Episode3 - 試合開始
当然、今の私には空中からの落下に対する手段など持ち合わせていない。
それと共に、
『所持中のアイテムが一時的に使用不可となりました』
何か使えるものはないかとインベントリを開いた瞬間にログが流れる。
恐らくはバトロワの試合内でアイテムによる優劣を付けられないようにする為の措置なのだろうが……今の私にとっては死亡宣告に他ならなかった。
「ちょちょちょ!どうすりゃいいっての、さぁ?」
どうしようもない。
そう考え、出来る限り自身へのダメージを抑えようと【骨鎧生成】を右腕全体に使い、無理矢理右腕を犠牲に着地しようと近付いてきた地面へと伸ばした瞬間。
落下の勢いが徐々に落ちていき、ゆっくりと、ダメージなく私は着地する事が出来た。
「……ふぅ、周りには……敵影無しと」
何事も無かったかのように体勢を直しながら。
私は今も早鐘の様に鼓動する心臓を落ち着かせる為に深呼吸をした。
私が着地したのは、鬱蒼とした森の中。
普段活動している湿地よりも暗く、しかしながら木々の間から漏れる太陽の光によって、遺跡の中よりは暗くない。
周囲には姿を隠せそうな木々や草むらも多く、ある程度戦い方を考えれば奇襲から真正面での戦闘もなんとか出来るフィールドだろう。
……そ、そういう演出かよぉ……!
恐らく、私が話を聞いていなかった間に佐渡が説明していたのだろうが……それでも心臓に悪い。
次いで、改めて現状の自身の状態を確かめてみれば。
「装備品の効果は無くなってない。あくまで使用出来ないのは消耗品だけね。おっけおっけ」
他に何かないかと普段よりも聴こえやすくなった耳を立てつつ、私は会話ログを見返していく。
……うんうん。オーソドックスって感じ。
どうやら、試合中は時間によって活動可能エリアが狭まっていくらしい。
活動不可エリアでも一定時間までならば行動出来るものの、その間は実体非実体関係なくHPへ直接ダメージを喰らい続けるとのこと。
また、試合エリア内には試合中に使用可能な消費アイテムが落ちている事もあり、それらを使うと状況を有利に進める事も出来るかも……しれない。
大体がバトロワ系のゲームをやった事があるならば通った事のあるルール。故に、この後やる事は、
「物資の調達。これだね」
物資は何より大事だ。その次に、活動可能エリアへの移動、そして攻撃のしやすい場所の確保。
生憎と長物に分類される武器を持っていない為、高台などを陣取る意味が薄いものの。周囲の敵の位置を確認する、という意味では選択肢に入れて良いだろう。
……で、だ。来てるね。
音はない。
しかしながら、私を中心とした一定範囲内にこちらへと一直線に向かってきている魂の反応が1つある。
魂喰いという自分の種族に感謝しつつ。
私は生成したままであった腕甲を一度崩しつつも、近くに生えた木へと指を添え、
「景気良く行きますかぁ!」
自らのスペックと、【筋力増加】に物を言わせる事で根っこから引き抜くと、近付いてきている魂の方向へと全力で投げ付けた。
相手の事を視認出来ておらず、尚且つこちらへと近付いてきていると分かっているからこそ出来る攻撃。
人外であるが故に。
人外のステータスを用いた、道具に頼らない人外の攻撃だ。
「ッ、うぉお!?」
「チッ、当たらないか」
「おま、見た目の割に結構ガツガツくるタイプかよ……狙うのミスったかぁ?」
と、慣れない攻撃をした為か、物凄いスピードで飛んでいったにも関わらず、投げた木は簡単に避けられてしまう。
それと共に、私の元へと投げられた3本のナイフを軽く避け……スピードを落としながらこちらに見える様に姿を現したプレイヤーへと視線を向けた。
見た目は漫画に出てきそうな忍者。
真っ黒な装束に身を包み、かろうじて見えているのは目元と両手のみ。
腰には鎖鎌の様な物を下げ、こちらの動きを見逃さない様に視線を動かし続けている。
魂の色は……群青。大きさはそれなりで、凡そサッカーボール程度だろうか。
「名前は?見た事ねぇぞ、お前みたいな女のプレイヤー」
「おや、名前を聞くなら先に名乗るのが礼儀じゃないかい?」
「……ははっ、コイツは失礼した。俺はヒルマだ」
「ヒルマくんね。私はイヴ。短い間だけどよろしく」
お互いに名前を言いつつも、ジリジリとお互いの距離を離さないように移動を続けている。
ヒルマと名乗った忍者は何処かから取り出した短刀を逆手に構え、視線を私に向けつつも。
意識自体は私ではなく、周囲に向いているように見えた。
……何か狙ってる、というよりは……何かを警戒してる感じだね。
バトロワというルール上、対戦相手が1人という訳ではない。それこそ、今、この瞬間に私の背後から全くの第三者が攻撃を放ってくる可能性だってあるのだ。
故に、そちらに意識を割くのは間違いではない。
しかしながら、
「……」
「ッ、まずッ」
流石に目の前に居る私を意識していないのは頂けない。
瞬間的に足に力を込め地面を蹴って。跳ぶ様にヒルマとの距離を詰め……左腕で殴る様にその胴体を狙う。
顔面は狙わない。的が小さいのもあるが、そもそもとして湿地で襲ったあの2人を除けばマトモな人間を相手にするのはコレが初。
だからこそ、今回参加している人間のレベルをある程度この忍者で確認しておきたいのだ。
……反応良いな。人間側じゃ普通……でもないのか?あの2人が本当に初心者だったのかな。
私の拳は直撃はしなかった。
ヒルマは咄嗟に短刀を自らの身体と私の拳の間に滑り込ませ直撃を防ぎつつ、自ら衝撃の方向に軽く跳ぶ事でダメージを出来る限り最小限にしようとしたのだ。
とは言え。
「うん、脆い……かな?」
私の一撃は重い。自惚れではなく、単純に2度の存在昇華を行い【筋力増加】によって強化もされている膂力は……試した事は無かったが、鍛造された短刀をも折れる程だったらしい。
拳が命中してしまったヒルマは、何本かの木を巻き込み折りながら弾かれたように飛んでいく。
……んんー……流石に何かスキルを使ったっぽい?
私の力は確かに強い。だが、この身体を使っている自分が一番分かっている。右腕ならば兎も角、相手の実力を見る為に使った左手で放った拳にここまでの結果を出す威力はない筈だ。
短刀が折れたのはその力を一身に受けたから。それ以外は……恐らく、ヒルマが何かをしてこちらから逃げようとしていると考えた方が自然だろう。
「流石に一口も食べずに逃げられるのは癪だねぇ……追うか」
幸いにして、まだヒルマは種族的な索敵よって追える位置に居る。
最初に私へと近付いてきていた時に使っていたであろう消音系のスキルも今は使っていないのか、【聞き耳】でも追えるだろう。故に、私はすぐに追いつけるようにとその場から駆けだしたのだった。





