Episode6 - 考えていた以上の
さて、大量に迫ってくるレッドキャップに対して私が取れる戦法というのはそう多くない。
それこそ、今も私の横で自身の身体を触手の様にして何体ものレッドキャップを捕まえ喰らっているフレデリカに比べると……特別な事は一切出来ないと言うべきだろう。
だが、だからと言って何も出来ず蹂躙される訳ではない。寧ろ、この手の手数で押してくる相手は……得意な部類だ。
「ほいほいっと」
「ヌゥ!?」
「ヌッヌッ!!」
瞬間的に全身に骨の甲冑を生成すると同時、私の背中から何回かの衝撃が伝わると共に驚いたかの様なレッドキャップの声が聞こえてくる。
それに対し、いつもの様に甲冑の形状を変え、棘の様にしてやれば……逃げ切れなかったレッドキャップの数体かは、その身体に棘が突き刺さって抜けなくなってしまう。
……うん、対処自体はバトロワの時と同じでいいね。
つい最近もやった事。
数多くの敵に囲まれている状況で、私の【骨鎧生成】と【聞き耳】、そして種族的特徴である魂感知は相性がいい。
それこそ、見えていない背中側の相手に対して無防備な姿を晒せる程度には。
「本当本当、硬いですねその鎧」
「ステータスを参照してるみたいでね。【捕食】とかを重ねるともっと硬くなるぜ?」
「いいなぁ」
「私としては、フレデリカちゃんのその身体の方が良いとは思うけどね」
そうして捕まえた背中側のレッドキャップについては放っておいて。
次々に迫ってきている他のレッドキャップに対して右腕を振るう。
欲を出して喰らう事はしない。1、2体ならば今の状態でも無理矢理喰らいにいけるだろうが……それをしないのには理由がある。
……くるかな。
レッドキャップ自体はそこまで強くない。
今も私の右腕が当たっただけで吹き飛び、遺跡の壁へと激突しただけで光の粒子となって消えていく程度には。
しかし、警戒は解かない。
私達が警戒しているのは彼らの数の多さではなく、
「来ます」
「オーケィ。まぁ自分の家の入り口でこんなに暴れられたらそりゃ出てくるよね」
空気が変わる。
広範囲の索敵、感知を持つ私とフレデリカはソレが近付いてきたのをすぐに察知して。
数巡遅れる様にして、私達に群がっていたレッドキャップ達もソレに気が付いた。
『何じゃ何じゃ、姦しい』
「……言葉、話せてるなぁ……」
ゆっくりと、遺跡の奥から現れたのは……私とほぼ同程度の大きさの、1体のモンスター。
3つの尾を持ち、服はある程度余裕がある様に見えるのにも関わらず、胸元が大きく見える様にはだけた和装。
獣耳……狐にも似た巨大な耳がぴくぴくと動き、周囲を探っているのが一目見てわかる。
女の狐獣人、とでも称するべき存在だった。
……色は……銀。触手は見えないって事は……あれ生成スキル系か。
ニドリーとの差異に少しだけ眉を顰めつつ。
私はソレの登場によって止まった戦場の中、ゆっくりと再度口を開く。
「質問、良いかな?」
『む?……成程、人かと思えば同胞か。赦そう、申せ』
「君の名前は?」
『……ほう?』
私の質問にソレは一瞬呆けた後。
大きく笑う。
『呵呵ッ!良いじゃろう良いじゃろう!妾の名か、確かに重要じゃろうて!――妾の名は『逆信狐 ダキニ』。この身に宿る力をもって、汝らと相対する者じゃ、覚えておれ』
「ありがとう、ダキニ……ッ」
『敬称を付けろ、痴れ者が』
「これは失礼」
名を呼んだ瞬間、私の頬を掠める様にして目に見えない何かが飛んできた。
そう、甲冑に守られている筈の私の頬に、だ。
頬へと指を伸ばし、甲冑が割られ血が流れているのを確認して苦笑する。
……あっちゃー……道中楽だったから嘗めてたのに……。
どうやら、しっかりと格上。それも今の一瞬で、私達の手には負えないのが理解できる程に。
強化していないとは言え、骨の甲冑をたった一撃。それも然程消耗もしていない攻撃でとなると……流石にどうしようもない。
いつの間にか横に来ていたフレデリカも、私の身体へと静かに身体を巻き付かせながら逃げる準備を進めている。
『さて、そちらの質問は聞いた。であれば、次は妾の質問に応えてもらおうかの』
「……答えられるものであれば」
『ここは妾の棲家。まだ構造を弄れてはいないのは家主として謝ろう。じゃが、ここで暴れられるというのは……妾の精神的に良くはない』
一歩、一歩と近づいてくるダキニの動きを見逃さない様に。
しっかりと見据えていれば。
次の瞬間。コマ落ちしたかのように、ダキニの綺麗な顔が私の目の前へとやってきていた。
「ッ?!」
『して、まだここで暴れるつもりかの?それともこのまま大人しく帰る……というのは、どうじゃろうか?』
「……発言、良いかな?」
『赦す』
一息。
出来る限り、ダキニを挑発しない様に気を付けながら。
「私達としては外に出ようとしていた所ではあるんだ。でも、ほら。周りを見てもらえると助かるのだけれど、この子達が延々と襲い掛かってきてね。どうしてもここで対処するしかなくなったんだよ」
『ほう』
瞬間。
私達の周囲に居た、レッドキャップ達の首が飛び光の粒子へと変わっていく。
当然、その動きは……私には見えていない。
『ほれ、これで良いじゃろうて。疾く去れ』
「感謝、するよ」
『呵呵、強者が弱者に施しを与えるのは当然の振る舞いじゃろうて』
私は目を逸らさぬように、ダキニを一瞬も視界から外さぬように後退るようにして遺跡の入り口へと向かっていく。
普通に考えれば失礼かもしれない。しかしながら……下手に彼女から視線を外し、見失った時の方が怖いのだ。
……魂、視えてないんだよなぁ。
私のスキルによって視える筈の魂。そこらのモンスターの魂すらも見通す事が出来る筈の私が、ダキニの魂は視えていない。
無い訳ではない。魂がそこにあるというのは、魂喰いという私の種族が感知している。
ならば視えていない理由は1つしかないだろう。巨大すぎるのだ。視界内に収まり切らない程に巨大な魂を持った存在。
魂の大きさは、その魂を持つ者の強さに比例する。そして、私の視界に収まり切らない魂を持つ者など……今の私達で相対出来る筈もない。
「……」
「……」
ゆっくりと、フレデリカを伴って遺跡の外へと出て。
視界内から遺跡の入り口が見えない位置まで移動してから、2人して大きく息を吐く。
どうやらこうにか、生存したままダキニの影響範囲から離れる事が出来たようだった。





