ヴァラリス学院
ヴェロニカはため息をついた。
「明日は君の学院初日だ。アレシアと一緒に行けないのは残念だな」
夜の闇が近づいていた。
「彼女はもう一年近く前に出ていったよ。それに、僕たちはそこまで仲が良かったわけでもないし」
「それでも、エルシュライアに行ってしまったのは残念だよ」
*エルシュライア……エルフの王国。いつか必ず行かなきゃな。*
「まあ、元婚約者が向こうでうまくやっていることを願おうか」
ヴェロニカは小さく笑いながら言った。
僕は苛立ちを覚え、ため息をついた。
「とにかく、この二年間ありがとう、ヴェロニカ……」
「気にするな、坊や。でも、私から逃げられたと思うなよ。クレアの新しい師匠が来るまで、まだ数か月は彼女の訓練を続けることになるからね」
*クレアは中級魔法で行き詰まっている……一方、僕はもうすぐ中級魔法に手が届きそうだ。そのおかげで、以前より自由にマナを扱えるようになった。*
「それにしても、適性検査を受けていないなんて、まだ信じられないよ。学院で受けるんだぞ。クレアだってもう受けたんだからな」
*そういえば、クレアは二つの分野に適性があったんだよな……本当に驚くべきことだ。攻撃魔法と遠距離魔法……あの年齢でそれを持っているなんて、ほとんど意味が分からない。*
「きっと、すべての分野に適性があるんだろうね」
僕は皮肉っぽい口調で言った。
ヴェロニカは小さく笑い始めた。
「ヴェロニカ、兄さん、ご飯だよ」
夕食はいつもどおりだった。
穏やかで、居心地がよく、温かい時間。
翌朝は驚くほど穏やかに訪れた。
「ハロルド……私のかわいい子……」
母さんは言葉を口にするのもつらそうだった。
「元気でね、息子」
そう言うと、母さんは僕を強く抱きしめた。
「ありがとう、母さん……できれば、数か月後にはまた帰ってくるよ」
僕は馬車に乗り込んだ。
そこから、僕は見ることができた。
この新しい人生で出会い、いつしか大切な存在になった人たちが、みんな笑顔で穏やかに見送ってくれている姿を……
母さんを除いて。
母さんだけは泣いていた。
道中はいつもどおり、何事もなく穏やかだった。
学院に到着すると、一年生と新入生は講堂へ向かうよう指示された。
見覚えのある顔がいくつか目に入ったが、自分の精神衛生のためにも、できれば無視したい連中だった……
「バーナード学院長は極位魔法を使えるらしいぞ」と、隣にいた男子生徒の一人が言った。
「すげえ! 本当なら、大陸でも極位魔法を使える数少ない人間の一人ってことだろ!」と、もう一人が答えた。
「あの、魔法の階級について教えてもらえませんか? 僕は奨学生なんです。魔法の基礎教育を受けたことがなくて」
「ああ、もちろん。魔法は下級魔法から始まる。人口の大半は下級魔法しか使えないと言われているんだ。その次が基礎魔法で、貴族や魔法の適性が顕在化している人間には一般的な階級だな。それから中級魔法。大陸の人口のうち、そこそこ大きな割合の人間が使える。血筋に恵まれていたり、努力を重ねたり……あるいは、単に運が良かったりする人間が多い。そして上級魔法だ。使える人間は少なく、たいていは才能か優れた血統を持っている。その上が極位魔法。使い手はごくわずかで、百人にも満たないと言われている。そして最後が魔法の達人。魔法の頂点に立つ存在だ」
講堂中に響き渡る拍手によって、全員が静まり返った。
バーナードは咳払いをした。
「さて、諸君。おしゃべりはそこまでだ」
彼は軽く咳払いをした。
「見るところ、早く校舎へ行って友人と話したい者もいるようだ。だから、長々と話すつもりはない。まずは、ヴァラリス王立大学院へようこそ。次に、この学院では才能と学業成績を重視している。したがって、いじめや攻撃、差別を見過ごすつもりは一切ない。そして最後に、およそ一年前、この学院はこの世界の三大種族に門戸を開いた。エルフ、ドワーフ、そしてもちろん、我々人間だ。
諸君は今やヴァラリス学院の生徒であり、この大陸の未来を担う存在だ。だからこそ、自分の能力を信じ、学び、見て、経験し、友人を作り、何よりも、学校生活を憎むのではなく、楽しめるものにしてほしい。ここは、何かを成し遂げるためだけでなく、楽しむための機会でもあるのだから。諸君、学院生活を楽しんでくれ」
拍手が少しずつ鳴り始めた。
僕はキャンパスへ向かうより先に、新しい自室を見に行くことにした。
実家の部屋と比べれば小さかったが、居心地はよかった。それに、ほかの生徒と相部屋でもなかった。
ベッドの上には、普通とは違う色の制服が置かれていた……
「俺、Aクラスになったのかよ!!」
僕は驚きのあまり声を上げた。
*Aクラスには、貴族や重要な才能の持ち主が集まっている……*
「なるほど……ヴェロニカと父さんの仕業か……」
僕はまだ驚きを隠せなかった。
*まあ、考えてみれば理解できなくもない……僕はもうすぐ中級魔法に届きそうだ。大半の生徒は、すでに中級魔法を使えるんだろうな……*
僕はため息をつき、新しい制服に着替えた。
暗いワインレッドを基調に、黒、青、金の装飾が施されている。
僕の好みからすると、かなり派手だった。
