第013話 杖、没収!
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。
フェニカイ・パンカ……ラトン町教会の神父。つるっぱげの老人。
「警察を呼んでくれ」
と言ったものの、やはり警察では手に負えないかもしれない。
なんせこいつは元国家魔術師。
その実力のほどは我が身をもって味わったばかりだ。
いったん魔術でしばいた方がいいのではないかという考えがアナコンダの頭をよぎる。
と同時に大事なことを思い出す。
(俺はニョルモルモがいなきゃ魔術を使えないんだった! ニョルモルモは無事かな? まさかこの神父に見つけられてないだろうな……?)
下腹部を見つめると、
『わしなら大丈夫や』
アナコンダの体内から声がした。
『猿人族に見つかるんが怖くて、ずっとこのくっさいとこで我慢しとったんや。早よ出して洗わんかい』
「よっしゃ。戦うぜ!」
『おい。洗え言うとんねん』
「……あれ?」
アナコンダはポケットの中に手をつっこむ。
布団の中を探る。
きょろきょろして、青ざめる。
「杖がない……」
すると、ベッド脇に立つフェニカイ神父が、さも当然といった感じで、
「没収しました」
「なんでだ!? あれがないと、こいつをボコせないじゃんか!」
アナコンダがネオンの頬に人差し指を突き刺し、ぐりぐりする。
ネオンは喜んでいたが、
「やめなさい!」
フェニカイはこれを叱り飛ばし、
「教会内で暴力沙汰は御法度ですよ」
「いや、暴力って言っても――」
「三戒を言いなさい」
「さ、さんかい……?」
「不戦・不殺・不暴。はい、繰り返して」
「ふせん・ふさつ・ふぼう……」
「というわけです」
「どういうわけだよ!?」
無知無学のアナコンダにはわからないが、教会には色々とルールがあるようだ。
とは言え、ネオンはただものではない。
強い魔力を有する凶悪犯罪者だ。
そう伝えようとした矢先、
「わあ~!」
小さな部屋に、十人ほどの子供が突入してきた。
アナコンダと同じくらいの子もいれば、ずいぶん年下の子もいる。
身なりはみすぼらしいが、弾けんばかりの笑顔を振りまき、アナコンダとネオンを囲んだ。
「なんだ!?」
「新しい家族だ!」
「俺が? 家族?」
「違うの?」
首をひねる子供たち。
フェニカイは優しいため息をつき、
「いいと言うまで入って来ちゃダメだと言ったでしょう」
「だって~。早く会いたかったんだもん」
「やれやれです」
ネオンは子供たちによじ登られて、苦悶の表情を浮かべている。
「うおぉ……本来なら嬉しいシチュエーションだが、今は腰をいわしてるんだ……勘弁してくれ……」
「おばさん。化粧が濃いねえ」
「きみ! 女児じゃないか! 女児がお姉さんに乗っかっちゃいけない!」
ネオンが子供に手を出していないことを確認し、アナコンダはほっとした。
そして、フェニカイの目を見た。
説明を求めたわけだ。
神父は、自分の腕を引っ張る子供たちの相手をしながら、
「神に代わって、恵まれない人たちへ愛をほどこす。それが教会の役割です」
「愛を……」
「事情は様々ですが、この子たちはみんな親を亡くして身寄りがないんです。教会は彼らを保護します。それが神の教えですから」
* *
「……で、ここは?」
アナコンダは寝室から連れ出された。
フェニカイが子供たちに、
「お姉さんに遊んでもらいなさい」
と言ったせいで、アナコンダは神父と二人きり。
ネオンが子供たちにいたずらしないだろうかという不安を抱えながら、アナコンダは神父の後ろを歩く。
「ところで杖はいつ返してくれるんだ?」
たずねても返事はない。
やがて二人は大きな部屋へ入った。
たくさんの人が並んで座れる椅子がいくつもある。
つめれば百人は収容できるかもしれない。
一番目立つところに、
(花……?)
