Episode9 - 考えていた事
なんとかセーフティエリアへと駆けこんだ私は一息つくと共に、今回のボス戦のリザルトを確認する事にした。
といっても、今回は別に何か新規のスキルを手に入れた訳でもなく。
これと言って確認する事自体は少ない……のだが。
1つだけ気になる事がある。
「なぁーんで、『狂気』になったのに別に何も起こらなかったんだろ」
戦闘中の出来事だ。
『特殊毒』の累積によって、私は【狂気耐性】によって誤魔化していたにも関わらず『狂気』に罹ってしまった。そこまでは良い。
しかしながら、その先……『狂気』による影響であろう視界が赤く染まっただけでそれ以外に特に身体に不調が出なかったのだ。
不具合、バグの類かとも思ったものの、今こうして1人で考えを巡らせている事からそれも無い。
「バストが出てきてくれたなら話が早かったんだけどなぁ……んー」
そうなった原因は分からない。しかしながら、管理AIが私に何も言ってこないと言う事は……恐らくは仕様上問題の無い、想定された挙動なのだろう。
だが、生憎と……今の私にはそれが何なのかは理解する事は出来ない。
なんせ、ヒントが無いのだ。ログに『~~によって無効化されました』なんて文章があったならば兎も角、それらしいものも一切見つけられないのだからしょうがない。
「ま、今後かな。出来ればワールドボスに挑むまでに理解しときたいけど……努力目標って所で」
今分からないものに思考を割いても意味が無い。
そう考え、私は今回遺跡へと侵入した理由の1つである存在昇華、その条件がどの程度進んだかを確認する為にウィンドウを表示した。
合計スキルレベルに関してはこちらでレベルを上げていない為に達成していないのは当然として、
「お、結構進んでる。えぇっと……残りは200くらい?」
集めた魂の数は471。目標数は666個である為、凡そ200体のモンスターを喰らえば終わる計算だ。
元が120程度だったのを考えると、本当に味が悪いだけで魂集めという点では寄生系モンスターは良い相手だったのだろう。存在自体を許したくはないが。
とは言え、ここからは私自身が集めに回る必要は……ない。
元々予定していた魂回収方法。それに必要なスキル用の経験値が今回の攻略によって溜まったからだ。
「よし、それじゃあパパっとやっていこう。必要なのは……【多産】、【主従共有】、【配下指示】っと」
『スキル【多産】のレベルを3、【主従共有】のレベルを4、【配下指示】のレベルを2に上昇させます……完了。アバターに適用しました』
今回取得した経験値量はそれなりに多い。
1つの遺跡内のほぼ全てのモンスターを喰らい切ったのだ。スキルのレベルアップを1つや2つくらいやってもおつりがくる程度には取得出来ている。
故に、考えていたよりも少しだけレベルを高く……【多産】によって生産出来る配下の数を増やす事にして。
「それじゃあ早速。【主従共有】と【配下指示】の調整をしてから……【多産】」
セーフティエリアに居る事で回復していたHPを消費して、私はスキルレベルと同じ3体の人喰いをその場に生み出した。
今回【主従共有】のレベルを上げ、持たせるスキルの自由度を更に向上させて。
その上で持たせるのは、【捕食】、【バフチェイン】、【噛みつき】の3つに加え……目的である魂の回収が行えるように【魂喰い】を追加して。
私やフレデリカが活動しているこの湿地内、そこで配下達が1対1でも狩れる程度の相手のみを獲物とするようにと指示を出した。
「よし、いってらっしゃい。……まぁ試してはないけど、【魂喰い】の効果が発揮するなら……貯まるっしょ、多分!」
試した訳でも、確証がある訳でもない。
単純に、バフが共有されるのであれば配下が喰らった魂も、全てとはいかずとも一部は共有されるのでは?と考えただけの事。
思いつきではあるが、これが上手くいかなかったとしても……それはそれで良いのだ。
なんせ、私の戦力自体は向上しているのだから。
配下の人喰い達が何かを喰らえば喰らう程に、私に【バフチェイン】を経由してバフが重ねられていく。その上で、私は自由に行動する事が出来るのだから……配下を増やせば増やすだけ、私はどんどん強くなっていく。
「さて、と。後は……他のスキルのレベル上げと、石板かな」
魂の確保が上手く行くと仮定して。私はスキルのレベルを上げる為のウィンドウを再度表示させつつ。
手元にある、ニドリーの遺跡に在った石板へと目を向ける。
表記自体には他のモノと別段変わりはない……否。何枚かの石板を見てきたからこそ気が付ける変化が1つだけ存在していた。
「記述が消えてる。しかも封印されてるモンスターに関しての部分だけだ」
虫食いの様に、穴あき問題の様に。
そこに元々存在していなかったかのように、【旧共通語】によって表示される翻訳文の方では記述が消えているのだ。
意識して石板の方に刻まれた文字だけを見てみれば、消えてしまった部分だけが何者かによって削り取られたかのようになっている。
……これは……どういう?
ニドリーが存在昇華を行う前、ちらと見えた時にはこんな状態にはなっていなかった。
持って帰ってくる時に何処かにでもぶつけたのか?とも考えたが……そんな事をしていれば、ほぼ瀕死だった私の方が石板が削れるよりも先に死んでいる。
故に、考えられるのは、
「……もしかして、石板で存在昇華したから、とか?」
それくらいだろう。
他者の介入があったなら兎も角として、今の現状で考えられる原因はそれくらいしかない。
……こりゃあ石板で存在昇華した時に消えるモノによっちゃあ結構厳しいぞ?
これで消えるのが封印されているモンスターの部分のみと決まっているならば別に良い。他の石板と照らし合わせればいいだけなのだから。
しかしながら、これがランダムに……他の記述についても消してしまうのであれば。
封印されている場所すらも分からなくなってしまう可能性が存在している。
「ちょっと考えないとだ、立ち回り」
とは言え。
すぐに行動出来る程、私には影響力がある訳ではない。
ゲーム内で動くならばロートの力も借りた方が良いだろう。故に、すぐには動かず……ロートと行動してもおかしくはないイベント開催日まで静観する事にする。
彼女がいれば、人間側のプレイヤーにもコンタクトを取りやすいだろうし……モンスター側のプレイヤーは出会ったらある程度の共有を行えば良いだろうから。





