Episode8 - VS『月従華 ニドリー』3
『デバフ『特殊毒:狂気』が付与されました』
『デバフ『魅了』が付与されました』
『デバフ『ステータス低下』が付与されました』
液体ごと喰らっている所為だろう。
ログに延々とデバフが付与された事が流れていくが……それと同じ様に。【魂喰い】によるステータス強化のログも、延々と流れ続け。
『【魂喰い】が発動しました。一定量同じ対象より魂を喰らいとった為、対象に対しデバフ『ステータス低下』を付与しました』
ニドリーの動きが途端に悪くなる。
魂。その者がその者であるが為に必要な核を喰らい続けたのだ。その残量が少なくなればなるほどに……相手が弱体化するのは道理だろう。
故に、一歩。無数の槍の穂先の中を更に進み。
全身に傷が付いていくのを、【大食漢】による追加のHPによって無理矢理に無視しながら辿り着く。
この戦闘中、二度目のニドリーの眼前。
先程と違うのは……お互いのコンディションだろう。
……『魅了』に関しては問題ない。一瞬動けなくなっただけでもう切れた。『特殊毒』については……ダメージはくらってない。多少動きづらい程度か。
冷静に脳内で自身の状態を確認しつつ、私は更に一歩踏み出して。
『ッ』
「焦ってるね」
手に握った槍を突き出してきたニドリーに対し、それを左手に生成した口で噛み砕く事で無力化して。
右腕を動かし、ニドリーの上半身……人間の身体を模した部分を握り拘束した。
「さてさてさて。ここまで結構暴れてくれたね。正直、真正面から戦ったという意味だったら……一番強かった」
一息。
「だから最期は……感謝しながら食べるとするよ」
ニドリーは動けない。
ステータスで勝る私の拘束を振り解けない。
距離を取ろうにも、上半身を拘束されている為に叶わない。
死ぬ間際、自らを喰らおうとしている相手を前に……無表情のまま。瞳にだけ感情を乗せ、私を見つめてきていた。
「まるで私の方が悪者みたいな目で見てくるじゃーん。……まぁ今回に限っては本当に私が悪いんだけどさ!」
ゆっくりと、丁寧に。
反撃を許さない為に、まずは両の腕……先に肩口を喰らった右側から味わう様に、左手と自らの口を用いて喰らう。
味に変わりはない。だが、彼女の焦りが現れたのか槍にも塗られていた毒がじんわりと肌の上に滲んでいた。
だが……関係はない。
『デバフ『特殊毒:狂気』のスタック数が一定以上となりました。一部効果が重症化します』
瞬間、私の視界が赤く染まっていく。それと共に、視界の隅に表示された1つのデフォルメされた人が頭を抱えて苦しむアイコン。
『狂気』だ。『特殊毒』というデバフについてよく分かっていなかったが……恐らくは、重症化に伴い指定されているデバフの強制付与を行うモノだったのだろう。
私の身体は『狂気』の名によろしく、制御が効かなくなる……事もなく。
視界が赤くなったのも一瞬で、すぐに視界内の色も元に戻る。
「……?」
謎の現象について少しだけ疑問を抱えつつも。
気を取り直して喰らい続ける。
右腕を、左腕を。湧き出るようにこちらを止めようとしてくる触手を。
私から距離を取ろうとして、ステータスの差によってその場で地団駄を踏む形となってしまっている下半身の足を。
ゆっくりと、時間を掛けて喰らっていく。
……下半身は味が変わったなぁ。
蛙の様な足だったからなのか。それとも元々無かった部位だからか。
上半身と違い、下半身は淡泊ながらも何処か魚の白身の様な風味があった。
何処から来たのか、牛肉の脂に近い甘い脂も乗っており、ニドリーには悪いが……彼女の身体の中で一番美味い。
「ま、なんかよく分からないけど……逆転の目も勝手に潰れてくれたってことで」
途中から無我夢中に。
ボス戦という事も忘れつつ喰らっていけば……気が付けば、ニドリーの身体は胴体部と顔のみを残して全てが私の腹の中に納まってしまっていた。
こうなれば既に拘束しなくとも問題はない。
右手を開き、彼女の身体を地面に横たわらせると共に。
彼女の身体の前で両手を合わせ、
「イタダキマス」
ゆっくりと、しっかりと。
味わうように彼女の残りを喰らい尽くしたのだった。
『『月従華 ニドリー』が討伐されました』
『MVP選定中……参加プレイヤー数1人。MVPを選出しました』
『MVP:プレイヤー名『イヴ』』
『MVP特典として、スキル取得用の特殊アイテムが付与されました』
喰い終わると同時、ログが流れ……元々ニドリーが咲いていた位置に1つの石板が落ちている事に気が付いた。
魂を喰らう為、そして石板を手に入れる為に入った遺跡ではあったが……これからは探し方も考えねばならないかもしれない。
特に、地面の下に潜れる様な能力や大規模な破壊を齎す事が出来るボス相手に関しては。
「……まずは!」
私は石板を拾い、思いっきり遺跡の外へと向かって走り出す。
【大食漢】によって、物を食べる事で得られるHPは一時的なモノ。そして、今の私の元々のHPはと言えば……デバフも相まってほぼミリ。
【大食漢】の効果が切れると共に死んでもおかしくはないレベルなのだ。
ゆっくりと感傷に浸る時間もないのはニドリーに申し訳ないな、とは思いつつ。
私は出来る限り急いで、自身のスポーン位置……最初の洞窟へと向かうのだった。





