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人を喰らう、味方も喰らう。両方やらなくちゃならないのが屍人喰いの辛いところだね  作者: 柿の種
第7章 初めてのワールドボス編

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Episode12 - VS『拷掠審獣 メントゥム』5

本日5話更新。

こちら5話目。


 言葉による答えは返ってこない。

 代わりに返ってきたのは、先程と同じ……否、今度は拘束した上で確実に殺す為にと無数の銛を握った触手だ。

 油断すれば腕や足、もしかしたら首を貫かれるかもしれない。

 だが、私は更に前へ征く。

 懐から、更に前へと両腕を広げながら一歩踏み出して。


「イタダキマス」

『――ッ』

『【カニバリズム】が発動しました。一定時間『全ステータス強化』並びに『視野狭窄』が付与されました』


 抱きしめる。

 瞬間、女に触れている部分の甲冑を全て解除して肌を露出させ口を生成し捕食する。

 まるで食虫植物の様に。アリジゴクの様に。世界のあらゆる待ち伏せ(アンブッシュ)捕食者(プレデター)の様に。

 キルゾーンに入った存在を逃がす事なく捕食出来るように、締め上げる。

 普通ならば、そんな行動は許されない。すぐにでも振り解かれ迎撃され命を落とす事だろう。

 しかしながら、今はこれまでの全てが私の味方をする。

 ここまで重ね続けてきた【捕食】、【魂喰い】のステータス強化。相手の僅かな動きを感じ捌く事が出来る様になったダキニとの戦闘訓練。それらの基礎となっている魂食いという種族。

 そして今。そこに相手の身体が人間のモノだとシステムが答えを示した。


『ッァ!』


 逃がさない。

 例え、私の身体が銛によって貫かれようとも。

 私が抱きしめるように捕食している間は、私には死が訪れない。


『ォオッ!』


 逃がさない。

 どれだけ触手に四肢を掴まれ引き剥がされそうとなろうとも。

 魂を、巫女の魂に纏わりついたソレを喰らい尽くすまでは、決して口を離さない。


『……ァアア!』


 逃がさない。

 頭が幾ら貫かれようと、心臓が機能を停止する程に滅多刺しになろうとも。

 そう成って尚、私は食欲を満たす為に目の前の柔らかい肉を喰らう為に、倒れない。


「あは、良いじゃん良いじゃん。君の味結構良いね。メントゥムよりもずっと私好みだ」

『【魂喰い】が発動しました。一定量同じ対象より魂を喰らいとった為、対象に対しデバフ『ステータス低下』を付与しました』

『ッ……!』


 私の元々のHP自体はほぼ1。どこかで躓いただけでも死ぬ、そんな状態だ。

 しかしながら【貪食】、そして配下から共有される【大食漢】による追加HPだけで元々の最大HP以上のHPを今は保有している。

 だからこそ倒れない。

 急所を貫かれようが、普通だったら致命傷になるような傷を受けようが、その全てが私を死に追いやる前にHPが増えていくのだから。

 これこそが私の目指した、絶対に食事を邪魔されない為のプレイスタイル。食事中に死ぬのが怖いならば、死なないようにしてしまえばいい。HPが削られてしまうならば、無くなる前に増やせばいい。


「んはぁ……あぁ、惜しいなぁ。今がこんな状況じゃあなかったら君の事を全部食べてあげても良かったんだけど」


 食欲が満たされていく、腹が満ちていく。

 多幸感にも似たそれを感じながらも、私の口は止まる。

 ただの敵モンスターであったならば、そのまま喰らい尽くしていた事だろう。それほどまでに目の前の女の肉は、血は、魂に纏わりついた何かは美味かった。

 ただの人の味ではなく、何処か清涼感すらも感じる甘い肉。筋繊維を歯で断ち切った時の感覚はほぼ感じず、そのどれもが極上の赤身肉を喰らっているかのような、強い肉の旨味と脂の舌触り。

