Episode7 - 着いて、越えて、共に
ロレリアの首都、ガスフロス。
巨大な湖を中心に据え、その周囲に人々が居住地などを造り発展した都市であり、湖から採れる資源などを主に他の国に輸出する事で成り立っている。
当然、首都であるために厳しい検問があるにはあり、人に近しい見た目の私であれどモンスターは簡単には中に侵入する事は出来ない。
だが、
「越えたかな」
「越えましたね」
私とフレデリカには正直関係ない。
検問から離れた、簡単には姿が見えない位置。草原の草の陰に伏せるように隠れ、私は【影法師】を、フレデリカは【隠密】を意識的に発動させ。
時間的に陽が落ち、周囲が暗くなったタイミングで闇夜に紛れつつ。検問に立っている兵士の集中が途切れたタイミングでステータスに物を言わせ正面から通り抜ける。
ワールドボスが復活したタイミングであれば楽に侵入する事もできただろうが、それをしなかったのには理由がきちんと存在していた。
「さて、目的の場所は……あっちかな?」
「まぁまぁ見て回ってみましょう」
「だね。フレデリカちゃんは【隠密】使ったままで、フードも被っといてね」
「分かってます分かってます」
検問から抜けた先、様々な建物の陰まで移動してから改めて周囲の確認を行った。
基本的には木造の建物が多く、ガスフロスの中心部に近付くにつれ石造の建物が増えていく。
夜に近い時間帯になったからか、兵士らしき人の巡回も多く、中にはプレイヤーらしき者も存在していた。
とは言え、ここまで私達の存在に気が付いていない相手を気にしても仕方がない。
そう考え、移動しやすいように建物の屋根にでも跳び乗ろうとした瞬間。
「はいストップ」
「「ッ!?」」
両肩に手を乗せられ、跳ぶ事が出来なかった。
瞬時に私は骨の甲冑を、フレデリカはフードの内側から何本もの植物の蔦を伸ばし、私達こ背後に居る人物を排除しようとして、
「ちょっ、やめてやめて!私私!ロートだって!」
「……本当?フレデリカちゃん」
「……一応一応、本当みたいです?」
「やめてよ本当……ここでデスペナ食らったら洒落にならないってぇ……」
中途半端に生成した骨の甲冑を解きつつ、両手に口を生成しながらフレデリカを背中から私の腹側へと移動させ、振り返る。
すると、そこに居たのは苦笑しつつ冷や汗を流しているロートの姿があった。
私と戦った時の装備を付け、見える位置には煙管程度しか武器は持っていない様に見える。
「なんだ、本当にロートちゃんじゃん」
「ですねですね」
「だからそう言ってるじゃん?!……と言うかお二人さん?」
「「?」」
「流石に検問をすり抜けてくるのはやめてもらっていいかな……突然、私の索敵範囲内に結構強いモンスターが2体もパッと出てきたから、焦って走ってきたんだけど」
どうやら、私達が正式な手続きを踏まずに侵入したが故にロートがここに来たようだった。
だが、それについては私達にも言い分がある。
「いや、私達モンスターだし」
「そうですそうです。検問なんて通ろうとしたら兵士の皆さんを殺さないといけなくなっちゃいます」
「そうならないように、今日と明日だけは人型のモンスターも取り調べをしてプレイヤーなら中に入れる様にしてあるんだよ……掲示板にも載っけておいたんだけど……」
「「あー……」」
どうやらしっかり、私達が悪いらしい。
2人して確認してみれば、掲示板には確かにその旨については書かれており。
時間的に、私はダキニとの組手を。フレデリカは遺跡内で庭園を作り上げていた時間帯。
見ろと言われなければ見ないであろう状況だった。
「……ま、いっか。目的の合流も出来たし」
「……た、確かに確かに。ロートさんに合流出来れば、別に普通に歩いてても問題無いですしね?」
「はぁー……いや、もう何も言うまい……まぁフレデリカちゃんの言う通り、私と一緒に行動してれば兵士の人達に何かされる事はないよ」
そう言うロートと共に、私達は建物の陰から表の通りへと踏み出して。
正式に、ガスフロスという都市に足を踏み入れたのだった。
―――――
「で、どうだった?道中」
「そりゃあもう何人倒したか分からないくらいやったかな?何人だっけ?」
「えぇっと……湿地から草原に出るまでにモンスターアバター含めて5人、草原から此処に近付くまでに……確か13人くらいですかね?」
「……多いな」
とりあえず。
まずは一息つこうということで、ロートが良く使う酒場へと入り適当な食事を摂る事になった。
この合間にも、私には配下達から送られてくるバフが。
フレデリカは……何やら目を凝らさねば見えない程度の大きさの種子か何かを周囲に放ち続けている。
ロートが何か言いたげではあるが、この後に控えたボス戦で役に立つならば、と黙認している状態だ。
「やっぱり目立ってたからかな、私」
「それもあるとは思う。それと、妨害派だった……」
「サラシナくん」
「そう、サラシナくんから情報を抜いたのも関係してるとは思うよ。向こうからすれば、イベント終了っていう気が抜けるタイミングで放出!って計画だったのが潰された訳だし」
「あぁー……ありそう」
結構私は妨害派からのヘイトが高いらしい。
だが、道中で戦って分かったが……そこまで彼らの練度は高くはない。
精々がヒルマと同格、それ以下程度しか居らず、私という存在を相手にするには実力が足りないとしか言いようがなかった。
……ま、あわよくばって感じなんだろうな。時間稼ぎが出来たらって。
それでも、彼らはしっかりと仕事はこなした。
おかげさまで、半日以内……昼間の間には検問近辺まで辿り着き、ロートに連絡を入れようと考えていたというのに、結果として合流出来たのが今。
掲示板を見れば周知すべき事は載っているが、それ以外の……ロート個人が持ち合わせている情報は、彼女からしか得られない。
「……で、状況は?」
「まぁぼちぼち、かな。封印を解く解かないに関係なく、封印されている場所は突き止めた。もうスオウくんを始めとした上位陣はそこの近くに簡易的な拠点を作って見張ってる」
「あのあの、妨害派は?」
「今の所邪魔はしてきてないね。あくまで今は人が集まるのを邪魔してるくらい。中よりも外の方が多い」
一息。
「あと2人はこれ」
「これは……」
「お守り、ですか?」
ロートが虚空から取り出したのは、木で出来た板の様なモノ。
赤い染料で装飾されており、そこまで強度はありそうに見えない。
「狂気関係のデバフを1回は防げる使い捨ての装備品だね。私が作ったやつ」
「へぇ。貰っておくよ。……ちなみに、封印場所は?」
「……それは」
ロートが口を開こうとした瞬間。
突然、空気が変わった。
……ッ、これは……!?
まるで、巨大な何かが目の前で口を開き丸呑みにしようとしているかの様な感覚。
背筋に氷柱を刺し込まれた様な、冷たく重い空気。
その出所は、
「緊急事態!緊急事態!――湖にて、水面下より巨大なモンスターが浮上!現在現地の討伐班が対応中!至急応援を!!」
「「!」」
「来ちゃったか」
ロートが店の中から見つめる方向。
その先には……このロレリアという国の象徴であり、繁栄の源である湖があり。
このタイミングでその方向を見つめる、と言う事は。
『全プレイヤーの皆様へと通達です。ワールドボス『拷掠審獣 メントゥム』の出現がロレリアにて確認されました』
予定よりも幾ばくか早く、ワールドボスが復活したという事だった。