のように見える像が設置されていた。
黒い泥水から、緑色の棒が伸びている。
その頂上には真っ赤な花びら。
不思議なのは、七つの花びらが揺らめくような形状をしていること。
まるで燃え盛る火のようだった。
フェニカイはその花の像の前で、
「神ナマバにひざまずきなさい」
アナコンダに命じた。
「なんでだよ」
「アナコンダくんも知ってのことと思いますが、教会へ一歩足を踏みこんだからには、不戦の誓いをしてもらわなきゃいけません」
アナコンダには初耳だった。
と言うのも、
「俺の村には教会がないんだもん」
「なんですって!?」
ハジャ村はあまりにも僻地で、教会もなければ、神父もいない。
教会のルールを知らないのも当然だった。
「ラトン町の子ではないのですね。どおりで、見かけない子だとは思っていましたが……どうして、この町へ?」
「国家魔術師に、俺ぁなる!」
「どうしてです?」
「みんなを守るために強くなりたいんだ」
「なるほど。それでは、国家魔術師になるのはやめにして、神様に祈りなさい」
「!?」
フェニカイの主張は単純明快。
「魔術は武器です。武器は戦争を呼びます。平和を達成するためには、武器を放棄しなければならないんです」
アナコンダはまったく賛同できなかった。
当然だ。
アナコンダは決して頭の中だけで平和や戦争を考えていない。
魔物を相手に命懸けの修羅場をくぐってきている。
「武器がなきゃ誰のことも守れないぜ」
「人の頭で考えると、そういう結論が出るだけですよ。神様のお言葉に耳をかたむけなさい。天国へ行きたければ、武器を放棄せよと神様はおっしゃっています」
「あー、はいはい。じーさんはそう考えてればいいよ。俺はここを出てくから。じゃ、杖を返してくれよな」
「ダメです。たとえあなたがここを出て行くにしても、一度お預かりした杖は返却できません」
「なんだよ、そのルール……いや、待てよ? じゃあ、ネオンも……あの化粧の濃いおばさんも杖を没収されたのか?」
「ご婦人は自ら杖を差し出されましたよ」
教会で手当てや説教を受けたいなら、武器を放棄し、礼拝堂で不戦の誓いをしなければならない。
ネオンはその掟にしたがったのだ。
ただし、アナコンダの場合、
「意識がありませんでした。こうした緊急時では、強制的に武器を没収し、体力が回復してから不戦の誓いをおこなってもらうことになっています」
「ふせんなんちゃらを拒否したら、どうなるんだ?」
「残念ですが、出て行ってもらいます。杖は返却しませんが」
「チッ!」
だが、フェニカイはなにもアナコンダを追い出そうとは思っていない。
それどころか、いつまでも教会にいていいと言う。
おそらくアナコンダのことを身寄りのない貧民だと思っているのだろう。
身寄りがないのは、その通りだが。
「もういいや」
アナコンダはフェニカイとの対話をあきらめた。
なんにせよ教会を出て、師匠チッチと合流しなければいけない。
「助けてくれて、ありがとう。でも、俺が戦わなきゃ、誰かが死んじゃう。残された人は悲しい想いを味わうことになる。俺はそんなの嫌だ」
「ふむ。では、すでに悲しい想いを味わっている人はどうなるんです?」
「……え?」
大切な人をうしない、悲嘆にくれている人を迎え入れ、支えてあげる。
「そういう人助けもあるんですよ」
アナコンダとて、考えたことがないわけではなかった。
両親を亡くし天涯孤独なのだから、まさに自分自身が悲しみを味わっている当事者なのだ。
他人を守るためなりふり構わずに戦ってきた。
だが、
(俺のことは誰が守ってくれる?)
フェニカイは優しく少年の頭をなでる。
「教会はあなたを拒否しません。それが神様の愛なのです」
アナコンダはじっと神像を見つめた。
* *
ラトン町は田舎なので、教会や盗みに入られた化粧問屋のある中心部を少し離れると、田園風景が広がっている。
田畑の付近には農家に使用される小屋があることも珍しくない。
農具の置き場にしたり、休憩時に藁を敷いて寝そべったりする。
ここにも木陰に隠れるように、ひっそりと一軒のボロ小屋が建っている。
「……」
小屋の中で、一人の男が横になっている。
のんきに寝ているようで、その実、ずっと意識を手放さず、感覚を研ぎ澄ませていた。
小屋はずいぶん古い。
木造の壁はすきまだらけで、絶えず風が入りこむ。
男は薄目を開けて、そのすきまから空をうかがっていたが、
(いい頃合い)
と思ったらしく、起き上がった。
今から農作業へおもむくのかと思いきや、そうではない。
男は藁をどけた。
地面に扉がある。
開けると、人ひとりが通れるくらいの穴があいており、男はそこに縄を落として、するすると降りた。
「おい」
呼びかけると、
「うう~ん……?」
眠たげな声が返ってきた。
闇の中で熟睡している者が何人かいるようだ。
「もう夜?」
「真昼だ。夜になってから動いたのでは遅いだろう」
「まあ、そうかもね」
「かもじゃない。そうなんだ。御頭に言われただろうが。ほら。起きろ。お前も。そこのお前も」
起き上がった彼らの顔をアナコンダやチッチが見たら、一目で気づいただろう。
他でもない、〔ペドベッド一味〕のメンバーだった。
ネオン以外の全員がここにそろっている。
「あたしゃまだ立ち直れないよ……」
年配の男が落ちこんで言う。
「御頭と組んで久しいけど、盗みに失敗するなんて初めてだもんね」
「あれ? そう言えば御頭は? まだ帰って来ないの?」
「一足先にもぐりこんでんでしょ」
「仕事熱心じゃん……いや、待てよ?」
はたと全員が同じことに思いいたった。
(また悪癖が出ているのでは……)
そのせいで昨夜は失敗したといってもいい。
次の目的地も男子児童であふれているのだから、下手すると今度も失敗、いや、それどころか最悪の事態になるのでは……。
「よそにいるメンバーも呼ぶかい?」
「と、おっしゃいますと?」
「何かあったときに、あたしらだけじゃ対応できないかもしれない。なんせ御頭以外で魔術を使えるメンバーって言ったら、あいつしかいないわけで……」
「いけすかないやつでございます」
「まあ、それはそうだけど……」
「それに、あやつは今ごろ王都にいるはず。間に合いませぬ」
「そっか……」
かと言って逃げ出すわけにもいかない。
ラトン町での盗めは終わっていない。
「世直しのためには金と武器が必要だもんね」
「うんうん。俺もそう思うっす。武器がないと戦えないっすもん」
「じゃ、行こうか。あたしらの次の稼ぎ場……教会へ」
( ・`д・´)




