Episode5 - 様々な流れを経て
KFOの経験値は2種類存在している。
1つは、モンスターなどを倒した時に得る事が出来る撃破経験値。私やフレデリカがボスやレッドキャップ達を狩る事で得ているのはこれだ。
撃破経験値はスキルの獲得やレベル上げを行う事が出来、KFOにおけるプレイヤーの強化の為に必要な重要なリソースとなる。
そしてもう1つ、それが行動経験値だ。
プレイヤーが取った行動を参照し、可視化されないマスクデータ上にて貯まっていき、一定値を超えると行動に沿ったスキルを獲得出来るというモノ。
所謂ラーニングと呼ばれる類のモノで、私で言うならば【隠密】や【疾走】、【恐怖耐性】がそれに該当するだろう。
「ッ、とォ!」
『ふむ、まだ遅い。こちらがどれ程遅くしようとも、これで当たるのであれば意味がないぞ』
「分かっ、てるよッ!」
こちらの動きに合わせるようにして、振るわれた閉じた扇子を部分的に骨の甲冑を生成する事で防ぎつつ……吹き飛ばされる。
空中で何とか受け身を取れるように体勢を整え、壁へと激突しそうになった瞬間に。
……蹴るッ!
何とか壁を蹴る事で、こちらを見据えつつも碌に構えていないダキニへと向かって再び跳んでいく。
実力差は明確。進化スキルを何個か得たとしても、私にはまだダキニを倒す事は出来ないと断言しても良いだろう。
とは言え。今回戦っているのは別に倒す事が目的ではない。
「イタダキマスッ!」
『!……ほう、それは上々』
距離が近付いていく中。
私は大きく開いた口を使い、ダキニの持つ扇子へと向かって【座標攻撃】を行使する事で噛み砕き。
両手に口を生成しながら接近して、
『だが、甘い。なんじゃその一直線の動きは。猪かお主は』
「げ、ふッ」
踵落としによって頭から地面へと叩き落とされた。
私のHPがほぼ0に……一桁まで減っていくのを視界の隅で確認し、私はその場から立ち上がろうとはせず。
そのまま余り物で作った白旗をインベントリから取り出し、軽く振る。
「ダメダメ、これ以上は死んじゃう……ありがとうございましたぁ……」
『うむ、お世話様。最初よりは動けるようにはなっとるが、それでもまだ甘いのぅ。イヴの持つスキルには碌に移動を行うモノはないんじゃろう?』
「無いね。1個もない」
『じゃったら、動きが直線的になるのは仕方ない。じゃが、それを良しとはしないのは……分かるな?』
「分かってる。まぁ……少しは考えてる事があるから、次の組手までにはものにしておくよ」
『呵呵ッ、楽しみにしておるよ』
私が今しているのは、格上であるダキニとの組手を通じた行動経験値の獲得だ。
このゲームの検証班が掲示板に載せている情報に依れば、行動経験値の獲得量は普段の生活や探索、戦闘中、そして格上との戦闘の順に増えていくらしく。
元々ダキニの元へと訪れた理由でもある組手を行う事で、それが本当かどうかを確かめていたのだ。
結果としては、
「でもおかげ様でスキルは1つ生えたかな。【防御増加】だけど」
『そりゃあ妾にあれだけ殴られ蹴られを繰り返しておったらそうなるじゃろ』
「あは、間違いないね」
【防御増加】。【筋力増加】などと同じ、アバターのステータスに影響するパッシヴ系スキル。
単純に身体が硬くなってくれる為、経験値を消費してでも後で獲得しようかと思っていたスキルだ。
組手中に延々一方的に嬲られた結果として得られたと考えると……まぁ、少し悲しくはなるが。
『して、お主らが言っとった封印されているモンスターが復活するのが……大体あと3日後程度じゃったか?』
「あぁうん。そっちの話するんだね……まぁその筈。ダキニちゃんからすると一応上司とかそういうのになるんじゃないの?絶対命令権とかあるんでしょ?向こう」
『ちゃんはやめい、ちゃんは。汝に様付けは諦めたが他にせい。……絶対命令権云々の話じゃが……まぁ、問題ないじゃろ。既にその辺りは自分の内側から弄っておる』
「……弄る?」
『妾は元より狐の一族。化かす事に関しては他の追従を許さん。そして今の妾となった力も合わせれば……自身の魂にちょいと細工を行う事で、絶対命令権の所有権などは書き換える事くらいは余裕じゃ』
「すげぇー……」
私にはちょっと理解出来ない領域の話をしているが、要するに。
ダキニは自らの認識や深層心理的な所をスキルや種族的な特徴を使う事で『化かし』、他からは命令されないように自我を確立させた、という事だろうか。
そもそもとして、ニドリーとは違い『月の従獣』の様な名前も付いていない事から、彼女がワールドボスの影響を受ける事は……少ないのだろうと思われる。
『だが、一応は復活してから討伐するまではこちらに訪れるな。妾の力は妾自身微塵も疑ってはおらんが……それでも万が一がある。下手にこの場を荒らすのも本意ではない故な』
「それはそうだね。どんな影響があるかも分からないし……一応復活前日から、此処に入れないようにしておく?討伐には大体1日くらい掛かるだろうから、その後に開けてくれれば良いし」
『うむ、そうしておこう』
とは言え、影響が一切ないとは言い切れない。
万が一を想定して動いていた方がいいだろう。
それに彼女が操られてしまったら……ワールドボスの討伐どころではない。こちらの対処にプレイヤー達の大半が追われてしまい、結果としてどちらも討伐しきれずに失敗なんて事も想定されてしまう。
だからこそ、大人しくしていてくれるならばそれが一番なのだ。
『……さて、そろそろ回復は終わったか?』
「……ほら、フレデリカちゃんとか……居るじゃん?」
『フレデリカは今、妾の居城の中に畑を作る場所を探して彷徨っておる。それに……お主、先程から気が付かれないように虚空から何かを出して口に入れておるじゃろ。気が付いとるぞ』
「あは」
【大食漢】から進化した【貪食】。
その効果は元からほぼ変わらない……と考えていたが、そうではなく。
私が喰らったならば、何でも一時HPに変換するように強化されていた。以前ならば敵を喰らわねばならなかったのも、適当な……それこそ、今まで使い道がほぼ無かったインベントリ内のモンスター素材も、全てが全て喰らう事で私のHPにする事が出来るようになったのだ。
「仕方ない。とは言え、これ別に回復した訳じゃなくて外付けで無理矢理回復した様に見せてるだけだからね」
『似たようなものじゃ。ほれ、時間も無いんじゃろう?疾く始めるぞ』
「ハイハイ、ッと!」
方向性は違うものの、私とフレデリカのワールドボスへの準備は徐々に進んでいる。
イベント終了、そして封印が解除されるまで……残り3日。
移動の事も考えると、ダキニの遺跡が閉じる日までにはある程度形にしておかねばならない。





