Episode6 - VS『月従華 ニドリー』1
「ここまでのどのモンスターより食べ甲斐がありそうじゃん!」
巻き付かれている場所、主に胴体部の甲冑を自ら崩すと共に口を2つ生成し。
そのまま触手を喰らう。
私の弱点は戦闘可能範囲の狭さ。相手に近付くまでに攻撃されてしまえばそれで終わりとなるが、【骨鎧生成】のおかげでそれもある程度無茶出来るようにはなっている。
だからこそ、少し離れてしまった距離をどう詰めるべきかと考えていたものの……こうして、私の身体に触れてくれるならば、その悩みも消え去ってくれる。
『【捕食】が発動しました。バフ『全ステータス強化』が付与されました』
『【魂喰い】が発動しました。全ステータスを一時的に強化しました』
『デバフ『狂気耐性低下』が付与されました』
直接触手が触れたからか、私に見慣れぬデバフが付与されるものの。
既にそれはスキルによって対策済み。
故に、無理矢理に。上がったステータスにモノを言わせ、全身に巻き付いた触手を引き千切って……前へと進む。
「『狂気』への耐性を下げてくるとか、確実にそういう事じゃんねッ!」
改めて胴体部を甲冑で覆い、拘束を突破した為か新たに迫ってきた触手を避ける事なく進んでいく。
足を止めようとした触手はステータスの暴力で引き千切り。
腕を引く事でバランスを崩そうとしてきた触手は、局所的に口を生成して喰らい取り。
急所である頭を狙ってきた触手は……自らの口で喰らう。
……まずくはない、けど味もない!
ゼリーの様な触感に、気が付かなかったが粘度の高い舌触りの悪い液体。どちらも味という味は無く、不味いわけではないが美味しいと言うわけでもない。
これが本体ならばまた違うのだろうかと、少し期待を込めた視線を前へと向けてみれば、
「ッ!」
目前に迫る槍の穂先が目に入った。
避ける事は既に出来ない……否。避ける必要など無い事に気が付いて。
私は多少のダメージを覚悟して、タイミングを合わせて穂先を歯で止めた。
硬い物同士がぶつかり合う音と共に、私の身体は上半身を後ろに反らした様になりつつも……槍の勢いは止まる。
だが、それだけだ。
頭を貫かれた訳でも、致命的なダメージを受けた訳でも無い。
「ガリッ、バキッ……っー、少しだけ口の中切れちゃったか」
『【捕食】が発動しました。バフ『貫通力強化』が付与されました』
槍を喰い砕きつつ。
瞬時に私の事を拘束しようと動き出している触手を視界の隅に捉えつつ。私は身体を跳ねさせるように体勢を戻しながら。
一歩、無理矢理に進む。
既にボスの目の前なのだ。触手による拘束は私を一瞬止めることができるかもしれない。
だが、関係ない。
前へと、その身体へ歯を突き立てる為に私は前へ足を動かして。
「喰わ、せろォッ!」
進む。
四肢を触手が拘束する……瞬時に口を拘束された場所に生成しては喰らう。
進む。
ボスはいつの間にか2本目の槍をこちらへと突き出して……右腕の腕甲で受け止め、砕かれつつも自ら槍に突き刺さる様にしながら。
進む。
距離を取ろうと足を動かし始めたボスに追いつく為に、全力で足の裏を蹴りながら。
進む。進む。進む。
「ぁああッ!」
進んだ。
跳ねるようにボスの元へと進んだ私は、今。宙に居る。
右腕には突き刺さり、無視して進んだが故に肘辺りまで抜けた槍が。HP自体はそこまで残っている訳ではない。それこそ、無理に進んだが故にここまで受けた細かいダメージや、腕を犠牲にしたダメージの所為で半分程度しかない。
目の前には無表情で、後ろへと下がりつつも私に向かって新たな槍を構えているニドリーが。
そして私には特に武器はない。防御になるのは骨の甲冑のみ。
だが……ここまで近付けたのならば、
「イタダキマスッ!」
私は喰らえる。
言った瞬間、ニドリーはこちらへと向かって無数の触手と共に槍を放つ。
速い。空中に居る私には避けられない攻撃であり、触手も相まってこのままでは今度こそ急所を貫かれて死に戻りしてしまうだろう。
だが、だからこそ。私は空中で、前へと進む勢いを殺さずに。
寧ろ、私からその槍を迎え入れるように避けず征く。
『……』
強い衝撃と共に、勢いを殺さなかった私は今。
ニドリーの上半身に覆いかぶさるようにして、彼女の元へと辿り着いた。
当然、槍は突き刺さっている。右腕を貫通し、今も柄が手のひらから何センチか出ているソレと。私の腹部を貫くようにして今し方放たれた、もう1本のソレ。
私のHPは既に残り少なく、今も徐々に減っていく。
……ふぅ……結構博打打ったなぁ……でも、ここまで来れた。
幸いにして急所には槍は刺さっていない。『流血』というデバフが付与されている為か、私の身体からは力が抜けていくものの……今気にするべきはそこではない。
ニドリーはまだ動いている私のアバターの心臓の鼓動を感じ取ったのか、更に1本の槍を作り出そうとしていた。
しかも私が動けないように、と四肢を触手で拘束した上で、だ。
そう、四肢だけを。
「……ッ」
絶体絶命の筈だ。
普通のプレイヤーならば、何事かを言ってから次のトライの為の思考を巡らせるだろう。
だが私は……ゆっくりと、ニドリーに気取られないようにゆっくりと口を開き。
目の前にある肩口へと向かって噛み付いた。





