Episode2 - 何事も対話から
太い血管の様な肉の管。
それによって部屋の中心に吊るされる様な形で存在している心臓は、自らの名前を『リアライブ』と名乗った。
『ふむ。私の身体の近くに人間の国が』
「うん。だから、もし出来るならそこを堕とすのに協力してくれないかなって」
『協力か……』
現在私は、リアライブが部屋の中に作り出してくれた肉の椅子に座り、頭の中に響いてくる声と話している。
目の前の心臓からは殺気のようなものは感じ取れず、会話が出来る相手と察したからだ。
だが、ニドリーと話した時のように警戒自体は解いていない。
あまり言いたくはないが、私の様に相手をどう喰らうかだけを考えている所為で殺気なんてものを発さない輩もいるのだ。警戒していて損はない。
『しかし、私は見て分かる通り心臓のみ。戦力にはなれそうにないが?』
「まぁそこはうちの頭担当がどうにか配置やらを考えるさ。あくまで私のは提案であって、強制的な徴兵ではないからね」
『ふむ。ではもし断った場合は?』
「隠しても仕方ないから言うけど……制圧させてもらう。後続の憂いって奴は排除しておかないといけないし」
『成程な』
ここで、私の身体全体に絡みつく様な視線が向けられた。
視線の主は言うまでもない。目の前のリアライブだろう。元より心臓だけなのに私の事を認識しているのだ、何かしらの視認手段を持っていてもおかしくはない。
それこそ、私がもつ【口腔生成】のようなスキルも存在しているのだから、どうやっては考える意味が無い。
故に、考えるべきは……何故このタイミングで視線を向けてきたか、という事。
……こりゃダメだったかな。
いつでも骨の甲冑を生成出来るように意識を割きながらも、心臓へと話を促してみれば。
『まず、何度も言うようで悪いが今の私は心臓が本体。故に戦う事は出来ない』
「そうだね」
『そして、君達の様に人間の国を襲う理由もない。危険が迫っているならまだしも、こちらから攻めるには私が危険に晒されるリスクが大きくなってしまうからだ』
「それもそう」
椅子に座っていた腰を軽く浮かそうとして……動けない。
見れば、太ももや背中側に肉が張り付き拘束している様だった。
やられた、と思いつつ。しかしながらまだ危険ではないと判断して、
「じゃ、つまるところ」
『君達には協力出来ない。そして制圧されるつもりも……ない。私の産まれる為の糧となっていただこう』
『『『キシャァアァ!』』』
「あはッ」
心臓から無数の触手……ではなく。
細長いハリガネムシのようなモンスターが3体飛び出し、私を喰らおうと口を開いて迫ってきたのだ。
『『再誕臓 リアライブ』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数1』
ログが流れたのを確認しつつ、改めて私の身体の状況を確認していく。
腕……あまり動かない。ある程度、それこそ会話中にろくろを回すような動作をするくらいならば支障はないが、それ以上に大きな動きをしようとすれば、肉の椅子が関節の動きを止めてしまう。
足……動かない。こちらは椅子だけではなく、床すらもがいつの間にか巻き付いており、動かそうとしても全くもって動かない。
胴体……動かない。椅子の背もたれ全体が巻き付いている為か、現在の私が思いっきり動こうとしてもびくともしない。
普通ならば、もしくは公式イベント前の私ならばこれだけで詰み。大人しく諦めていた事だろう。
だが、今は違う。
「んんー、ちょっと嘗めすぎ」
『ギャッ!?』
『なっ……?!』
『『!?』』
動けないと思っていたのだろう。
このままハリガネムシに喰われる私の事を眺めているだけで済むと思っていたのだろう。
だがそうはならない。
『【捕食】が発動しました。バフ『攻撃力強化』が付与されました』
右腕に生成した5つの口で、動きを阻害する周りの肉を喰い破りながら。
私から見て、一番近くまで迫って来ていたハリガネムシの頭を掴み喰らいながら、鞭の様に使って他2体を叩き落とす。
『【魂喰い】が発動しました。バフ『全ステータス強化』が付与されました』
『【暴食】が発動しました。喰らった相手のステータスを自身のステータスに加算します』
『【暴食】が発動しました。デバフ『飢餓』が付与されました』
メントゥムとの、巫女との戦いを経て手に入れた私の新しい力……【暴食】。
元となった【大食漢】の能力はそのままに、【貪食】の能力に加え、私の持つ食事に関するスキルの効果を拡張する能力を持った大罪の名を冠するスキル。
拡張とはどういう事か?簡単だ。
喰らえばバフを得られる【捕食】ならば、バフと共に相手のステータスの一部を。
【魂喰い】ならば、一定量喰らわねば発動しなかったステータス低下がより早く、少ない食事量で。
それ以外にも、私がまだ確認出来ていないだけで数多くの能力を兼ね備えているのがこのスキルだ。
……うん、やっぱりキツイな『飢餓』。
だが、強力なスキルにはやはりデメリットも存在する。
【暴食】に関して言えば、効果が発動する度に『飢餓』と言う空腹感及びスリップダメージを受け続けるデバフを付与されてしまう。
それでいて、【暴食】の適用は任意停止出来ず、喰らえば喰らう程に強く、しかしながら確実に死に近付いてしまうのだ。
「でも、この飢餓感は心地良いもんだ!」
『くっ……!』
強化されたステータスで、他の四肢の拘束を引き千切りながら前へ出る。
リアライブは心臓。ハリガネムシのようなモンスターを体内……体内?に飼っている、もしくは産むことができるボス。
だが、数は私の前には意味を成さない。
1体、2体、3体と喰らう度に今まで以上に強く、そして強靭になるのだから。
「君が選んだんだ、だから喰わせてもらうぜ」
『まだまだァ!私は産まれ直さねばならぬのだ!ここで、こんな女に終わらされる訳にはいかぬのだ!!』
声と共に、先程よりも大量のハリガネムシを放出すると共に。
部屋全体が脈打った。





