Episode5 - 忘れていた事実、知った新事実
入ったら確実に戦闘になる。
そう考え、出来る限り警戒しつつ。不意打ちにも対応出来るようにと、骨の甲冑を生成してから中へと入った……のだが。
『いやぁ、話せる子が来るのは初めてだよぉ』
「そうかい?こちらとしても、理性的に話せるのが居るとは思っていなかったのだけれど」
『ふふふ、ここの子達は基本的に喋れなくなっちゃうからねぇ』
何故か私は今、ボス部屋のど真ん中にて木製の椅子に座らされていた。
目の前には、巨大な華の花弁の中に女性の上半身だけが生えたようなモンスターがいる。
ここのダンジョンのボスである。
「……ちなみに、君はなんでこんな所に?」
『んー?気が付いたらこうなってたぁ』
「そっかそっか……」
種族はほぼ確実に、フレデリカのドライアドの上位。
その上で、マーテルの様にこちらと話せるだけの理性も知性も持ち合わせている。
警戒は解いていないが……それでも、ソレの放つほんわかとした雰囲気に絆されそうになってしまう。
……やりにくいなぁ。
殺気マシマシの状態で侵入した私は、すぐさまソレを見つけると同時に襲い掛かろうとして……話しかけられて。
気が付けば今、こうして雑談に興じてしまっている。
今すぐ襲い掛かっても良いだろう。
だが……単純に興味が勝っている。何故このボスは侵入者であり侵略者でもある私を、こうして好意的に接待しているのか。
『でぇ、キミはどうして私の庭に入ってきたの?』
「ん……私の存在昇華に必要だったからね。それと、君の庭に埋まってるかもしれないモノが必要で」
『埋まってるものぉ?んー……』
私が言うと共に。
ボスは何かを思案するような表情を浮かべ……身体から繋がる蔦を何やら動かして。
『あっ!もしかしてこれぇ?――がピッ?!』
「まずっ!?」
地中から石版を引き上げた。
瞬間、彼女の表情が一変する。
瞳孔は不規則に、両の瞳はそれぞれが違う方向へと視線を投げ。
まるで雷に撃たれたかの様に全身が痙攣し。
血の代わりなのか、至る所からは黄金に輝く蜜の様な液体が噴き出した後……動きを止める。
……っー……やばいかこれ。忘れてた。
私はすぐさま椅子から立ち上がり、ボスから距離を取る。
今の今まで忘れていたが、そもそも石版は危険物。触れた者をよく分からないモノに存在昇華させようとしてくる物だ。
今までプレイヤー……それも、フレデリカやロートといった身内しか触ってこなかったが故に試していなかったが……ただのモンスターにもソレが作用するならば。
もしも、ボスが固有の存在故に、1回も存在昇華していないと判定されるのであれば。
こうなるのは、必然だろう。
「……」
ボスがどう動いても良い様に、と。
私は注意深く、全身を見ていれば……少しずつ、その身体が変化していくのに気が付いた。
巨大な華は枯れていき、それと共に身体の色も変わっていく。
植物由来だったのか、緑色だったそれは少しずつ白色へ。
身体の各所からは、触手のような物が無数に生え。
そして、元々蔦だったモノはその全てが枯れ、1つの塊となった後に光沢を帯び……槍となる。
足の代わりなのか、下半身からは蛙のような足が4足分生え始めた。
『……』
先程までのほんわかとした雰囲気は無くなり、無表情でこちらを見据えた後。
『縺薙s縺ォ縺。縺ッ縲√%繧薙↓縺。縺ッ?』
「ッ」
何語かも分からない言葉を話し始める。
少なくとも、私はリアルで聞いたことのない言語だ。
通じていないのが分かったのか、軽く首を傾げた後。
『荳サ莠コ縺ョ謨オ縺ァ縺吶°?』
もう一度、今度は先程とは違う文言を投げかけてくる。
とは言え、何と言っているのか分からない為に答えられずにいると。
『霑皮ュ皮嚀辟。縲よ雰縺ィ蛻、譁ュ縲よ賜髯、繧帝幕蟋九?』
「……ッ、やっぱ黙っててもダメかぁ!分かるかぁ特殊な言語なんて!」
無表情のままではあるが、濃い殺気と共に私へと向かって無数の触手が向かってきた。
戦闘開始だ。
『『■生華 ニドリー』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数1』
名前はニドリー、だが一部が黒く塗りつぶされたようになっており、
『名称が変更されました。『月従華 ニドリー』との戦闘を開始します:参加プレイヤー数1』
名前が切り替わる。
無理矢理に石板によって種族を変えられたからだろう。とは言え、その名前の意味を考える暇は今はない。
幸いにして、こちらへ迫ってきている触手の動き自体は見えている。速く無いわけではない。単純に、【魂喰い】のステータス強化が未だ切れていないのだ。
故に、一息。
無数の触手を薙ぎ払う様に、骨の腕甲に覆われた右腕を振るった。
「クッソ、出来れば友好的に話せるNPCのモンスターとか情報収集に使えるかなって思ってたのに!寄生系のモンスターを全部焼いた上で!」
触手自体の強度はそれほどでもないのか、たったそれだけの動きで右腕に当たったモノは全て千切れていく。
だが、その中でも私の身体に甲冑の上から纏わりついてくるモノもあった。単純に数が多すぎるのだ。
巻き付かれ、動き辛くなっていくのを感じつつ。しかしながら私は焦りではなく笑みの表情を甲冑の下で浮かべた。





