Episode5 - 新しい力、新しい問題点
現状、経験値自体は余りに余っている。
マーテル戦後、【多産】周りのスキルを獲得、強化するのに多少は使ったが、その後のクナト戦の経験値などが入ってきているからだ。
スキルの獲得ウィンドウを何となく眺めながら、どうしようかと決めあぐねていると、
「お?」
目当てのスキルを探す為の検索欄。
そこにフィルター機能があることに気が付いた。
特定カテゴリに属するスキルだけを表示させたり、自身の持つスキルに関係するスキルのみにする事も出来たりと、何故今まで使ってこなかったのかと後悔するレベルで便利な機能だ。
試しに、持っている最大経験値で獲得出来るスキルは無いかと確認してみれば。
「うぉ、レアっぽいスキルばっかり」
名前だけでは効果の分からないスキルばかりが表示されたのだった。
……あ、これ人間用のスキルも一緒に表示されてら。【光剣顕現】ってスキル何それ?
何やら勇者が使いそうなスキルなども表示されているものの。
それらについては一旦置いておいて。私は1つのスキルの名前に目を付けた。
「何この【ヒットボックス拡張】って。ご丁寧に腕やら足やら指定出来るみたいだし……名前だけ見るならデメリットしか無いようにしか……いや?」
そこまで言って思い当たる。
スキルというのは、デメリットもあるだろうが保有者に対してメリットを齎すモノ。
今回で言うのであれば……その名の通り、ヒットボックスが大きくなる……純粋に、目に見えないものの身体の大きさが大きくなる様なモノ。
もしも私が考えている通りならば。思いついた通りの仕様ならば……私にとって、かなり有用なスキルなのではないか?
「……一旦、スキルの削除の方法だけ調べるか……」
私はゲーム内のトピックスを開き、不要なスキルを削除する方法を調べてみる。
人間側ならば、国にある教会にて。モンスター側ならば、同種、下位種のモンスターから得られる素材を一定数使い作成したアイテムを使う事で削除出来る様だ。勿論、課金する事でそれ専用のアイテムを買う事も出来るとの事。
……おっけおっけ。もし私の予想通りじゃあなかったら消せばいいだけ。幸いまたダンジョンの中で屍人喰いを発生させればアイテムは作れるだろうし。
【ヒットボックス拡張】を獲得するのに必要な経験値量は何と30000。
普通のスキルならば30個は獲得出来る量であり、それだけ希少なスキルであると言えるのだろう。
だが、今の私ならば払えてしまう。
「あ、次いでに【狂気耐性】も取っとこう」
『経験値31000を消費して【ヒットボックス拡張:右腕】、【狂気耐性】を獲得しました』
瞬間、私は身体のバランスがおかしくなった事に気が付いた。
不自然に右腕だけが重いのだ。とは言え、それもそれで多少程度。違和感がある、と気が付く事は出来るがどれ程重くなっているのかは分からない。
「……ちょっと試すか」
丁度、幾ら数を減らしても時間が経てば補充される非常食が居るのだ。
スキルの効果を試すにはもってこいだろう。
―――――
結論から言おう。
【ヒットボックス拡張】は私の考えた通りのスキルであるものの、扱いが難しいスキルでもある。
「【大食漢】あって良かったよ本当に……」
今しがた倒したゴブリンを喰らい、失ったHPを一時的に補いながら考える。
確かに、私の右腕の当たり判定は大きくなった。大きさにして凡そ一回り、長さにすると大体30センチ程度ではあるが拡張されていたのだ。
ここまでは私が考えた通り。若干思い描いていた長さよりは短いものの、ここはレベルが上がれば伸びていくだろう。
しかしながら、考えていた以上に当たり判定の大きくなった右腕の扱い方が難しかったのだ。
「私にもどれくらい大きくなってるのか分からないから、今まで通りに殴ろうとすると明後日の方向殴っちゃう……しかも相手は相手で匂いか何かで分かってるっぽいから噛み付いてくるし……」
それに加え、当たり判定が大きくなっているが故に。
見えない腕の範囲を攻撃されればちゃんと元の腕にも傷が付く。喰われればその分肉が持っていかれるし、何なら見えない所為で自分の左腕や足で行った攻撃に巻き込まれてしまう事もあった。
今の所、デメリットがメリットを凌駕していると言っても過言ではない。希少で大量の経験値を注ぎ込み獲得したスキルではあるが……失敗したと言っても良いだろう。
だが、私には削除するつもりは一切なかった。
「勿体ないとかじゃなく、単純に……扱い方さえ慣れれば十二分に使えるスキルだよコレ」
そう考える理由は1つ。
私が持つ【口腔生成】によって、【ヒットボックス拡張】で拡張された部分に口を作り出すと……仕様なのかは分からないが、見えない口が生成されるのだ。
私の最大の武器である口が、見えない状態でそこにある。
当然、内側……拡張された当たり判定の内にある元の腕に生成すれば見える形で生成されてしまう。だが、だからこそ。思った位置に生成出来るからこそ、この【ヒットボックス拡張】というスキルは面白く強い挙動をしてくれる。
「見えないってのは、距離感を誤認させるって意味合いだけじゃなく……奇襲的な意味でも十二分に役立ってくれる。これは明確な強みだね本当に」
その後、私はなけなしの経験値を全て使い幾つかのスキルのレベルアップを行ってから、その日はログアウトした。
とりあえず、次の短期目標は……更なる石板を集める事。
そして長期の目標として、【ヒットボックス拡張】に慣れながらレベルを上げる事にしよう。





