Episode2 - 襲来
出迎える準備、というよりは。
私が戦う前の様な準備運動を始めたのを見て、フレデリカは困惑した表情を浮かべた。
どう見ても知り合いを歓迎するような雰囲気ではなかったからだろう。
だが、当然の準備でもある。
……十中八九そうだろうけど、知り合いじゃない可能性もあるしねー。
私達が居るこの遺跡には、別に入場者を制限出来るような機能は無い。
言ってしまえば、私達はそこらの洞窟などに棲み付いた野生動物と変わりないのだ。
「さて、と……フレデリカちゃんは下がって」
「は、はいはい!」
足音の主は既に扉の前まで辿り着いている。
まるで、私の準備が出来るのを待っていたかの様に。
ゆっくりと鉄の扉が開いていくと共に、
「ッ」
僅かな隙間から飛来した弓矢、その風切り音と弓の弦がしなった音に反応して身体を逸らす。
射られてから避けるなんて事は普通出来ない。私にそこまでの敏捷性は無いからだ。
だが、発射方向が限られており、連続して射られていないのであれば……十二分に、予測と音だけで避けられる。
……容赦ないなぁ!?
扉の先、矢を射った何者かはすぐさま次の行動を開始した。
煙玉と思われる、白い煙が出る球を数個、私達の居る部屋の中に投げ込んできたのだ。みるみるうちに白に染まっていく視界。
それと共に、部屋の中へと入ってくる音も聞こえている。迷いの無い動き方からして、何かしらのスキルでこちらの位置を把握しているか、煙自体を無効化しているのかもしれない。
「……」
とは言え、私も【聞き耳】によって相手の位置は分かっている。
その場でじっと動かず、耳だけを頼りに相手の位置を把握して。ゆっくりと音を立てないように、矢をつがえているのまで理解して。
私が認識出来ていないと、自らが見つかっていないと一瞬だけ緊張の糸が緩んだその瞬間。
「――ッ?!」
「捕まえたッ」
私は足に力を込め、一気に侵入者へと向かって跳躍し両手首を掴み取り。悪いとは思いつつ、流れで足を払う事で体勢を崩しそのまま両手を後ろに、俯せの状態になるように地面に押し付けて拘束完了だ。
少しして白い煙が収まってくると、侵入者の姿や顔が見えてくる。
目立つ赤いフードに、白いボディス。動きやすくする為なのかショートパンツを履いたその姿は……ちょっとした赤ずきんのようで。
紛れもなく、私の知り合いがリアルで伝えてきたアバターの様相そのものだった。
「はーい負け負け!いきなり撃ってごめんって!」
「あは、やるのはやられる覚悟がある奴だけの特権なんだよ……えーっと」
「あー、今回はロートって名前だからよろしく!」
「はいはい、ロートちゃんね」
会話をしながら彼女の拘束を解き、上から退いていく。
人間の、成人した女性アバターである彼女は、その場で立ち上がりながら周囲を見渡して軽く息を吐く。
どうやら他に襲ってくる者が居ないのを確認して安堵したのだろう。
「ほら、フレデリカちゃん。おいで、紹介するよ」
「えっとえっと……初めまして、フレデリカです。モンスターのプレイヤー……なんですが、イヴさん?」
「ん、どうしたの?」
「この人この人、人間ですよね?大丈夫ですか?」
部屋の隅で一連の流れを見守っていたフレデリカが、こちらへと近付きつつも私の陰に隠れるようにして自己紹介をした。
彼女の疑問は尤もだ。このゲームにおいて、モンスターと人間は敵対関係。出会えば即戦闘……なんてのが当たり前。PvP要素だと言って、狩って狩られを日々繰り返している様なプレイヤーも居るくらいなのだから。
だが、目の前のロートは少しだけ事情が異なっている。
「私はロート、よろしくね。そして人間とモンスターの関係についてだけど……まぁ別に、私はNPCじゃないからね!仲良く出来るなら誰とだって仲良くした方が愉しいでしょ?」
「こういう子なんだよ、ロートちゃん。なんか色々VRMMOとかやってる内にこうなったみたい」
「へ、へぇへぇ……」
そう、ただただプレイヤーと仲良く……フレンドリーに接する事だけをメインに考えているのが目の前の女なのだ。故に、ゲームの設定的に敵対してようがお構いなく、こちらが敵対行動を示さなければ基本的には攻撃もしないし、友好的に接してくれる。
先程の一連の流れも、私がリアルの方で人間側の……それこそロートの実力がどれ程のモノなのかを確かめたくてお願いしたもの。ほぼ二つ返事で了承された時は提案した私も少しは驚いたが。
「で、今回イヴは私にお願いっていうか……見せたいものがあるんだっけ?」
「うん、まぁこれなんだけど……気を付けて。触っても良いけど自己責任で」
「了解!とりゃ!」
「すぐ触ったね!?分かってる?!本当に私が言った注意の意味分かってた?!」
ロートの前に集めておいた石板をフレデリカと共に並べると。
私の警告を無視して、彼女はすぐにその石板に触れてしまった。





