Episode1 - ついに来た日
なんと5章開始です
「よっと」
「ヂュァ!」
こちらへと迫ってくるネズミを軽く避けつつ。
すれ違い様に、左手に生成した口で胴体を撫でる様に喰らう。
だが、ネズミの攻勢はそれで終わらない。
1体ではなく、複数で行動するルーチンを組まれているのだろう。私が1体の攻撃を避けた先、そこを狙う様にして2体のネズミが牙を剥き出しにしながら迫ってくるのが見え、
「ほいほい」
「ヂュ!?」
「ァッ!?」
私の身体をすり抜ける様にして、ネズミ同士が衝突する。
頭同士をぶつけてしまったのか、2体の動きが鈍ったのを確認して……私は右腕全体を使う事で叩き潰した。
最初に撫で喰らったネズミは【魂喰い】による弱体化が発動していたのか、地面に蹲り動けなくなっている。戦闘終了だ。
「イタダキマス。……うん、やっぱり便利だよ【霊体化】」
イベント開始日。
正午から始まるそれの少し前、存在昇華に伴うスキルのリビルドによって獲得した2つのスキルの使い勝手を改めて確認していた。
と言っても、そこまで確認する事はない。
【霊体化】は今し方の戦闘中に行った様に、身体全体を霊体……非実体へと変え、特殊な加工がされたアイテムなどで無いと影響を与えられなくなるスキル。
とは言え、元々が実体を持っているアバターだからか、【霊体化】の最大持続時間は3秒程度。それに加え、一度使ったら再度使用可能となるのに30分のクールタイムが必要となる。
したがって、今の所は緊急時の回避手段にしか使えない。だが、それでも今まで避けるか受けるしか出来なかった私にとっては十二分に使えるスキルだ。
「目の方は……まだ便利さは分からないけど」
そして、もう1つの獲得したスキルである【魂視】。
こちらは……その名の通り、相手の持つ魂を視る事が出来る。【魂喰い】によって喰らった際に一部が欠けたりしているのが視えた為、あとどれくらい喰らえば弱体化が入るかなどを確かめられる……のだろうが。
私の活動している湿地に出現するモンスターでは、一度の【魂喰い】で半分以上の魂を喰らえてしまう。その為、どのラインから弱体化になるかの指標が分からないのだ。
「ここら辺は今日分かればいいかな……っと。丁度良い」
ポップな電子音と共に、私の視界内にメッセージが来た事を告げるログが流れる。
どうやら待ち人はどうにか間に合わせてくれたらしい。
メッセージの内容に笑みを浮かべつつ、私は自身が根城としている遺跡へと戻る事にした。
―――――
「もぉー、ちゃんとリアルの方で言ってたじゃん!」
「ごめんごめん。試したい事が何個かあったからさ」
遺跡の元ボス部屋。そろそろ名前か何かを付けた方が良いかなと思いつつ、足早にそこへと入ると。
そこには私の事を待っていたロートと、談笑していたらしきフレデリカの姿があった。
「お疲れお疲れ様です、イヴさん」
「あいよ、フレデリカちゃん。君はこの後のイベントはこの辺り中心で動く感じかい?」
「そうですそうです。イベント限定のモンスターも狩りたいですし、人が少ないタイミングだったら草原の方に出て遺跡の探索も出来るかと思って」
「あは、確かに私と違って君は見た目からしてモンスターだからねぇ」
一時的な拠点として扱う。大いに結構だ。
これから私はイベント中、基本的には運営側で設置した交流エリアに居るだろうから。
「で、本題だ。ロートちゃん持ってきてくれたんだよね」
「あったりまえ!じゃ渡していくから」
そう言って、彼女が虚空に向かって指を這わせると共に。
私のインベントリの中に何個かの装備品が追加されたというログが流れる。
数日前にフレデリカに言われ、急遽ロートに用意してもらった人間に近い身体の構造であれば装備出来るモノ。デザイン自体はロートに任せっきりにしておいたのだが、
「……これマジ?」
「マジマジ。イヴなら似合うっしょ」
「えぇー……普通ので良かったんだけどなぁ……」
フレデリカが何が送られたのかと期待した眼差しでこちらを見ているために、一つため息を吐いてから。
インベントリを操作する事で、私は送られてきたモノを全て装備する。
「わ、わぁ〜!可愛い!可愛いですよイヴさん!」
「あっははは!良いじゃん良いじゃん!凄く似合ってるよイヴ!」
「口調!忘れる勢いで笑ってるんじゃあない!」
頭部装備扱いのカチューシャ。
胴体、下半身一体型の装備である、青を基調としたエプロンドレス……俗にピナフォアと呼ばれるソレ。
靴装備として、革のロングブーツ。
1つ1つを見ればそこまでおかしくは無いだろう。しかしながら、それら全てを同時に装備すれば……そこに出来上がるのは、
「不思議の国のアリスのコスプレですよねコレ!」
「あは、ひぃい……うん、そうだよ!もしかしてフレデリカちゃんはそういうのイケるクチかな?」
「はいはい!可愛いの好きです私!イヴさんちょっと身長高めですけど、これはこれでアリですよ!お姉さん感あるアリスって感じで!」
「……今回のイベントはコレで我慢する。次会うまでに代わりを用意してくれなかったら……」
「「しなかったら?」」
「2人共、泣いて謝るまで喰らい続ける。どこに居ても関係なく、私はやる。食欲に身を任せて延々と。絶対に」
私の目から本気度を感じ取ったのか、ロートとフレデリカは苦笑いしながら頷いた。
別に可愛いモノが嫌いな訳ではないのだ。敬遠している訳でもない。
しかしながら、自身がそれを身に纏うというのは……やはり、違和感が強いのだ。
とは言え、
「まぁ感謝だけはしとくよ。実際、これが無かったら初期装備のまま出る事にはなってたし」
「装備の詳細要る?」
「貰っとく。要約だけ今教えてもらって良いかい?」
と、ロートから何枚かのスクリーンショットが送られてくると共に、装備の能力の要約を聞いていると。
やっと、その時間がやってきた。





