Episode12 - トーナメント1回戦2
分身には魂は存在していない。故に、目を瞑っている現状ではどこに分身が居るのかは音で把握するしかない。
私の持つ【聞き耳】のレベルでは厳しかっただろう。
だが、ここで効いてくるのがロートに任せ、調達してもらったアリスコスプレ……もとい、人型範疇であれば装備が出来る防具達。
……【聞き耳】のレベルが4になると本当に便利なんだなぁ……ちょっとイベント終わったら検討しよう。
数値的な防御力はあまりない。私が着ていた初期装備の布の服と大差ないだろう。
しかしながら、重要なのはそれに込められている能力。事前にロートに相談し、私に足りていなかった能力の内、索敵能力を伸ばせるように……私がこの防具を装備している間限定で何個かの探索系スキルをアクティブにしてくれるのだ。
その内の2つ。カチューシャと上半身防具には【聞き耳】がアクティブになる様に能力が込められていた。その結果が、
「ッ、ほっ、よっとォ!」
「……良くもまぁ、目を瞑って避け続けるよ」
「そっちもこの弾幕の中良く攻撃してくるね!お姉さんちょっと厳しいんだけど!?」
「……慣れ。それに勝負には手を抜くつもりもない」
「道理過ぎて何も言い返せないなぁ!」
避ける、避ける、避ける。
四方八方から投げられる苦無を、棒手裏剣を、スオウ本体からの攻撃を。その全ての、動きの始まりを音で聞き、避けられるように身体を動かしていく。
当然、人喰いだった時には出来ない動きだ。やろうと思ってもステータス的な意味でやりたい動きに身体が追いつかなかっただろう。
「……!」
「あはッ、油断したね?このままいけば勝てると思ったね?気が緩んだねぇ?」
私はその場から大きくは動かない。場所を延々と変え続けるのはスオウだけで良い。
分身達は遠距離武器……苦無などを主体として戦っているものの、スオウ本人は急所を狙う事に特化した短刀程度しか武器を持ち合わせていない。
故にこそ、だからこそ。
私は動かずに、スオウの魂が近付いてくるタイミングに合わせて甲冑の一部を崩す事で肌を露出させ……生成した口で武器を喰らう事が出来る。
今もそう。先程私が弾いたスオウの武器を、私は狙われた脇腹に大きく口を作り出し……喰らった。
……今ので私がモンスター系、喰らう事に特化した何かだってのは気付かれた。でもそれでいい。近付くしかないんだったらこっちは口を開けて待ってるだけでいいんだから。
【捕食】が発動する。
スオウ本体を喰らった訳ではない為に【魂喰い】も【カニバリズム】も発動はしないが、それでも私にはバフが付与される。
それを続けていけばどうなるか?答えは簡単だ。
10体以上にもなった分身の中で、攻撃を避け続けながらもバフを重ねていく私と。
攻撃手段が徐々に無くなり、碌なダメージも与えられないスオウ。
「さ、私は全然元気だよ。スオウくんはどうだい?」
「……まだまだ!」
スオウはこれまで使っていなかった、ヒルマも腰から提げていた鎖鎌を取り出し頭上で振り回し始める。
一瞬、私が音で動きを判別しているのを逆手に取ってその邪魔をし始めたのかと思ったが……違う。
……忍者ロールプレイしてる人達に人気なのかな、鎖鎌。掲示板とか見てた限りだと話題にすら出てなかった記憶があるし。
分身達が断続的に苦無を投げ続けるのに合わせるように、スオウはそれを私へと向かって射出した。
当然、普通の鎖鎌であれば直線的な軌道を描くソレ。避けるのは簡単だろう。
私はただそれを投げてきた事に疑問を感じつつも、私の左腕に当たりそうなそれを喰らおうと肌を露出させ、
「ッ」
喰らえない。
私が生成した口が鎖鎌を噛み砕こうとした瞬間、分身が投げた苦無が鎖鎌へと命中し軌道を逸らしたのだ。
分身達の投げる苦無や棒手裏剣は、私に命中するモノとしないモノの2種類が存在する。その命中する軌道のモノも、音で聞いてから避けられる為に特に対策などをしてはいなかった。
だが、ここに来て。早く分身を潰さずに数を増やされたが為の攻撃。
鎖鎌に何度もそれらが命中すると同時、軌道は私の身体の何処に命中するのか分からないモノと化す。
……こーれは私のミスだなぁ……!
そもそもが鎖鎌自体も特殊なモノなのだろう。スオウの手から離れたというのに勢いが全く落ちる様子がない。それどころか、軌道が少しずつ変わる度に加速している様子まである。
そうして、あれよこれよという内に。私の周囲からは鎖鎌が風を切る音しかしなくなる。
苦無などは既に鎖鎌によって逆に弾かれ落とされてしまっており、避ける必要が無くなったのは良いものの。ここまで私をその場から動けない様に捉え続けたのだ、功績は大きいだろう。
「結構ピンチっぽいなぁ……」
そう呟いた瞬間。
全方位から音が近付いてきている事を理解した。鎖鎌、その鎖の部分が私の身体へと近付いて来ているのだ。
スオウはそもそもとして、初めから私に鎖鎌を使ってダメージを与える事を狙ってはいなかった。
あくまでも手段。彼の狙う、私に徹る攻撃は……この先にある。
それが分かっているからこそ、私は……敢えて鎖鎌を受け入れる事にした。
抵抗する事なく、鎖が全身を縛り上げていく感覚を味わいつつも片目だけを開きスオウの位置を肉眼でも確認する。
私が完全に動けなくなった事を確認して、スオウの分身達は徐々にその姿を白煙にして消えていく。どうやら彼自身がスキルを解除したようだった。
「……避けなかったね、諦めた?」
「避けようがなかった、かな。全方位から苦無とか投げられてる状況でスオウくんの元まで行ってぶん殴れる程、私は強くないしね」
「……よく言う」
当然、諦めた訳では全くない。
今も鎖鎌の鎖は私の甲冑を締め上げているし、【捕食】で得られたバフも喰らったモノが武器であるから攻撃系のみ。甲冑の硬度を上げられてはいない為に、徐々に罅が入ってきてしまっている。
絶体絶命。本来ならばそう言うべき状況だろう。
ゆっくりと、私が何かしてこないかを警戒しながら近づいてくるスオウに対し、私は努めて残念そうな声音を出しながら話しかけ始めた。





