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第012話 捕まえてごらん♡

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。

 アナコンダはひきつった目でネオンを見る。


「少年よ。その目、いいね!」

「アナコンダ。お前はこんなふうになるな」


 言われるまでもなく、こんなふうにはなりたくもなかった。

 チッチはネオンを寝室へ連行する。

 そこには、改めて捕縛された一味の姿があった。

 声に出さなくとも、彼らの目は明らかに、


「御頭。申し訳ない……」


 と語っていた。

 一年以上にわたって王国を騒がせた盗賊団も、これで年貢の納め時。

 一列に並んで座らされた泥棒たち。

 唯一口をふさがれていないネオンが、


「調子に乗るなよ、国家魔術師。少年がいなければ、お前ごとき屁でもなかったさ」


 チッチをにらみ、それからアナコンダをうっとり見つめ、


「弟子にしたのか? たまらないな」

「私の弟子をいやらしい目で見るな」

「この少年には恐れ入ったよ。私好みの顔立ち。そして圧倒的な才能。(レッド)向きでない杖を使っているのも最高だ。一回り、いや二回りも歳の離れた少年にたたきのめされて、私の自尊心は……うずいてしまう♡」

「……いま何と言った?」

「うずいてしまう♡」

「そこではない!」


 チッチが耳を疑ったのは、アナコンダが、


(レッド)ではない杖を使っている……!?」


 という点。

 自分の弟子がとんでもない無知だと把握してはいたが、まさか、ここまでとは思いも寄らなかった。

 アナコンダの杖を引ったくり、確かめる。

 ネオンの指摘した通りだった。


「どうした、師匠?」

「お前、この杖はどこで手に入れた?」


 棍棒のような杖。

 自作でもなければ買ったのでもない。


猪人族(ウリマン)から奪ったぜ!」


 今度はネオンが驚いた。


猪人族(ウリマン)!? おい。まさかこの少年は魔物を……」

「退治した」

「おっ、おほおぉお!? この子、有望すぎるぅ♡」


 ネオンがびくんびくんと痙攣する。

 部下は目をそらし、なるべく見ないようにした。

 さて、猪人族(ウリマン)の杖を使うことの何が問題なのか。


「いいか。杖には種類がある。魔術に系統(カラー)があるのと同様に、な」

「ふーん」

「魔術の系統(カラー)(レッド)のやつは(レッド)向けの杖を使うんだ。それ以外の杖を使うと本領を発揮できないからだ」

「でも、この杖で十分火が出るぜ」

「信じられないことに、お前の実力はこんなものではないということだ……」


 ハジャ村を襲った猪人族(ウリマン)は風の魔術を使っていた。

 つまり、この杖は(パープル)向けということになる。

 これではアナコンダの本当の力を引き出せない。


(我が弟子ながら恐ろしいやつ……)


 冷や汗をかきつつ、チッチは、


「警察を呼んで来る。厚化粧女の杖は没収しておいたし、全員きちんと縛ってある。大丈夫だとは思うが、よく見張っておけ」

「おう!」


 チッチが商家を出たところで、


「少年よ。見逃してくれないか」


 ネオンの泣き落とし作戦が始まった。


「お姉さんたちは泥棒だ。泥棒はいけないことだ。だけど、実は悪いやつからしか盗んでいないんだぞ。この店のやつらだって、粗悪品を扱ったり、帳簿をごまかしたりしてる。天誅なんだ!」

「じゃあ警察に通報すればいいじゃん」

「え」

「今ちょうど師匠が警察を呼んでくれてるから。警察に言えば」

「……なかなかやるな、少年!」

「これくらい熱血だぜ!」


 その後もネオンの弁明は続いたが、アナコンダは時に上手に切り返し、時に熱血連呼で会話を成り立たせなかった。

 賢いのやらバカなのやら、よくわからない子供だった。


「少年よ。お姉さんを困惑させないでくれ」

「なあ。さっきから気になってたんだけど、どうして自分のことをお姉さんって言うんだ? おばさんじゃん」

「少年! それは言っちゃいけない!」


 不毛なやりとりがなされている間、部下たちは下を向いて、いかにも殊勝な態度をしていた。

 天下を騒がせた盗賊のメンバーにしては、やけに潔い。

 それが彼らの矜持なのか?

