Episode1 - 静かな始まり
4章開始
Kaleidoscope Frontier Online、正式サービス開始から初めての公式大型イベントの開催。
その報せは、ある程度ゲームに慣れてきていたプレイヤー達を歓喜の渦に放り込んだ。
そしてそれは、私も例外ではない。
「という訳で、私はバトロワ出るけど……フレデリカちゃんはどうするの?」
『出ません出ませんよ。私のスキル的にバトロワとかではちょっと面倒な事になりそうですし、今後モンスター対人間とかあった時に対策されちゃうじゃないですか』
「あは、それもそうか」
現在、私は湿地の中でも草原に近い位置の遺跡を独りで探索中だ。
フレデリカとゲーム内通話を繋いではいるものの、彼女も彼女で別の遺跡にてボスの攻略中との事で合流はしていない。
「ちなみに、そっちの進捗は?」
『順調順調ですよ!遅くはなっちゃうんですが……それでも、クナトのスキルを獲得出来たおかげで効率も前までよりは上がりましたし!』
「あぁ、【蜘蛛毒生成】にしたんだっけ?MVP特典」
『そうですそうです。イヴさんの腕を溶かすくらいなので、私の体内で生成したら拘束と窒息、毒による継続ダメージのコンボが狙えるかな、と。実際ボスにも効いてるので良いですね!』
「えげつない事してるなぁ……」
クナト戦でMVPを取ったフレデリカは、私がマーテルの持っていた【多産】を獲得したように、クナトの持っていた【蜘蛛毒生成】というスキルを獲得していたようだった。
効果は単純に、蜘蛛の持つ毒を生成出来る……というモノでスキルレベルが低いうちは獲物の身体を溶かす、なんて芸当は出来ないみたいだが、それでも『麻痺』なんかのデバフを付与しつつ継続ダメージを与える事が出来るらしい。十二分に便利なスキルだろう。
……フレデリカちゃんの性能的に、確実に1対多の方が得意だとは思うんだけどね。私みたいな配下、眷属生成系のスキルを持ったら……手が付けられなくなりそう。
とは言え、フレデリカもイベント中にやる事が無い訳ではないようで。
『でもでも、私は石板集めをしつつ、イベント限定モンスターとかを狩りますよ』
「それは助かるかな。結局今何枚集まった感じ?こっちは……あれから追加で3枚」
『2枚です!一回集まります?』
「うん。元も合わせて8枚になったし……何かしらのスキルとかの追加もありそうだし?」
『了解了解です!いつもの遺跡に向かえばいいですね?』
「そうだね、そこで」
通話が切れ、私は改めて目の前の事象……遺跡の攻略へと意識を向ける。
今現在、私が居るのは遺跡の入り口から進みに進んで、マーテルの居た遺跡ならば既にボス部屋と辿り着いていてもおかしくない程度の位置。
ダンジョン化は確実にしている筈なのだが、出現するモンスターの種類が一定ではないのが少しだけ気掛かりだった。
「ゴブリン」
「ゲヒャ?!」
「ネズミ」
「ッ!」
「それに……珍しい、屍人喰い」
「ァ!」
全てを一息で、右腕で潰しながら進んでいく。
湿地に生息しているモンスターとして見るならばおかしくないが、遺跡の中に居るとなれば少しだけ違和感があるだろう。
……ボスがモンスターのスポーン関係を弄ってない、とか?いや、そもそもとして……NPCのボスモンスターが弄るとかそういうのって出来るのかな。
少しだけ背景、それもシステムの裏側が気になりつつも。
私は奥へ奥へと進んでいけば……やがて、見覚えのある巨大な鉄の扉が目に見えた。
「ボス部屋。……でも」
私は周囲を警戒しつつ、ゆっくりと鉄の扉へと手を添えて開いていく。
中は広間であり、部屋の内装自体は私が私的に使っている部屋とそう変わりない。
だが、
「うん、ボスがいない。代わりに」
部屋の中心には、鉄で出来た槍が1本突き刺さっていた。
槍からは青紫色の瘴気の様なモノが垂れ流れており、明らかに物騒な代物である事は明白だ。
「ボスが居ない類の遺跡は大体こんな感じなのかなぁ……」
石板にも書かれていた通り、各地にある遺跡は封印されているモンスターの力を分散させる為に設置されたもの。
そこから力が溢れる事によって、場所の環境が変化したりモンスターが慢性的にスポーンするようになったりと様々な弊害が起こっているようだが……その中でも、遺跡をダンジョン化させる方向性には大きく分けて2種類存在している。
1つは、私が戦ってきたマーテルやクナト、そしてソウマの様にボスモンスターが存在し、溢れ出た力を無意識的に使う事で遺跡内を自身の過ごしやすい環境に書き換えるモノ。
そしてもう1つは……今、私の目の前に在るように、元々遺跡内に在った物品に力が宿り遺跡内を適当にダンジョン化させてしまうモノだ。
……攻略、というかボス部屋まで辿り着けば終わりだから良いけど……徒労感はすっごいよねコレ。
ボスモンスターが居る場合ならば、MVPや経験値など得られるモノが多いのがメリットに。
居ない場合ならば、単純に石板を探すという点だけ見れば面倒な戦闘を行わずに済むのがメリットだろう。
とは言え、私からすれば……特に食べるモノも無い場所に挑みたいとは思わないのだが。
「モンスター側の検証班も増えてきたっぽいし、何かしら別のメリットを見つけてくれれば良いけど……それも先になるだろうなぁ」
私は息を吐きつつ、骨で出来た腕甲を右肩から手の甲にかけて生成し。
そのまま軽く槍を薙ぎ払う。触れた瞬間に何やら多少のダメージは受けたものの……ほぼあってないようなモノなので気にする必要はないだろう。
「さてさて。今回の遺跡は石板あるかなぁーっと」
公式大型イベントまで残り1週間。
私はのんびり準備を行うのであった。





