Episode5 - 珍しいタイプの面倒事
ダキニの遺跡……正式名称を『長狐屋敷』。
私とフレデリカによって攻略された数々の遺跡を取り込んだ結果、内部構造は初めて侵入した時とは一変している。
他の遺跡と変わらない石造りだった床や壁は、今では何かの木を使った床に、部屋を仕切る襖や漆喰に近い白い塗り壁へ。内部に出現するモンスター達は、湿地特有のモノから人狐や黒狐、白狐といった狐モチーフのモノに変化。外から見たこの遺跡の出入り口も、以前までは他の遺跡とそう変わりないものだったのにも関わらず、今では稲のような植物が周囲に生えた1本の襖がちょっとした岩場に設置されている様になっている。非常に目立って仕方がない。
そして……一番変わったと言えるのはその内部の広さだろう。
以前は私が全力で走ればすぐにでも探索が終わっていた程度の広さしかなかったそれは、今ではロレリアの首都であるガスフロスに近い程の大きさになっている。
その内部では人狐を始めとした命令を聞く事が出来るモンスター達が日々様々なモノを作ったり鍛錬したりと……現状の上位層のプレイヤー達でも侵入して無事に帰る事が難しい遺跡と化していた。
さて、何故突然こんな私にとってはほぼ常識となっている情報を思い返したかと言えば、
「勝負だ勝負!俺が勝ったらこの遺跡を頂くからな!」
「えっとえっと、別に私はこの遺跡の所有者という訳ではなくてですね……」
「嘘吐け!お前が何度もこの遺跡に入っていくのを見てるし、何なら攻略済みの遺跡とこの遺跡をリンクさせて吸収させてるだろ!お前が所有者じゃないと出来ないだろ、そんな事!」
「うぅ……話を全く聞いてくれない訳じゃないのに話が進みません……」
そんな遺跡に関する面倒事が発生してしまったからだ。
人狐に化けたダキニと共に、遺跡内のショートカットを用いながら辿り着いた出入口付近の外。
そこには、困り果てたフレデリカの姿ともう1体。人の言葉を話すモンスターが居た。
見た目は人に近いものの、以前大量に倒し喰らったゴブリンにも近い。
声は……少年の様に高く若い。恐らくは男性だろう。
何の種族かはあまりはっきりしない為、出来れば持っているスキルか何かを確かめてからアクションを起こしたいが……流石に身内を困らせているのは頂けない。
私はダキニにそのままそこに居るように手振りで伝え、瞬時に全身を骨の甲冑で覆ってから。
「やぁやぁ君。女の子にそうやって絡んでると怖ぁーい人に連れて行かれちゃうぜ?」
「何だ?!今はこの人と俺が交渉ちゅ……うで……」
肩を軽く叩き、こちらを認識させてやると。
初めはフレデリカに対して発していた様な威勢の良い言葉が、徐々に尻窄みになりながら。
最終的に滝の様に汗を流しながら顔を青く染めていく。
この姿を見ただけでこうなると言う事は……恐らくは先の大型イベントでの私の試合を見たプレイヤー、もしくは私に森の中か何かで喰われた何者か。又はメントゥム戦に参加していたか、だ。
ただのモンスターであれば、骨の甲冑を見ただけではこうはならない。少し知能があったりボス級であれば、逃げたり交戦……もしくは交渉などに移るだろうが、他のモンスター達にそのような事をする知能は一切ない。見つけたら攻撃、相手を殺すまで止まらない殺戮マシーンのようなものなのだから。
「私の事を知ってるね?」
「は、はい……あの、どうか食べないでください……」
「うん?別にこっちに危害を加えてこない限りは食べないさ。まぁただぁ……」
私達が来た事に気が付いたフレデリカは、すぐに移動しちゃっかり私の背後へと隠れながら相手の事を伺っている。
まぁ良いだろう。この場でこのような役を選んだのは私なのだから。
「なんでウチの子に絡んでたのかを教えてもらえないと、ねぇ?」
「そ、それは……」
「ん~?それは~?……なんかお腹減ってきちゃったなぁ」
「ヒィっ!」
私の一挙手一投足に怯える姿を見るのは……少しばかり面白い。
あまりそう言った癖がある訳ではないが、目の前のこのプレイヤーのリアクションが良いのもあって少しばかり意地悪したくなってしまう。
だが、あまりイジメていても話が進まない。
フレデリカに絡んでいた分はこれくらいで良いとして、そろそろ本題を話してもらう事にしよう。
「んんっ。あは、冗談冗談。本当に襲わないから、君がなんでフレデリカちゃんに絡んでたかだけ教えてもらって良いかい?その理由によっては……まぁ、フレデリカちゃんを引き渡す事も考えよう」
「イヴさん!?」
「流石にフレデリカちゃんが悪かった場合は私達は出る幕無いからねぇ」
私の言葉に、心外そうなリアクションを取るフレデリカと、それはそうと首を振って肯定する変化中のダキニ。
いつもの談笑ベースの私達の雰囲気に、今すぐ襲われる事は無いと理解したのかそのモンスターは一度息を思いっきり吸ってから、
「お、俺は……この遺跡と勝負をしに来たんだ!」
「勝負?攻略するなら入れば良くない?」
「いや、違う!勝負は勝負……遺跡の支配権を賭けた遺跡同士の勝負だ!」
「『あ~……』」
「ね?ね?私悪くないですよね?」
私とダキニにとっては非常にタイムリーな話題を口にしたのだった。





