Episode6 - 経験から実戦へと
『……ッ、よし、今日はこれで終いにしよう』
「ハッハッ、ハッァー……」
私の放った一撃。
それによって、ダキニの頬に一筋の赤い線が描かれると共に組手の終了が告げられた。
『一番最初に出逢った時とは大違いの動きにはなったようじゃな』
「ふぅー……そりゃあ、ね。毎日毎日、経験値を集めてはダキニちゃんと組手し続けてたんだから」
『だからちゃんは……あぁもう良い。して、今日が出立の日であろう?間に合うのか?』
既にイベントは最終日。
予定では、明日にはワールドボスの封印が解かれロレリアにて復活してしまう。
故に、最後の調整として組手を行っていたのだが……まぁなんとか形にはなったようだ。
「行くだけなら大丈夫。私が背負えばフレデリカちゃんも半日以内には国には着くよ」
『ふむ。では汝らが出たのを確認してから入口を閉じよう。次会うのは』
「討伐後、だね」
『良い報告を待っている』
「あは、任せてよ」
そう言って、荒れた呼吸を整えた後。
私はダキニの遺跡内に出来たある部屋へと向かって歩き出す。
日を跨ぐ毎に、遺跡内が和風のそれに変わっていく中で……フレデリカの要望によって、土と太陽光が入る様に改装された1つの部屋。
彼女の庭園だ。
近付くと共に鼻に感じる植物特有の青臭い匂いと、華の香り。
木で出来た扉を開けると、そこには、
「あ、来ましたね来ましたね!」
「うん、来たよ。準備はいいかい?」
「勿論!」
全身を土から木へと変化させたフレデリカが、様々な植物の世話を行っていた。
私がダキニと組手を行い訓練を行なっていた間、彼女は彼女で経験値を集め植物を育み……そして、私と同じ様に特殊な存在昇華を遂げていた。
「樹木の魔女はどうだい?扱えそう?」
「存在昇華した直後は結構大変でしたけど……今ではこの通りです」
フレデリカが指揮者の様に指を振るうと同時、彼女の周囲の植物達が一斉に緑色の淡い光に包まれ……そして急速に成長し始める。
ドライアドの派生、特殊存在昇華……『樹木の魔女』。
ドライアドの中でも、植物の特徴、成長関係に精通し、それらを操る事で万の兵を作り出すとされる…….らしいモンスターであり、その見た目は今までのどの彼女よりも人間に近い。
とは言え、見た目が近いだけで彼女の皮膚に当たる部分は樹皮で出来ているし、最初期から持ち合わせている身体の軟性はスキルに依るものの為失われてはいない。
「ではでは行きましょうか」
「うん、行こう。って事で……ごめんね、イタダキマス」
「召し上がれ」
フレデリカが身体に巻きつき、背負っている様な形になると共に。
私は一言断ってから彼女の身体の一部を、手に生成した口で喰らう。
瞬間、【捕食】と【魂喰い】が発動し……私のステータスが跳ね上がった。
……これでフレデリカちゃん食べるのは……2回目かぁ。感慨深いね。
口の中に広がる、土の匂いが香る樹木の味。
決して美味しいと手放しに言えるものではない。しかしながら、私の……魂喰いである私の舌にはそれ以外の少しだけ肉の油の様な甘い旨みを感じ取れていた。
恐らくはこれが魂の味なのだろう。
そんな事を考えながら、強化された身体で足早にダキニの遺跡から外へと出る。瞬間、背後で地響きの様な音が聞こえたかと思えば……巨大な岩によって、入口が内側から塞がれていた。
「さて、と。フレデリカちゃん。ロートちゃんはなんて?」
「ロレリアまでの道の途中には特に変わった様子は無いと。でも逆にだからこそ気をつけてほしいと言ってましたね」
「うんうん、だよねぇ」
魂を喰らう事でフレデリカのステータスが下がる事も厭わず、今ここで彼女の身体を一部喰らったのには訳がある。
イベント終了後にロレリアにてワールドボスが復活するのは、既に掲示板などによってプレイヤー達には周知されている。他の国に所属しているプレイヤーも、この機会にとロレリアに訪れているくらいだ。
故にこそ。だからこそ。
ロレリアに訪れるプレイヤーの数を少しでも減らそうとしている妨害派が、各地に潜みプレイヤーキルをして回っているという情報が出回っている。
彼らもプレイヤー。そしてこれまで私達に準備期間があったように、彼らにも同様の期間が与えられているのだ。故に、警戒は怠れない。
「どうします?まだ食べておきますか?」
「いーや、これ以上食べてフレデリカちゃんが魂残量の低下で弱体化しても仕方ないからね。こういう時の為の子達を使うよ」
「あぁ、成程」
ロレリアへと向かう足取りを止めず。
私は頭上に太陽があるのをしっかりと確かめてから……【多産】を行使する。
瞬間、私の身体から産み出された魂喰いの数は5体。
その全てが私の指示を一瞬待ってから、
「事前の指示通りに」
声と共に私達よりも先行して走り出した。
私がこの準備期間で強化したのは、進化したスキルだけでは勿論無い。
主に私が扱うスキル全般……【噛みつき】に始まる食事系全般のスキルから、【多産】に始まる主従系スキルまで。
そして今、私の指示によって放たれた魂喰い達には5つのスキルを共有している。
【捕食】、【魂喰い】、【バフチェイン】のいつも通りの3つに加え、【主従共有】の制限によって進化前しか選択が出来なかった【聞き耳】に【大食漢】。
基本的にはモンスターを狩り、攻撃をしてくるプレイヤーに関しても喰らっていいという指示の元、私達よりも先行してロレリアの首都がある方向へと走っていく。
……ま、もうちょっと殺す事に特化させても良かったんだけど……下手したら私の戦闘中のバフの元になるからね、あの子達。
ワールドボスとの戦い中、私がまともに何かを喰らう事が出来るとは思っていない。
だからこそ、非常に心苦しいが……外付けの自動で動く口を放っておく事にしたのだ。
それに、既にロートを通じて私が配下を放っている事は討伐、保守派のプレイヤー達には伝わっている。その上で私の配下を攻撃するとなれば……それは喰らっても良い相手に他ならない。
「お、もうバフが入り始めた」
「良いですね良いですね」
「そうだねぇ。ま、私達は戦闘控えめで……早めにロートちゃんと合流出来るように頑張ろうか」
配下から共有されるバフと、自身のバフ。
それらを合わせる事で、私の足は今まで以上の速度をもって湿地から草原へと向かって駆け抜けていくのだった。