*そうだ、エルフだ!!*
僕は部屋を飛び出し、新しいクラスメイトたちや、もちろんエルフたちに会うためにキャンパスへ向かった。
キャンパスは広大で、手入れの行き届いた植物や、この辺りではめったに見られない美しい花々が咲いていた。
*アストリッドに花の本を無理やり読まされたときのことを思い出すな……*
僕の体に悪寒が走った。
そこには何人かの生徒がいたが、ほとんどはB、C、Dクラスの生徒だった。Aクラスの生徒は一人も見当たらない。
それよりも……
*エルフがいっぱいだ!!*
肩を軽く叩かれた。
振り返ると、ドワーフ族の生徒が立っていた。
「君、Aクラスだろ? 二年生と三年生のAクラスの生徒たちが、少し前から食堂に集まるように言っていたよ」
「ああ、ありがとう」
僕は急いで食堂へ向かった。
食堂の中から声が聞こえてきた。
ほかのクラスの生徒も何人かいた。
だが、一年生から三年生までのAクラスの生徒たちは、隅の一角に集まっていた。
「ああ、あれが最後の一人か?」と、僕よりずっと背の高い男子生徒が言った。
「は、初めまして。ハロルド・フォン・シルフォードです」
僕は少し緊張しながら名乗った。
その男子生徒は顎に手を当て、数秒ほど考え込んだ。
「おおっ、君が姉さんの弟子か! よろしく、ハロルド。姉さんから君のことは聞いているよ」
*姉さん……僕が弟子……ヴェロニカが僕の師匠……*
「自己紹介が遅れたね。僕はウィルフォード・ペンドラゴン。三年生だ」
すべてがつながった……
彼はヴェロニカの兄だったのだ!
*そして、ウィルフォードは『このクソ小説、間違ってるだろ』の登場人物だ!*
僕は慎重に彼と握手した。
「よろしく……」
彼は強く握り返してきた。
「ウィルフォード、いい加減にしなさい。一年生たちとの話を終わらせるわよ」
その人物は……何というか、僕には本当に見覚えがなかった。
その後、彼らは他愛もない話をしたり、簡単な自己紹介をしたりして終わった。
話によると、これは毎年、各クラスで行われる恒例行事らしい。これから同じクラスになる生徒たちを知るためのものだそうだ。
さまざまな話題が出たが、間違いなく最も重要だったのは自己紹介だった。
「私はセレスティーヌ・レイヴンコート。エルシュライア王国の王女よ。現在、上級魔法に手が届くところまで来ているわ。それに、遠距離魔法の適性があり、根源魔法に偏向適性があるの」
彼女は気品のある容姿をしていた。尖った耳に平均的な身長、灰白色の長い髪。そして、思わず見入ってしまいそうな青みがかった紫色の瞳をしていた。
*上級魔法に手が届くところだって! それに、つい最近、小説には存在しなかった偏向魔法というものを知った。これは、あらかじめ定められた適性分野には含まれない特殊な専門性のようなものだ。偏向魔法にはさまざまな種類がある。ゴーレムの創造や、根源魔法のように根を操り、木や花に関係するものを生み出したり、さまざまなことを可能にしたりする魔法。さらには予知や予言夢など、ほかにも奇妙なものがあるらしい。*
「私はエヴェリス・アリステア。この王国の王女よ。安定した中級魔法を使えるわ。攻撃魔法の適性があり、火魔法に偏向適性があるの」
短いながらも美しく手入れされた深紅の髪。僕より少し高い身長。そして、不思議と彼女によく似合っているミントグリーンの瞳をした少女だった。
「俺はソフレン・ガルガー。ドワーフで、奨学生だ。安定した中級魔法を使える。魔法戦士の適性があるが、残念ながら偏向適性はない」
筋肉質な体つきが目を引いたが、それ以外はごく普通の人物だった。茶色の髪に、明るい茶色の瞳をしていた。
「俺はリアム・ヴァルシュタイン。上級魔法を不安定ながら使える。短距離魔法と魔法戦士の適性がある」
彼が二つの適性を持っていると聞いて、全員が驚いた。
「残念ながら、偏向適性はないけどな」
彼は本当に目立つ容姿をしていた。真っ黒な髪に、僕から見ればとても高い身長。そして、赤みがかった瞳……
*背筋が寒くなった……*
「君の番だ」
僕は目を見開いた。
「え、僕?」
*魔法のレベルを偽ったほうがいいのか……?*
「そう、君だよ」
*いや、魔法のレベルについては嘘をつかないほうがいいな。*
「えっと……ハロルド・フォン・シルフォードです。中級魔法に届きそうなところです……」
彼らは、僕がもっと何かを言うのを待っているようだった……
「適性や偏向適性は?」
「……まだ適性検査を受けていないんです……」
数秒間、全員の視線が僕に突き刺さった。
残りの自己紹介は、特に問題もなく普通に進んだ。
ウィルフォードが帰ろうとしたので、僕は彼の肩をつかんだ。
「聞きたいことがあるんです」
「聞こう。ただし、訓練のアドバイスなら、相手を間違えたな」
僕は首を横に振った。
「二年生にカズキ・アインズワースという生徒はいますか?」
彼は頭をかいた。
「ああ、いるよ。でも今日は来ていないな」
「ありがとうございます」
僕の疑いは確信に変わった。この小説の主人公は、本当に存在している。
その後は、特に急ぐことも心配することもなく、ごく普通に一日を過ごした。




