Episode13 - トーナメント1回戦3
「最初に一気に詰めれなかった時点で拮抗するのは決まってたしね。私にはその状況を打開する手段は……まぁ持ってないから厳しいし」
「……結構喋るね」
「そりゃあ、私こうしてこのゲームで人と会話するのって……身内以外だとさっきの試合が初だぜ?テンション上がって口数も多くなるさ」
「……そう、それじゃあ交流エリアで暴れないようにしないと」
「それはそうだね、気を付けておかないとなぁ」
スオウは私の正面から背後へと回り込み、新たに短刀を虚空から出現させたのを音で把握する。
ここまでの間に、私の骨の甲冑はほぼ限界。少しでも動けば途端に崩れ去ってしまうだろう。
「……さっきのバトロワよりもヒヤヒヤした。次は勝てないかもしれない」
「そう?それは嬉しい評価だね」
「……うん、本心。だから……今回はこれで終わり」
スオウが素早く、そして出来る限り音を立てない様に。
私にタイミングが悟られない様、短刀を首元へと突き立てた。
「うっ、ぐぅ……」
息が詰まる様な、喉の奥に無理矢理何かを突っ込まれて続けているような。そんな圧迫感と共に、私のHPが急速に減っていく。
だが、これで良い。寧ろ、これが良い。
念には念を、という事なのだろう。スオウが私に突き立てた短刀を捩じり首をへし折ろうとしたその瞬間。
「――ッがは、ごほッ……あっはァ!」
「なッ?!」
全身を締め付けている鎖を、甲冑ごと全力で引き千切る。
首には短刀が刺さったまま、流れる血で青い服が染まっていくのを視界の隅に捉えながら……私は左肩の部分のみだけ甲冑を再生成し、ヒルマに行ったように甲冑の形状を変え棘を射出した。
流石に私が突然ここまで動き出すのは予想していなかったのだろう。スオウは一瞬避けるのが遅れてしまい……右腕にそれが直撃してしまった。
……あっぶなぁ……でも間に合った。
首に刺さった短刀を抜かず、しかしながら右手に作り出した口を使う事で柄の部分を喰い折りながら。
私は笑みを浮かべながらスオウへと向き直り、棘の生える位置を移動させつつ左手で彼の肩を掴む。
「つぅかまえたァ!」
「……クソッ」
棘には勿論、返しが付いている為にちょっとやそっとでは外れない。
それを悟ったのかスオウはへし折ろうと手に生成した苦無を叩きつけるものの……折れない。少し前までとは違い、私の甲冑の硬度が上がってしまったが故に。
彼の勝機は、今ここに無くなった。
……とは言え、ゆっくりはしてられないな。
ここまで本当に長かった。
攻めようとして攻めきれず、相手の本体は魂での感知以外には見つける事が出来ない。
その上で、数による物量作戦も仕掛けられていたのだ。フラストレーションと食欲が溜まって、ゆっくり色々味わいたい所だが……生憎と、今も私のHPは減り続けてしまっている。
故に私は御返しをするように。丁度短刀を突き立てられた位置と同じ場所へと歯を立てて、
「それでは、ようやく……イタダキマス」
「くッゥ……!」
喰らう。
相手にダメージを与える手段として。
相手の反撃の手段を奪う手段として。
相手の精神を追い詰める手段として。
そして、私の食欲を満たす手段として……喰らう。
……うん、最初に食べたケントくん達が味が薄かった理由が大体理解出来たかな。
味はこれまで食べたどのプレイヤーよりも、血と肉の味が濃く。
ぷちぷちと歯で断ち切れていく筋繊維。そして仄かに残る臭みと酸味と、明らかに食用には向かない苦み。
明らかに今までとは違う、肉の味。だが、それを味わった私の舌は更に喰らうように衝動を湧き上がらせた。
「んぅ~……ぁはぁ……良いねぇ、凄く美味しいよスオウくん」
「……そう、かい!そりゃ良かったよッ!」
「あは。おいおい、さっきまでとは違って全然余裕が無いじゃないか。もっと余裕を持たないと人生やっていけないぜ?まぁここ仮想現実の中なんだけどさ」
スオウが逃げる事を諦めたのか、分身を再度使う事で私のがら空きとなった背中に攻撃を行うものの……既に、その攻撃によってHPが尽きる事はない。
【魂喰い】、【カニバリズム】、そして【大食漢】が発動した今の私に、何本もの苦無が突き刺さった所で……目の前に居るスオウが尽きない限り死ぬ事は無くなったのだから。
そして、スオウは元より逃げる事は出来ない。
鎖鎌に拘束されていた時ならば兎も角として、食事をトリガーとしたバフ系スキル3種と……彼自身がトリガーを引いた【背水の陣】による追加のステータス強化を経た今の私の手を振り解く事は出来ないのだから。
「……ま、まだ……!」
「むぐ……うーん、このゲームって調味料あるのかな。どう?スオウくんは何か知ってる?」
「……もっと、攻撃を……!」
「ぐちゅ……私さぁ、モンスターだから碌に料理とか出来てなくてね。今回の交流エリアで色んなものが食べれると良いなって思ってるんだ」
「……ぁ、あぁああああ!」
「んぐ……出来れば、今度普通に出会えたら人間の国の中に在る美味しい食事処とか教えて……っておっと」
愉しく、喋りながら食事を続けていれば。
スオウの身体は動かなくなると同時、光の粒子となって消えてしまう。
『そこまで!スオウ選手からの降参宣言がなされた為、この試合イヴ選手の勝利となります!盛大な拍手を!』
「「「……」」」
「おっとっと。忘れてた。……わぁー、皆応援ありがとうー」
静まり返った闘技場の中。
佐渡が困った様な声色でアナウンスするのを聞きながら、私の視界は転移前と同じ様に一瞬で切り替わった。
第一試合、終了だ。