 いや、そうではなかった。


「う……」


 タイミングを見計らって、若い女の泥棒がりきみ始めた。


「むううぅん」


 ぽてん……と、玉が床に転がる。

 アナコンダは目を丸くして、


「どこから出したんだ?」

「女性にそういうことを聞いちゃいけないぞ、少年」

「で、これって何なんだ?」

「煙玉だぞ、少年」

「食べ物か?」

「仕事道具だ。いざという時のため、手下のお口に飲ませておいたのさ」


 すると、玉が破裂し、中から溢れ出した煙が、瞬く間に部屋を埋め尽くした。


「さらばだ、少年。また会おう!」

「おい。おばさん! 逃げるのか!? 逃げてるのか? 何も見えないぜ!」


 泥棒たちの足音で、彼らが逃走していることは把握できた。

 が、視界は煙でさえぎられており、追いかけようにも追いかけられない。

 アナコンダは機転をきかせて、まず壁を見つけた。

 壁を伝って移動すれば、目が見えない状況でも、窓か扉に行き着いて外へ出られるはずだと考えた。

 はたして、その通りになった。


『やるやん!』


 腹の中からニョルモルモのはしゃいだ声。

 ただし、決して危険なことには賛成しない。


『じゃあ、宿に行こうや』

「見つけたぞ、泥棒ども!」

『おいおいおい。ガン無視やん』


 外は暗いが、煙はない。

 拘束を解いて、今にも走り去ろうとしている一味の姿が、月明かりにくっきり浮かんでいた。

 一味の一人がネオンに目配せし、


「御頭。どうするんだい? あのガキ、一発しばいちゃう?」

「うぅ~ん。しばくよりも、しばかれたい……」

「御頭。しっかりして」

「とにかく逃げよう!」


 これは悪手だった。

 泥棒たちは走るのが速いし、塀をひょいと乗り越えたりせまい通路をするするっと通り抜けたり、身軽で敏捷ですばしっこい。

 夜目がきくので道に迷うこともない。

 逃走経路はしっかり確保している。

 だが……


「余裕で熱血!」


 アナコンダは平気で食らいついた。

 それどころか、見る見るうちに距離を縮める。


「田舎で鍛えた足腰をなめるな!」


 一味のメンバーは戦々恐々。

 唯一ネオンだけが、


「捕まえてごらん♡」


 よだれを垂らして喜んでいる。

 そして希望通り、


「捕まえたぜ!」


 アナコンダにがっちりと腕をつかまれてしまった。


「不用心だぞ、少年」


 ネオンが杖を取り出す。

 こいつの杖は、


「師匠が奪い取ったはずなのに!」

「チッチはもっと念入りに身体検査をしておくべきだったな。泥棒はあらゆるところに色々なものを潜ませてあるんだよ」

「いったいどこに予備の杖を隠し持ってたんだ!」


 ネオンは答えず、呪文を唱える。

 大量のハチが生成された。

 いくら虫に慣れているアナコンダでも、ハチの針は防ぎようがない。

 それも、眼前で放たれたのだから、なおさらだ。

 あわてふためいていると、


「あっ」


 すてんと転んで、地面に頭を強く打ちつけてしまった。

 ちょうど足元に用水路があったのだが、ハチに注意を奪われて、これに気づけなかった。


「ううん……」


 アナコンダは意識をうしなった。

 ハチに刺されるまでもなかった。

 これでネオンは、


(楽々と逃げられる)


 ……はずなのだが、またしても例の症状が出てしまう。

 この時点で、すでに盗賊団の他のメンバーは逃げており、もう姿が見えない。

 御頭みずからがしんがりを務めていたわけだ。


「少年よ。きみのかわいい顔がハチに刺されずにすんで安心したよ。きみは本当にたまらないからな。本当に……」


 用水路にひたったアナコンダの下半身を見ているうち、ネオンの喉がごくりと鳴った。

 頭では、


(すぐ仲間のところまで行かねばならない)


 とわかっているのだが、


(こんなチャンス、滅多にないぞ!)


