アレシア
父さんは口元を拭った。
—数日前のパーティーで、アレシアとその姉に会っただろう?
*できれば本当に忘れてしまいたい……。 *
—はい、父さん。ただ、お互いに話す機会はありませんでした。
父さんは顎を撫でた。
—ああ、そうだ、ハロルド。明日の朝、馬車がお前を迎えに来る。数日間、アストレア家で過ごしてこい。
俺の手からスプーンが落ち、皿に当たって音を立てた。
—え? —俺は呆然と呟いた。
ヴェロニカはいつものように笑っているだけだった。
—俺の訓練はどうなるんですか? —言い訳を探すように尋ねた。
—五日か、一週間くらいだ。大した期間ではない、ハロルド。それに、アレシアから何か学べるかもしれないぞ。あの子は数年前に魔法戦士の適性を開花させているからな。 —母さんは、まるで当たり前のことのように言った。
確かに、俺はまだ適性検査を受け直していなかった。
俺は椅子の背もたれに頭を預けた。
*本当に行きたくない……。 *
—頑張ってね、お兄ちゃん。 —クレアが笑いながら言った。
—ありがとう……。その言葉、必要になると思う。 — *アストレア家から生きて帰ってくるために……。 *
—よし、二人とも。早めに寝るんだぞ。 —父さんと母さんは食堂を出ていった。
食堂に残ったのは、ヴェロニカとクレアと俺だけだった。
—ヴェロニカ、寝ている間に襲われないようにする方法ってある?
彼女は顎に手を当てた。
—私が知る限りではないわね……。ハロルド、アレシアとは仲が良くないの?
俺はため息をついた。
—やっぱりそう思いますよね……。パーティーで色々あって……。それに、どうやら俺のことをかなり気に入ってくれたみたいで……。永遠の眠りにつかせたいと思うくらいには。
ヴェロニカは小さく笑った。
—安心しなさい、ハロルド。何かされるとは思わないわ。あなたは彼女の領地にいるんだから、そこで死んだら、あなたみたいな貴族の息子の死を隠すことなんてできない。それに、今のあなたの反射神経は私と同じくらいよ。まあ、力のほうはまだまだだけど……。ちゃんと避けること。そして、片目を開けたまま寝るくらいの気持ちでいなさい。
三人の間に、しばらく沈黙が流れた。
—ああ、そういえば一つ方法があるわ。
—え、あるんですか? どうやって? —俺は素早く尋ねた。
—寝ないことね。
—ヴェロニカ、嫌いだ。
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*俺たちの家よりずっと大きい……。 *
少しずつ近づいてくる足音が聞こえた。
—おや、あなたがシルフォード家の若様、ハロルド様ですね?
少し年配の男性だった。
かなり経験を積んでいるように見える。
—はい。ハロルド・フォン・シルフォードです。よろしくお願いします。
—こちらこそ、若様ハロルド。お会いできて光栄です。
*……若様。これが俺に付けられた執事なのか? *
大きな扉が開いた。
アストレア家は暗く、生気のない場所だと思っていたが、俺の予想とは違った。
そこには、美しく装飾され、丁寧に手入れされた広大な庭が広がっていた。
—こちらへ。客室までご案内いたします。
俺は大人しく執事についていった。
アストレア家の内部は、疑いようもなく美しかった。
細かく美しい装飾。
豪華な絨毯。
そして、エルフの王国に由来するものが数多く飾られている。
執事が足を止めた。
—若様、こちらが客室でございます。
—ありがとう。
部屋は広かった。
俺の部屋ほどではない。
それでも、かなり綺麗に整えられていた。
数分が経った頃、扉がノックされた。
—どうぞ?
扉の前にいたのは、見覚えのある人物だった。
*知っている……カサンドラ。アレシアの母親だ。 *
—あら、こんにちは、ハロルド。ここで快適に過ごしてもらえるといいのだけれど。直接あなたを歓迎しに来たのよ。
親しげな口調だった。
だが、どこか無理をしているように聞こえた。
—ありがとうございます、カサンドラ様。ここに滞在できて光栄です。
—こちらこそ、ハロルド。私の娘とも仲良くしてあげてね。
—そうなるといいですね。
俺の返事によって、二人の間の空気が張り詰めた。
—……ああ、そうだったわね。もう食事が用意されている頃でしょう。あなたもちゃんと食べていないでしょうし、食堂へ行きましょう。
食堂は俺たちの家よりもさらに豪華だった。
そこにはアレシアだけが席についていた。
—俺たちだけですか? —俺は不思議そうに尋ねた。
カサンドラは舌打ちした。
—ああ、あの二人は忙しいのよ。この数日は私たちだけになるわ。
—分かりました……。
アレシアとカサンドラは、葬式のような沈黙の中で食事をしていた。
料理は俺の好みからするとあまり食欲をそそるものではなかったが、味自体は悪くなかった。
—私はまだ片付けなければならない仕事があるから、あなたはアレシアと一緒にいてちょうだい。 —まるで俺たちを二人きりにしたがっているようだった。
カサンドラが出ていくと、すぐにアレシアが口を開いた。
—私についてきたら、今度こそ殺すから。
少し……怒っているような口調だった。
そして、そのまま去っていった……。
俺はため息をついた。
—どうすればいいんだ……?