 これまでに喰らったどの肉よりも上等で、だからこそ最期までその命の味を味わえない事が本当に惜しい。


「どうだい気分は?こっちの視点からだと……多分君の魂に纏わりついてたのは全て喰らい取れたんだけど」

『……意識がはっきりとしたのは、本当に久方ぶりです。そして、モンスターと会話をするのも』

「うんうん。なんか上手く行ったようで何よりだ」

『貴女のおかげ、とは言いたくはありませんがね。一部とは言え私の魂も喰らわれていますから』

「そこはほら、不可抗力というか。その……ね?美味しかったぜ」

『普通、美味しい云々は人に対しての褒め言葉には成り得ませんよ』


 女……否、呆れたような表情を浮かべる彼女の魂は、既に何にも纏わりつかれていない。

 姿形は変わらず、私が喰らった部位が痛々しく噛み千切られているものの……それに痛みを感じ蹲る事もない。

 そんな機能は無いかのように。

 ゆっくりと抱きしめていた腕を外し、一歩、二歩と距離を離して改めて彼女の顔を見る。


「で、君は……多分、ロレリアの巫女さん……で合ってる?」

『確かに私は民にそう呼ばれていました。そして、貴女は見たと思いますが』

「あぁうん。君が人身御供になった感じの奴ね」

『……そう、私には確かにアレを封印する力がありました。あの儀式はその力を増幅する為のモノ。その上で……こうして、今、私はアレと永い時を過ごし、魂が囚われてしまった』


 恐らくはゲームによくあるムービーシーンの様なモノなのだろう。

 普通のプレイヤー……それこそ、勇者気質なプレイヤーだったならば、この場でメントゥムに対して怒りを覚えたり、何なら巫女と共にメントゥムを再び封印する、なんて事を考えるのだろう。

 しかしながら、良くも悪くも私はその手のプレイヤーではない。どちらかと言えば悪側だ。どう転んでも善ではないだろう。


「あー、うん。ごめん。そういうの良いや。どうすればメントゥムを倒せるかだけ教えてもらっていい?」

『……本当に貴女は救いようがありませんね……』


 私の無神経な言葉に巫女は額に手を当てて天を見上げてしまう。

 仕方がないだろう。巫女側にも事情があるのかもしれないが、こちらにもこちらの事情があるのだ。

 実の所、今も腹の中へと入り音沙汰の無い私へと向けて、フレデリカとロートからのチャットの通知が止まらないのだ。少しだけ鬱陶しいと思う程には。


『分かりました。分かりましたよ!えぇ、やりましょう。アレを討伐するのですね?良いでしょう。私の力を貸します。そしてアレの急所の位置を教えますので、そちらの方に放ってください』

