アマディー)や』

「あ、そうだ。うおおおお。火玉(アマディー)!」


 アナコンダは火の玉を飛ばした。


「あら。なかなかやるじゃないの」


 アナコンダの魔法を見て、ツェーマンは感心した。

 隣でなぜかサオが得意気にしている。

 だが、ツェーマンは勘違いをしていた。

 心の中で、褒め言葉に、


(ただし、子供にしては)


 という前置きをつけていたのだ。


(大人になる頃には、それなりの実力者になれるでしょうね)


 魔力を持つ子供は別に珍しくもなんともない。

 重要なのは魔術を使いこなすこと。

 アナコンダは、あちこちの穴からランダムに出て来るチンアナゴに、


「一発も命中させられないぜ!」


 いくら魔力があっても、的中しないなら意味がない。

 だから、周囲の客も全然アナコンダに注目していない。


(子供なら、こんなもんだろ)


 と冷静だった。

 屈強な男性店員はハンドルを回し続ける。

 その動きに合わせてチンアナゴが穴を出たり入ったりする。

 どうやら簡単な機械仕掛けのカラクリのようだ。

 店員の動きから、なんとなくチンアナゴ出現のタイミングをはかることはできても、


「どこから出てくるかわからない!」


 のだから当てられない。

 その上、


『いつまで、もたついとんねん。早よ当てんかい! わしゃなんのために、こんなくっさいとこに閉じこめられとるんや!』


 ニョルモルモにあおられ、とうとうアナコンダのいらいらが頂点に達した。


「くっそー! こうなりゃヤケだぜ! 噴炎(オレオム)!」


 ドデカい炎を出して、一挙に台全体を炎で包んだ。

 さすがに店内の大人たちも驚いた。

 誰よりもあわてたのはツェーマンで、


「け、けけけ、消して! 熱い! 火事になっちゃう!」

「おう」


 アナコンダは魔術を解除した。

 ツェーマンの全身から汗が噴き出している。

 あやうく自分の店が、


(全焼するところだった……)


 それにしても、子供にしてはありえないくらいの魔力だ。

 いや、サオが力説するには、


「アナコンダくんは、まだまだこんなもんじゃないんだよぉ!」

「まさか……」


 だが、嘘とは思えない。

 あれだけの魔術を発動した直後にもかかわらず、アナコンダは疲れた様子も見せず、平然としている。

 異常なスタミナ。

 大人でも、こうはいかない。

 ツェーマンはおそるおそる問う。


「アナコンダちゃん。本当に、もっとすごい魔術も出せるの?」

「おう」

「ど、どのくらい……」

「んー。めっちゃでっかく」

「そんな説明じゃ、わかんないじゃない」

「口で説明するより実際にやってみせた方が簡単だけどさ、でも、ここで全力の魔術を使ったら、大事故になるぜ」

「え」

「だから俺、ずっと手加減してたもん」

「手加減して、これなの……?」


 ざわめきさえない。

 店内の誰もが、驚きを通り越してドン引きしていた。

 杖職人として、また射撃場の主人として、たくさんの魔術師を見てきたツェーマンは、しかし、逆に冷静さを取り戻していた。

 確かに、この少年は、


(すごい才能の持ち主……)


 にもかかわらず、


「残念ね。あなたは国家魔術師になれないよ」

「なんでだ!?」

「点で攻撃できなくて、面で攻撃してるからよ」

「……!??……?……??!?!?」

「わかりやすく言うとね、そんな大ざっぱな攻撃は魔物だけじゃなくて、人にも当たっちゃうってこと」

「あ……」


 ツェーマンの言う通りだった。

 だが、そうは言っても、どうすればいいのか。


「チンチンがどこから出てくるかわかんないし、チンチンが出たと思ったら、次の瞬間にはもう消えてるんだぜ!」

「チンチンじゃなくてチンアナゴよ」

「どうすりゃチンコに魔術を命中させられるんだよ!?」

「チンアナゴだっつってんでしょ」


 魚の名称はともかく。

 この射撃設備(ゲーム)に攻略方法はあるのか?

 その答えを教えてくれたのはサオだった。


「狙わずに撃っちゃえばいいんだよぉ」


 アナコンダはきょとんとして、


「狙わなきゃ当たんないじゃんか」

「あのね、まず最初に魔術を発動するのぉ。それから狙いを定めるのぉ。ま、見ててよぉ」


 サオは魔術でバラを生成。

 長い蔓をともなったバラが台の上に落ちた。

 そして、チンアナゴが穴から現れると、


「えぃ~!」


 バラが急生長。

 チンアナゴにからみつき、トゲを突き刺した。


「どの系統(カラー)でも、自分が魔術で生成した物はある程度コントロールできるんだぁ」


 つまり、事前に魔術を発動しておくことで、攻撃までの時間を短縮できるというわけだ。

 ちなみに、生成物をどの方向へ動かすのも、動かしている最中に軌道を変更するのも自由自在。


「あーなるほど!」


 納得するアナコンダ。


「これができれば、国家魔術師になれるんだな!」

「なれんぜ、貴様には」

「何だと!?」


 誰かがアナコンダの将来をきっぱりと否定した。

 今しも扉を開けて射撃場へ入って来た二人の男たちだ。

 生え際の後退した中年とアフロの小太り中年がにやにや笑っている。

 デコハゲの方が、


「なぜなら貴様は今日ここで死ぬからだ」


 その顔を見て、アナコンダもサオもすぐ気づいた。


「今朝の不良たち……」


 ジオ・サンコーザとビリー・ブルドッグだった。


ブクマ&評価ありがとうございます\(^o^)/

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