Episode7 - 私にとってはただの一食だった
刃と拳がぶつかり合い、火花が散る。
何本もの矢が私へと向かって飛び、それらを躱しながらも私は目の前の敵から目を離さない。
ケントはしっかりと、あの時から成長していた。装備や内面だけでなく、実力も。
以前は私の力に耐えられなかった筈なのに、今では両手に握る両刃剣を器用に使い、力を受け流す事で耐えている。
だが、耐えるだけでは私には勝てない。
「はい、イタダキマスッ」
「くっ、また……!」
『【捕食】が発動しました。バフ『斬撃ダメージ増加』を付与しました』
私の骨の拳を受け流そうとした刃を逆に握り、一部肌を露出させる事で口を生成し喰らう。
たったそれだけで、相手の剣は使い物にならなくなってしまう。
だが、ケントの剣もスキルによって生成された物。すぐさま放り捨てると共に、新たな剣を生成し斬りかかってくる。良い判断だ。
……時間掛かりすぎだね、これ。
私が攻めようとすれば、彼は退く。
私が森の中へと移動しようとすれば、この場に縫い止める様に向かってくる。
既に荒れ地からこちらへと向かってくるプレイヤーの姿が視認出来る程には近く、早めに倒すか逃げねばならない状況。
森の中へと向かった配下は未だ倒されておらず、しかしながら射手を見つけ出す事も出来ていない。
「……」
一瞬の逡巡。
このまま戦っていても埒が開かないのは事実。
故に、だからこそ。
「ッ!?」
「あはッ」
一歩、私は森の中へと進もうと身体を動かして。
それに反応したケントが近付いてきたのを、逆に捕まえる。
代償は、勢いによって重みが増した剣に依る脇腹への深い切り傷。そして、その成果は……剣の柄ごと両手を掴まれ身動きが取り辛くなったケントの生殺与奪権。
「時間も無いからさ。全部は喰わないぜ」
「くッ……」
口元を露出させ、彼の喉元へと噛み付き……一気に喰らう。
【噛みつき】によって装備の防護も関係無く肉を喰らい取ると共に、【魂喰い】を始めとした様々なスキルが発動し、
「ごふっ……?!」
「掛、かったなぁ!」
『デバフ『毒』が付与されました』
私は血を吐いた。
視界の隅に映る私のHPバーがみるみる内に紫色に染まっていくと共に、徐々に削られていくのを見て、ケントの……噛み千切った彼の喉元へと視線を向けた。
そこに在るのは、確かに彼の肉体。しかしながら、鮮血の赤ではなく……毒々しい、紫色の肉の色がそこにはあった。
血は黒く、明らかに自然な色では無い。
「かはっ……はは、やって、やったぞ……!お前に負けて、から……ずっと、ずっと考えてた対策、だッ!」
「ふ、ふふ……面白いじゃん。そういうの本当に良いと思うぜ、私は」
恐らく、私の知らない未知のスキル。
それも、本人にとっては何のメリットもないただのデメリットだけのスキルだろう。
自身の肉体を蝕む類のデバフを付与し続けるスキルなど、コンボパーツにしなければ基本的には取るだけ無駄。
しかしながら、ケントはそれを飲み込んで、私という相手を捕食するモンスター用の対策として、それを組み込んだ。ここまで恐らく継続的に毒にHPを削り取られながらも、これを目標にして。今回という場を、本当に出てくるかも分からない私に対して試す為に。
「そのまま……どっかで、のたれ死んでくれや」
「それには応えられないかなぁ」
HPが削られきったのだろう。
ケントの身体から力が抜け、そのまま光の粒子となって消えていくのを見ながら。
私はすぐさま森の中へと駆け出した。
……予想外ってレベルじゃあないなぁ!
甘く見積りすぎた。ケントというプレイヤーを嘗めていた。
たった一度の邂逅。それによってここまで私に対してピンポイントな対策を立ててくるとは思ってもみなかった。だが……今後悔しても遅すぎる。
故に、私は目に付いたモノを喰らいながら逃げる様に森の中へと駆けていく。
「手負いの獣は、厄介なんだぜ少年……!」
頬が緩むのを感じる。
実のところ、『毒』による継続ダメージについてはあまり問題では無い。【大食漢】によって一時的にHPを増やすことが出来る私にとっては誤差みたいなモノだ。
だが、それでもここからは慎重になるのを決めた。
……喰らうのも考えながらやらないと。
今までは何も考えず、相手の身体を喰らえればやがて勝てる。そう漠然としたイメージしか持っていなかった。
当然だ。私は喰らう為にこのゲームをやり始めたのだから。
だが、こうして喰らう事によるデメリットがある敵が居るのであれば……それを補う何かを用意しなければならない。
「プレイヤーをちょくちょく食べないとHPとバフの維持は難しい」
背後からは私の事を追ってきているのか、それとも活動可能エリアに追われているのか。
どちらかは分からないが、音と魂的に3人はプレイヤーがいるのが分かっている。
そして私が進む方向には、
「ッ」
最初よりは間隔が空くようになったものの、今も私を狙う射手が1人。確実にこちらを見える位置に居る。
だが、その矢の軌道は先程と比べたら笑ってしまう程にお粗末なモノだ。正確に私の身体を、急所を狙っていたそれは今では身体1つ分横にズレた位置に飛んでいく。
……配下達が頑張ってくれてるかな、これは。
そうだったら良いと思いながら。
私は矢の飛んできた方向へと向かって進行方向の修正をして、駆ける。
活動可能エリアが今、どうなっているのか分からない現状で、私が出来るのはこちらを狙っている敵を喰らう事だけなのだから。





