Episode10 - VS 『死生骸 ソウマ』3
頭蓋の外からは、自身の身体が崩れても良いのか、ソウマがHPを削りながら自身の頭部内に居る私達を捉えようと両手を叩き付ける音が聞こえ続けている。
その音をバックミュージックに、私の見えない右手は火の球の近くまで辿り着き……大きく口を広げ、火の球の一部を喰らい取った。
「……う、うげぇ?苦味が最初に来て……酸味と辛味と……微かに甘味?いやこれどういう味だ?」
強烈な苦味から始まり、これまで体験した事のある刺激が右手の口を通して私に伝えられていく。
それと共に、
『【捕食】が発動しました。バフ『再生能力強化』が付与されました』
新たなバフが付与されたというログも流れ始めた。
火の球を喰らい、再生能力が強化される。
それが意味する事は分からない。だが、1つ明確に分かることがあった。
視界の下部、そこに表示されたソウマの残存HPが、私が火の球の一部を喰らった瞬間に大幅に減少したのだ。
数値にすれば……凡そ2割。少なく感じるかもしれないが、ただ火の球の一部を喰らい取っただけで2割だ。ダメージとして見るなら大きいだろう。
……これが急所って訳か!
他の攻撃を試していない為に分からないが、ソウマの身体……骨の身体はそれなりに頑丈なのだろう。ボスとして相応しい出力を出す為に、その力に身体が耐える為に。
しかしながら、私と配下の持つ【噛みつき】はその手の防御力をある程度無視して喰らいつくことが出来てしまう。
故に、本来ならば到達が困難であろう頭蓋の中にも侵入できてしまい……そこに隠されていた、外からは眼窩からしか確認出来ていなかった無防備な火の球まで辿り着けてしまった。
「これも1つの攻略法、って訳だ。あんまりにも私に都合が良い流れだけどね」
その上で、辿り着いたとしても通常ならば触れられない急所である火の球は……何の間違いか、ヒットボックスが拡張された腕によって触れられてしまい。
その恩恵にあやかって、私が食べる事が出来てしまった。
ならばこそ、
「ま、運が悪かったと思って……食べられてよ」
喰らう。
理屈は捏ねたが、結論。急所を喰らうことが出来るならば、安全に食事をできるのであれば……私が負ける事は無い。
『ぁあああ生者ァあああ!!!』
「君、それしか言わないじゃん。ボキャブラリー増やしておいた方がいいぜ?」
喰らう。
火の球は喰らう度、触れる度に私を焼きダメージを与えてくるものの。【大食漢】によって増えるHPがそれを実質的に無効化して。
「ぁー……」
「……あぁ、君は【ヒットボックス拡張】が無いから食べれないのね。ほら、周りを食べな?」
「ぁ!」
喰らう。
配下に改めて、周囲の頭蓋を喰らう様に指示を出し直して。私は手の口から感じる味を味わって。
「うん、これで最後の一欠片!……な訳だけど?」
『ぁ……あぁ……生者……』
「いや、何を如何にも死にますみたいな雰囲気出してるんだ君。どう見ても火の球を食べ終わった所で死なないでしょ」
最後の一片となった火の球を喰らい終わる。
瞬間、私達が立っていた頭蓋が消え……墓地の地面へと落とされていく。
今更そんな事に驚く事も無く。冷静に周囲を見渡しながら受け身を取って、すぐさま体勢を立て直した。
……まだ1割残ってるんだよな、HP。
火の球を喰らった後、ソウマの身体は消失した。
しかしながら、私の視界の下部にはシステム的にソウマのHPが表示され続けている。それはつまり、ボス戦が未だ終わっていないと言う事。
だが、目の前にはソウマらしき影は居ない……否。
「あぁ、そういう感じか。成程ね?」
少しだけ離れた位置。
私達から逃げるように距離を取る、1つの小さな青白い火の球を視界に捉える事が出来た。
見れば、その火の球は小さな心臓を核として燃えており……今までの流れを考えればそれがソウマと無関係のモンスターであるとは考えにくい。
故に、征く。
必死になって逃げていく小さな火の球を、私は狩りでもするかのように地面を蹴る事で追いかけ追いついて。
「駄目じゃん逃げたら。最初に襲ってきたのは君だぜ」
『……ッ!』
試しに左手で触れようとして……またも触れられない。
これも先程までと同じものなのだろうと、私はゆっくりと息を吐いた後、
「イタダキマス」
心臓を喰らった。
『『死生骸 ソウマ』が討伐されました』
『MVP選定中……参加プレイヤー数1人。MVPを選出しました』
『MVP:プレイヤー名『イヴ』』
『MVP特典として、スキル取得用の特殊アイテムが付与されました』
『行動経験値が一定量貯まりました。スキル【魂喰い】Lv1を獲得しました』
ログが流れると同時、私のすぐ近くに光の扉が出現すると共に。
「申し訳ありません!今回も仕様変更の案内です!」
「どわぁ!?ってなんだバストか……いやまぁ理由は分かってるけどね」
「お話が早くてありがとうございます!」
バストが前と同じように出現した。
理由は分かり切っている。運営としても、今回私が行ったソウマの倒し方は想定外だったのだろう。
【ヒットボックス拡張】というスキルの挙動がおかしいのだとは分かっていた。通常触れられないモノを触れる事が出来る、なんて事はヒットボックスが拡張された所で起こりえないのだから。
「既に【ヒットボックス拡張】については修正を行っております!」
「ちなみに何で今回のバグ?みたいなのが見つかってなかったのか聞いても良い?」
「えぇ!単に検証不足です!【ヒットボックス拡張】は所謂レアスキルに属するもので、プレイヤーの全体の経験値取得量を見ても、獲得されるのはもう少し後だと予想されていました!なので、検証などを最低限、動作は問題なく行える状態にして実装という形を取っていたのですが……」
「あぁーうん、成程ね。私が予想外だった訳だ」
「そうなります!申し訳ございません!」
運営の人も大変なのだろうとは思う。
だからこそ、別に文句を言うつもりは一切ない。この攻略法が出来なかった所で、倒す方法自体は……恐らくあったのだろうし。
「ソウマって元々どういう流れで倒すのが正規ルートだったかだけ教えてもらっても良いかな?」
「はい、勿論!元々は村の方に聖水などといった聖別されたアイテム、銀を元として作られた道具などが配置されていますので、それらをソウマの外殻……身体を破壊した後、心臓部に向かって使用するのが運営の考えていた正道となります!」
「成程……うん、理解した。ありがとう」
そして、バストから聞けた正規での倒し方。
そこから分かるのはただ1つ。私の探索が非常に雑だった、という事実だけだった。
「ではでは!今回も報告だけですので失礼致します!」
「はーい、バストも元気でねー」
「ありがとうございます!では!」
消えていくバストを見送った後、私は一つ息を吐き。
この後の事を考える事にしたのだった。





