Episode1 - 下拵えは何であっても大切
8章開始
Kaleidoscope Frontier Online。
『千変万化の可能性を君に』――そう謳われたVRMMO。人間だけでなく、モンスターのアバターをも使用しプレイする事が出来るそのゲームを始めてから……既に約2ヵ月近く経った。
色々なモノを食べたかった私イヴは様々な事をして、本当に色々なモノを食べてきた。
最初に降り立った湿地帯にて、近所に居た大家族を喰らい。
別のフィールドを見てみるかと探索した先で人間を喰らい。
初めて同じモンスターアバターのプレイヤーと蜘蛛を喰らい。
村の墓地にて巨大な骸骨を喰らったかと思えば、森の中で大量の人間達を喰らい。
大衆監視の中でテンション上がって忍者を喰らったかと思えば、大量の妖精達を糧にして。
最終的には巨大な蛙の腹の中で、元々人間だった筈の巫女を喰らった事でなんやかんやでワールドボスを倒す事が出来た。
中々に濃い約2ヵ月。だが、これからがそれよりも薄くなる事は……今の所、想像出来ない。
「よっとっと……」
『――ァッ!!』
「五月蠅い五月蠅い。黒板引っ掻いたような声出さないでくれるかなぁ」
こちらを両断しようと、頭上から迫る鉄の刃を半身になる事で躱しながら。
私は軽く相手の腕に対して手刀を入れて叩き折る。
現在、私が居るのは湿地……ではなく、ロレリアにほど近い位置に存在する遺跡の内部。かつて討伐したソウマの様に遺跡の中が変化しており、まるで何かの体内の様に肉の壁や床が時折脈打っていた。
だが、それについてはどうでも良い。
問題は、目の前に居るモンスター……人の肉が溶け、中途半端に骨が露出しているゾンビの様なモンスターだ。
……どっかの蛙よりも体内って感じだなぁ本当に。
中途半端である為に、肉体が損傷した場合はその影響を受けているし。
何よりゾンビに近いからなのか、人間の脳に元々掛けられているストッパーとも言えるモノが外れている為、見た目以上に膂力がある。
最悪喰らってしまえばいいのだが……消化途中にも見える相手を喰らいたいとは今の所思えない。
「食欲減退する訳じゃないけど……道中のモンスター達は食べる気がしないなぁ」
そんな事を言いながら、目の前のゾンビもどきを軽く叩き潰しながら遺跡の中を進んでいく。
私がこの遺跡を攻略している理由は本当に単純。
それは、
「ボスが話せるタイプだったら仲間になるかの打診をしてこい、ってダキニちゃんも人遣いが荒いよ。私モンスターだけどさ」
私達の今の所の長期目標の為の準備だ。
現在、私とフレデリカ、そして意思疎通が取れるボスであるダキニ。その3人……3体?が中心となって、ロレリアという国を堕とし、モンスターの国を興す為に様々な作戦を進めていた。
その中の1つ。戦力増強の為の遺跡の探索とボスモンスターの懐柔だ。
現状の私やフレデリカは、先の大型イベントのおかげでプレイヤーの中ではそれなりに上位の実力をつける事が出来た。何ならトップ層とも言えるだろう。
だが、どれだけ実力があったとしても相対する数が許容量を超えてしまったら簡単にやられてしまう。
ならばどうすればいいか?答えは単純だ。
敵が多いならば、こちらも味方を増やせばいい。
幸いにしてモンスターは弱肉強食。私の様に食欲で動いている様な個体は兎も角、基本的なモンスターは力を示せば従ってくれる。
「まぁフレデリカちゃんより私の方が適任だってのは分かるけどね。あの子はあの子で……下準備が忙しいっぽいし」
武闘派かそうじゃないかの違いだ。
私はソロで活動する事も多く、尚且つメインの攻撃方法が自らの口を使っての喰らい付くという……自分で言うのも何だが野蛮極まりないプレイスタイル。
対してフレデリカは、元より相手を拘束し取り込み捕食したり、今では植物によって足止め、生気を吸い取るフィールドを形成する等……攻めるよりも防衛の方が向いたプレイスタイル。
お互いがお互いに違う方向性故に、パーティを組んだ時には丁度良く噛みあうのだが……今回の様に、片方が手伝う事が出来ない事柄をやらねばならない場合には、てんで手を出せなくなってしまう。
……んー……でも今回の遺跡は外れっぽいな。
私が仲間、と言うよりは下僕にしたボスは未だ居ない。
言葉を理解し、話が出来るボスであっても我が強くこちらの言葉に全く耳を傾けようとはしてくれない。
そもそも、ダキニという他の存在と協力する意志を持つボスの方が異端なのだ。
ボスモンスターである時点でユニークであり強力なモンスター。そんな状態で他と協力して大量の人間と敵対しよう!と言われても……素直に首を縦に振る訳がない。
「さて、と。早速ボス戦行きますか。あんまり期待してないけど」
肉の通路の中に現れた、異質な巨大な鉄の扉。
ゆっくりとそれを開いていけば……その中に居たのは、私よりも1回りほど大きい巨大な心臓だった。
扉が開いた事、そして私が立っている事には気が付いているだろうが……そもそもとして意志があるのかどうかも怪しい類の相手だ。
警戒しつつも、私はゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れる。
ログも流れておらず、まだボス戦が始まっている訳ではないのは分かる。しかしながら、静かすぎるというのも困りものだ。
私から攻撃しても良いモノか、そう迷っていると、
『……ふむ、客人かね。先程から我が身体の中を何かが進んできているとは思っていたが』
「!?……えっ、もしかして君が話しかけてきてる?心臓?」
『君も何も、この場には私と客人しか居ないだろう?』
突然、脳内に声が響き渡った。