 悪魔のささやきに負けてしまった。

 身をかがめ、アナコンダの大事なところへ手を伸ばした時、ネオンは興奮のあまり自分の足元がおろそかになっていた。


「はあはあ……はあぁん!?」


 アナコンダの方へ身を乗り出しすぎたのがいけなかった。

 バランスをうしない、ネオンの体がずずずーと用水路へずり落ちた。


「くそっ。いいところなのに……あれ?」


     *     *


「待て……」


 アナコンダは藍色の蝶を追いかけていた。

 闇夜を駆ける。

 いや、駆けようと思うのだが、まるで水の中にいるように体が重い。


(逃げられちまう……)


 蝶は優雅に夜の町を舞う。

 悔しさがこみあげる。


(俺がもっと強ければ……)


 あきらめきれずに手を伸ばすと、蝶を捕まえることができた。


「……?」


 蝶にしてはやけに弾力があるのは気のせいだろうか。

 いずれにせよ、一度捕らえた獲物を逃がすわけにはいかない。

 しっかりつかまえておかないと……


「やめなさいぃ……!」

「……ん? おわぁぁあ!!」


 すべては夢だった。

 蝶などいない。

 夜の闇など、どこにもない。

 日の光が窓から差しこむ、気持ちのいい朝。

 しかし、悪夢よりもひどい現実が目の前にあった。


「何だ、このじーさん!」


 アナコンダは、つるっぱげの老人を両手で抱いて、頬にキスしていた。


「俺をどうするつもりだ!?」

「ご、誤解です! どう見ても、あなたが私を襲ってるじゃないですか!」

「ん? これベッドじゃんか!? 俺はこんなところで寝た覚えないぞ! やっぱり、じーさん。あんたが……」

「ここは教会です!」


 白い眉毛の老人はフェニカイ・パンカと名乗った。

 少年に吸われたところをハンカチでぬぐいながら、


「そして私は神父です」

「神父ぅ?」


 アナコンダは疑いの目を向けた。

 向けてみたものの、言われてみれば確かに、老人は丸坊主で全身白ずくめのコーデ。

 いかにも神父といったなりをしている。


「あなたは教会の前で倒れていたんです」

「それで俺を連れこんで……」

「手当てをしてあげたら、こんな言いがかりを受けています」

「本当に言いがかりか?」

「聖職者は決して児童に手を出しません!」

「でも、世の中には子供に手を出すやつが……そうだ!」


 アナコンダはベッドの上で飛び上がる。

 昨夜の記憶がよみがえってきた。

 のんびりしている場合ではない。

 フェニカイ神父の胸ぐらをつかみ、


「俺の他に人がいなかったか? いや、さすがに逃げられちまったよな……」

「いましたよ」

「え?」

「こちらの方でしょう?」


 フェニカイが指し示したのは、となりのベッド。

 そこに横たわっているのは、


「ネオン!」


 盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭ネオン・ペドベッドその人だった。


「少年。きみを放っておけなくてな……」


 ネオンは悲しげに微笑する。


「神父に頼んで手当てしてもらったんだ。お姉さんは一睡もせず、きみのそばにいたよ」

「神父のじーさん。これ本当か?」


 アナコンダに問われたフェニカイは、


「嘘ですね。この方は用水路の溝にお尻がはまって動けなくなっていたんです」


 アナコンダはネオンを軽蔑の目で見下ろした。


「ケツがでかいだけじゃんか」

「くっ……こんな体型のつもりでは……!」

「ちなみに、俺が気絶してる間に……」

「残念ながら何もできなかったさ。用水路へ滑り落ちた時、仰向けの体勢になってしまって、前方にいるきみのいたいけな体に手が届かなくなったんだ。不覚! 児童に手を出すチャンスだったのに!」

「じーさん。警察を呼んでくれ」


お読みくださり、ありがとうございます!(o゜∀゜)=○)´3`)∴

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