「お、良いね良いね話が早い。ちなみにそれをしたら君はどうなるんだい?」

『――死にます。今度こそ』

「……あぁ、そうかい」


 先程まで喰らっていた相手に何でもないかのように言われた事に少しだけ思う事がありながら。

 それをしっかり飲み込み、空いた腹の足しにして。


「で、私は何をすれば?」

『そのままそこに立っててください。変な事をされるよりもそっちの方が確実なので』

「ひっどい事言うなぁ、まるで私が聞き分けのない子供みたいじゃないか」

『それよりも性質が悪いと私は思いますよ……良し』


 私が彼女の過去を見た様に。彼女もまた、私の過去を……このゲームにおける始まりから今までを見たのだろう。

 人間であり、人間の繁栄を願い、人間に仇なす存在を封じた彼女だからこそ。

 モンスターであり、自身の食欲の事しか考えず、進んで人間を喰らおうとする私を、だからこそ嫌っているのだろう。

……ま、万人受けするようなキャラじゃないのは分かり切ってるからね。

 私が独り苦笑を浮かべていると。

 私の背後へ回り込んだ巫女が両肩へと手を乗せた。

 瞬間、肩から全身へと向けて暖かい何かが入り込んでくる。


「おぉ……いいね、肩こりとかに効きそう」

『……一応、私の時代には退魔の力、と呼ばれていたものなのですが……平気そうですね』

「なんてもん流し込んでんの?!」

『いえ、その膨大な食欲もこれで少しは抑えられるかな、と』

「良い笑顔で言うもんじゃあないよ!……でも」


 何をすればいいのか、流し込まれた力をどう使えばいいのかが頭の中に流れ込んでくる。

 ここがゲームの世界でなかったら自らの正気を疑うような状況。だが、それに乗っかって。


「やろうじゃあないか。君の最期の仕事の代理は承った」

『任せます。もう何処に放てば良いかは分かるでしょう?』

「あぁうん。凄いね、何となくなのにしっかりとここじゃないといけないってのが理解出来てる」


 私は身体の中のその力を意識して、右手に集中させていく。

 集め、不定形のそれを私が使いやすいように形を変えて。そして、いつも口や甲冑を作り出す時の様に……身体の内側から外側へと出力させる。

 すると、だ。


『貴女は本当に……』

「いやいやいや!これが本当に私的にはイメージしやすいんだって!本当に!」


 私の右手に現れたのは、1本の巨大なステーキナイフ。

 使い慣れている道具の方が色々と使いやすいだろうとイメージしたのだが……どうやら巫女的には不服なようで。しかしながら、時間が無い事も理解してくれているのか、不満そうな表情を浮かべながらも物事を進めてくれる。


『……はぁ。では、最期の力を流し込みます。御武運を』

「うん、ありがとう。君の事は……まぁ誰かに話しておくよ」

『貴女の言い分を信じる方がいらっしゃれば良いですがね』

「あは、本当に厳しいなぁー……ッとォ!」


 退魔の力と巫女が呼んだその力。それが示す方向へ……メタ的な話をすれば、私の視界上に現れたアタックポイントへと向かって全身の力を使って投げつける。

 そこには何もない、ただの虚空。

 肉の床でも、周囲に広がる瓦礫の山でもなく、何もない場所。しかしながら、ステーキナイフがそのポイントへと到達した瞬間。

 パキリという小気味いい音と共に、視界の下部に表示されていたメントゥムのHPが大きく減少していくのが目に見えた。


『……ありがとうございます』

「ん、何も良い事はしてないから感謝の言葉は要らないよ」

『そうですね。そうでした。モンスター相手に感謝を述べてしまっては、これより逝く地にて同胞達に叱られてしまいます』

「うんうん、それくらいが丁度良いさ。特に人間とモンスターっていう間柄の私達はね」


 広場が割れていく。

 特殊な空間だったのか、それとも巫女が作り出した空間だったのか。

 ステーキナイフが何かを貫いた後、広場という空間全体に亀裂が入り始めたのだ。

 その中で私は胡坐を掻いて、一つ息を吐く。


「ふぃー……後で怒られるなぁコレ。絶対に戻る、みたいな感じで来ちゃったからなぁここ」

『そう、ですか』

「そうなんだよ。私も本当はこのまま死ぬつもりとかなかったんだけど……流石にもう動けそうに無いや」

『そ、れは……残念、でした……ね』

「あぁ、本当に残念さ。御馳走も食べ切れなかったし、戦いにも最後まで参加出来なかったし。そこんとこどうよ?」

『ふ、ふ……』

「笑いごとじゃあないんだよなぁ……」


 フレデリカ、そしてロートへと短くチャットを残して。


「まぁでも。楽しかったぜ、君との食事は」

『……』

「ありがとう。どうか次も健やかに美味しい肉と魂になっておくれ」


 私はゆっくりと目を閉じたのだった。


『あなたは死亡しました:全ステータス低下1時間が付与されます』

『『拷掠審獣 メントゥム』が討伐されました』

『ワールドボスが討伐されました。参戦プレイヤーに対し、報酬が分配されます』

『ワールドクエスト機能が解放されました』

『『拷掠審獣 メントゥム』との再戦用コンソールが設置されました。今後、特殊フィールドにて『拷掠審獣 メントゥム』との再戦を行う事が可能です』

『行動ログ参照中……』

『条件の達成を確認。スキルの進化が可能です。行いますか?』


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― 新着の感想 ―
 やったことを並べると普通に英雄譚なんだけど(巨大な怪物の討伐に際し周辺被害を抑えるため危険を承知で体内へ侵入し、急所を攻撃して致命的な傷を与える)、 やってたことは普通に人食いというかなんでも食べ食…
巫女さんの踊り食い 禁忌な言葉よね ◯的に聞こえたりするけど食べてる相手が相手だからカニバリズムにしか思えないのが救い
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