—若様ハロルド。
不意を突かれた。
—な、何ですか? —息を整えながら尋ねた。
—どうか、アレシアお嬢様を恨まないでいただきたいのです。お嬢様は母親から強い圧力を受けております。
好奇心には勝てなかった。
—……昔から、あんな感じだったんですか? —ほとんど独り言のように呟いた。
執事は周囲を見回し、それから再び俺を見た。
—私の口から申し上げることではありませんが……昔からああだったわけではありません。最初の頃はお母様にもとても可愛がられていました。あの頃のお嬢様は、よく笑っていたものです。 —彼はどこか懐かしそうに、そして嬉しそうに語った。
—しかし、時が経つにつれ、アリスお嬢様の才能に影を落とされるようになりました。そして、アレシアお嬢様の母親は、家の中で二番手にならないよう、彼女にますます強い圧力をかけるようになったのです……。アレシアお嬢様は朝から晩まで鍛錬しています。朝はマナの訓練をし、夜になるまで剣術を続けている。それでも、アリスお嬢様の才能には届かない……。反抗とも言えるかもしれませんが、実際にはアレシアお嬢様のほうがアリスお嬢様よりも多く鍛錬しています。それでも、その努力がアリスお嬢様の才能を上回ることはできないのです。
俺は何と答えればいいのか分からなかった。
言葉が出てこなかった。
—あなたにこれをお話ししたのは、あなたならお嬢様にとって初めての友人になれるかもしれないと思ったからです……。あなたは、お嬢様を物ではなく、一人の人間として見ているように感じます。私は何世代にもわたってこの家に仕えてきました。だからこそ、良い人間を見れば分かるのです。どうか、お嬢様があなたを信頼できるような人になってください。
*昨日あんなことを言った自分が、本当に馬鹿みたいに思えてくる。 *
—俺……頑張ってみます。
この家に来てから見た中で、それは間違いなく一番温かい笑顔だった。
—ありがとうございます。
...
—ここが訓練場か……。
*家の訓練場は……まあ……ほんの少しだけ小さい……と思う。 *
明らかに怒っているアレシアが近づいてきた。
—セバスチャン、どうして彼をここへ連れてきたの?
—申し訳ございません、アレシアお嬢様……。
アレシアは苛立たしそうにため息をついた。
—あなた、邪魔をしたら殺すから。
俺に返事をする時間すら与えず、そのまま離れていった。
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ここ四日間、俺はアレシアの訓練に合わせて過ごしていた……。
完全に疲れ果てたが、これも強くなるため、そして彼女と会話を始めるための一つの方法だった。
とはいえ、彼女はいつも俺が話す暇すら与えず、会話を終わらせてしまう。
だが、最近は俺がどこかで間違った動きをすると、時々こちらを見るようになった。
*パーティーでのあれは、どうやら衝動的な反応だったらしい……。振り返ってみれば、あのパーティーのときよりずっと落ち着いている。 *
—そろそろ訓練場へ行くか。アレシアももう向かう頃だろう。
未だに慣れない。
庭は俺たちの家と比べると、あまりにも広い。
花は毎朝、水を与えられ、丁寧に手入れされている。
—中で起きていることと比べれば、間違いなく綺麗な景色だな……。
何かが俺の肩にぶつかった。
—邪魔。どいて。
アレシアは俺を見ることすらなく言った。
*ここへ来てから、俺に話しかけてくれたのはこれで五回目くらいか……? 喜ぶべきなのか? *
...
俺はヴェロニカから見た、いくつかの新しい動きを試していた……。
そして、転んだ。
—くそ。
だが、小さな笑い声が聞こえた。
俺は気にせず、そのぎこちない動きを続けた。
少しずつ、夕暮れが近づいてきた。
俺は庭に座り、美しい花々の間から差し込む夕日を眺めていた。
—そろそろやめたほうがいいかもな……。
そのとき、柔らかな剣の音が聞こえた。
ほとんど催眠術のような音だった。
アレシアだった。
彼女が真面目に鍛錬することは、最初から分かっていた。
だが、その鍛錬量は異常だった。
俺はかろうじて彼女についていける程度だった。
風を切る剣の音。
まるで本当に風そのものを斬っているかのようだった。
そして、アレシアの動きはとても繊細だった。
まるで剣と一緒に踊っているようで、その一つ一つが丁寧で、 hypnoticで、美しかった。
だから俺は、ただこう思った。
—剣の姫……。
*この土地に伝わる古い伝説みたいだ……。まるで、彼女自身がその姫であるかのように……。 *
—そうだな。あの伝説みたいに見えるだろう?
俺は背筋に悪寒を感じた。
セバスチャンだった。
—その伝説では、姫は母親に抑圧されていた少女だったそうです。彼女は剣術を愛していましたが、母親は「姫に剣術など必要ない」と言って、彼女が鍛錬することを許しませんでした。
—そしてある日、巨大な古代竜が王国を襲ったのです。兵士も、王国軍も、誰一人としてその恐ろしい古代竜を止めることができませんでした。
—しかし、そのとき姫は一本の剣を手に取り、自ら竜との戦いを指揮しました。三日二晩にわたる戦いの中で、彼女は重要な役割を果たしました。そして最後まで立っていたのも彼女であり、最後に竜の首を斬り落としたのも彼女だったのです。
*知っている……。ハロルドが幼い頃、この物語が大好きだったから、俺もよく知っている。 *
俺はオレンジ色に染まった夕焼けを見つめた。
—俺は結末が嫌いだ。姫は母親の手によって殺されるから。
セバスチャンは未だにアレシアを見つめていた。
そして、数秒間目を閉じた。
—ええ。私も、あの結末が繰り返されないよう、天に祈ることしかできません。
俺は苦い笑いを浮かべ、もう一度アレシアを見た。
そして、自分の手を見る。
—よし。もう少し鍛錬するか。




