Episode12 - VS『貪食蜘 クナト』1
クナトの身体構造は、基本的に家などで見る類の蜘蛛に良く似ている。
タランチュラの様ではないし、モンスター特有の異形な部位も存在しない。
今は湿地の泥によって思う様に動けなくなっているものの、ある程度学習したら糸などを周囲の木々に放出し動き回る様になるかもしれない。
「フレデリカちゃん、それじゃあ中でやった通りに」
「了解了解です!」
だから、まずはそれを潰す。
蜘蛛が糸を出すのは、基本的に腹部から。その腹部をガッチガチに固めてしまえば、蜘蛛が蜘蛛たる所以を1つ潰す事が出来る。
フレデリカは私の合図と共に、頭部を含めたその身体を大きく網状に広げた。
彼女の身体はその保有スキルから、私よりも物理攻撃に強く柔軟だ。細く長いクナトの足から身体を土の網が独りでに伝い、腹部まで辿り着くと、
「おりゃりゃ!」
『?!』
その全体を覆うようにして、身体の形状を更に変化させる。
糸が、その元となる体液が外へと漏れぬ様に蓋をする形にだ。
……うんうん、やっぱり居てくれて助かった。
ノームというモンスターの特徴は詳しくは知らない。
しかし、周囲の泥を吸収しながら身体の体積を増やしているのを見るに……やはり外に出てきたのは正解だったのだろう。
遺跡の中では限界のあった拘束も、今はある程度の体積を残した状態で出来ている。
だが、まだ完全じゃない。
「次は足!全部じゃなくて良いから、どっちか半分を動けない様に……ッ!」
「――ッ!!」
「だ、大丈夫ですか!大丈夫ですか!?」
「っぶなぁ……大丈夫!掠ってすらない!」
次に、近付く場合に危険になる足を拘束してもらおうと指示を出した所で、クナトが私に向けて紫色の体液を吐き掛けてきた。
真正面、それも中々速度が速かったものの。
それくらいならば、見てから避けるくらいは余裕で出来る。
……うわ、あの体液絶対毒じゃん。当たった木がじゅうじゅういってるよ。
どうやらしっかり相手を溶かす為の毒も持ち合わせていたらしく。
但し、それを使うのが私達からすれば大いに遅すぎた。
追いかけて来ている時に使われていれば、今頃は2人ともクナトの腹の中だっただろうに。
「よしよし、拘束完了です!もう使える身体が残ってないので、私は攻撃出来ませんけど!」
「ありがとう!そのままゆっくりしてて!それじゃあここからは……私の番だ」
フレデリカの声と共に、私は一歩前に出る。
目の前には、土の網によって身体の大部分を拘束された、身動きの取れない巨大な蜘蛛。
対して私は、特にダメージも負っておらず。
今も何処かにいる配下によって、『敏捷力強化』を共有されている状態だ。
マーテルの時の様な、ダメージ転移のようなものはない。それがあったなら、もっと蜘蛛型のモンスターが襲って来ていてもおかしくないから。
だからこそ、私は拘束されている側の側面へと向かって駆け出した。
「徒手空拳しか出来ないからさぁ!ちょっと色々試させてもらうぜ!」
狙うは頭部、ではなく。
フレデリカによって拘束されている足の一本だ。
当然の話として、狙うならば急所であろう頭部を狙った方が絶対に良い。だが、今回の場合は少しだけ違う。相手が頭部から毒を吐いて来るからだ。
故に足。鋭く、細く、そして巨大。
だからこそ、使える。
「はは、私はさ。意外と蟹の足を食べるのが好きでね?行儀は悪いんだけど、蟹から足を捥ぎ取って、殻を剥いて食べるんだ」
「えっと、えっと…….何の話です?」
「食事の話さ、大事な事柄だぜ?――話を戻そう」
フレデリカによって動けなくなっている1本の足の近くに寄ってきた私に対し、クナトが何とか毒を当てようと身体を捻ろうとしているものの。
堅い拘束と、身体の構造上の問題で口からだらだらと地面に垂れ流すことしかできていなかった。
その様子を見て頬が更に緩むのを感じながら、私はゆっくりと足に両手を添えて、
「ほら、例えばこうやって――捥ぐんだよッ!」
『行動経験値が一定量貯まりました。スキル【部位破壊】Lv1を獲得しました』
全身の筋肉を使う様に。身体の中に通っている骨をしっかりと芯として意識して。
背負い投げの要領で、クナトの足を掴み、背負う様に。
力づくで胴から足を1本捥ぎ取った。
『――!?!?』
「わわっ!?こ、拘束し直します!」
蜘蛛に痛覚があるかは知らない。
しかしながら、足を1本失ったクナトは緑色の体液を胴体から噴き出しながら大きく身体を震わせる。
ほぼほぼ反射に近い、身体から出力される上限を超えた力で震えたのだろう。フレデリカの拘束が一時的にではあるが、外れてしまっていた。
すぐさま拘束をし直そうと彼女が動き出すのに合わせ、私は今手に入れたばかりの武器の先端をクナトへと向ける。
そう……クナト自身の足を、だ。
「ふふっ、あはは!昔はこういうおっきい武器を使ってデッカいモンスターを討伐するってゲームがあったみたいだけど、確かにこれは……ワクワクする!」
確かな高揚感と共に、私はクナトの足を槍を扱う様にして。
力のまま、震えながらも拘束の緩んだ一瞬でこちらへと向き直したクナトの、その顔面へと突き出した。
『――?!』
一撃目。
狙いが甘く、クナトの足の重さにも慣れていなかったが為に、浅く。
『――ッ!!』
二撃目。
感覚で狙いを修正して、複数ある眼を1つ刺し潰し。
『――ャァッ!』
三撃目。
既に扱いに慣れ始め、口の中へと突き入れて。
瞬間、私が足を持つ右腕へと紫色の液体が飛来した。クナトが放った毒液だ。
既にゲーム内の設定で痛覚自体は切っているものの、腕が溶けていくという感覚は……腕全体の感覚が泡が割れる様に消えていくのは、中々に堪えるものがある。だが。
……ここまで来たら……もう関係ない。
視界の下に表示されている、クナトの残存HPは、未だ5割。
足を1本、眼を複数失い、口の中もずたずたになって尚、まだ5割。
しかしながら、もう5割だ。
私に毒液を放ったのが見えたのか、クナトの口を塞ぐ様にフレデリカは再度、身体全体を拘束していくのが目に見えた。





