Episode11 - 駆け抜けた先
蜘蛛は完全に私達を餌と見たのか、延々と追いかけ続けてくる。
道中、他の虫モンスターがこちらへと襲いかかってこようとしたものの、私達の速度には追い付けず、そのまま蜘蛛に轢き殺されていた。
……流石に遺跡の中で戦うのは分が悪過ぎる……!
何が悪いって、今も背後からはクナトが追いかけて来る音と共に、遺跡が崩れる音がしているのだ。
恐らくは、クナトが鉄の扉を無理矢理吹き飛ばしながら出てきた時から、遺跡の崩壊が始まっていたのだろう。
それに加え、私達を暴れながら追いかけてきているのだ。そりゃあ遺跡も崩れるものだ。
「い、イヴさんイヴさん」
「何かなフレデリカちゃん、今お姉さんは入り口までの道を思い出しながら走ってるけど!」
「――私の事、置いていってください」
「……」
彼女の特徴である、2度同じ言葉を繰り返す事もなく。
真剣な口調で、背中から私に声が掛けられた。
「ここで置いていかれても、別に気にしませんし……1回デスペナになるだけです。それに私を背負ってるから、イヴさんの速度落ちてますよね。だったら……」
「フレデリカちゃん」
フレデリカがこれ以上何かを言う前に遮って。
しっかりと彼女の柔らかい身体を担ぎ直してから。
「絶対置いてかないし、邪魔にもなってない。君がいるからこそ、私はあの蜘蛛に勝てると思ってるんだ」
「……ッ」
本当の事だ。
私1人では、恐らくクナトに勝つのは難しい。これは私の力が足りないというよりも……相性の問題だ。
そして、その問題を焦点に話をするならば、フレデリカという存在は、ここで切り離す事は出来ないほどに大きい。
「それにこのゲームのデスペナはキッツイよ?なった事ある?」
「な、ないです」
「なら、ならない方が絶対良いね。特に君みたいな女の子がなる必要は一切ないさ」
駆ける。
私の目的地である、遺跡の入り口へ……配下が今も暴れている場所を目指して駆ける。
時たま、私の目の前に瓦礫が落ちて来るものの、何とか避けて。
背後から迫る巨大な蜘蛛に追いつかれないギリギリの速度で、駆け抜けて。
「ゴォォール!」
遺跡の外へと飛び出した。
背後からは今も尚……ダンジョンから出たにも関わらず、その主は追ってきている。
……ま、これくらいで止まらないってよりは。ボスがダンジョンの外に出れない訳じゃないのは知ってたさ。私だってそっち側だからね、今は。
ダンジョンの支配権を持った者であるが故に分かる事は今は置いておいて。
助かったと勘違いして、背中から降り息を吐いているフレデリカに対して、
「ほら、フレデリカちゃん。ここからが私達の攻略の本番だぜ?」
「えっえっ」
「ほぉら来た!」
『――ッ!!!』
遺跡を壊すのを躊躇ったのか。湿地という、虫モンスターからすると死地である場所に出たくは無かったのか。
それとも、今さら私達を諦めかけていたのか。
蜘蛛の考えは分からない。しかしながら、私達が外に出てから数秒遅れて……クナトは入り口すらも壊しながら外へと出てきた。
そしてそのまま真っすぐと、入り口からは少し離れた位置に移動していた私達の元へと向かってこようとして……その勢いがぐんと落ちる。
「フレデリカちゃんが言ってた、遺跡の中のモンスターが外に出ると動けなくなるっていうアレ。ちょっと違和感があったんだよ。だって別に湿地にも虫は存在するし、虫だって泥の中を生きる事は可能なんだ」
クナトは藻掻く。その巨大な8本の足で前へと進もうとして……不自然に泥が纏わりついて動きが止まる。
考える能力は低いのだろう。それが理解出来ないのだろう。クナトは端から見れば必至にこちらへと向かって移動しようとして、泥に……湿地というフィールドによって前へと移動出来なくなっていた。
「だからこそ、仮説を立てた。もしも、この湿地自体が特殊な……そう、ゲームにはありがちの、特有の種族には強烈なデバフが掛かってしまうフィールドなのだとしたら?それが偶然、虫達だったとしたら?」
「だったらだったら……どうなるんです?」
何かを我慢するような、先程自らを置いていけと言ったとは思えない程に明るくなった声で問われれば。
私はにっこりと笑って、こう答えるしかないだろう。
「そりゃあ、こうなる。こうなった。こうなるように誘導した」
クナトは自身の得意なフィールドを捨てて、追いかけた結果……自身に不利しかないフィールドに辿り着いた。
ここには蜘蛛の糸が欠片も存在せず、増援も自身が遺跡を崩しながら進んでしまった所為で登場しない。
代わりに、こちらはと言えば。
湿地での探索に慣れた、湿地がスタート地点であるプレイヤーに加え。そのプレイヤーの配下である人喰いが1体。どこまでネズミを狩りに行ってしまったかは分からないが、近くに居る事自体は分かっているし、時折【捕食】によるバフが流れてきている。
だが、ここまでお膳立てしても勝負は五分だ。単純な力の出力が違い過ぎるが為に、動けなくなっているクナトの、ちょっとした身動ぎだけでダメージを受けかねない。
だからこそ、故にこそ。
「フレデリカちゃん、君がいるからこそって理由……分かってくれたかな?」
「……ッ!成程成程!わっかりました!やってやりますよ!」
随分前にボス戦開始のログが流れたが……私達にとってはここからがボス戦。
クナト討伐戦が今、やっと始まった。





