Episode7 - 思い立ったが過ぎた
「おっ、草原っぽくなってきた。ここロレリアで合ってたんだ」
自身の周囲に各種ウィンドウを出現させながら歩いていると。
周りの景色がいつの間にか少しずつ変わっていっている事に気が付いた。
湿地特有の、足を取られる泥っぽい地面は少なくなり。背の低い、青々とした草が生い茂る開けたフィールドが目に入ったのだ。
「って事は、さっきの2人はロレリアのプレイヤーかな。……勢いでやっちゃったけど、名前は知られてない訳だし……多分大丈夫か」
人の味が知りたい。どの程度の実力を持っているのか知りたい。
そんな欲求が先行し、軽率に戦闘を仕掛けてしまったものの……今考えれば、本当に軽率だったと反省するしかない。
どう考えても対話を選択すればある程度人間側の情報が手に入っただろうし、何なら保存食なんかを持っていたかもしれないのだから。
……ゴブリン達よりも味が薄いって中々だけど、多分理由があるんだろうなぁ。
だが、何も反省する事ばかりではない。
例えば、【カニバリズム】の効果は人の肉を食べ続ければ重複する事が分かったのは戦闘したが故の収穫だ。
「マーテル戦後のバストみたいに、誰も来なかったしメッセージも送られてきてないって事は……バグとかじゃなく、正しい挙動って事だもんね」
正しい効果時間は測れていないものの、全ステータスの強化が重複するのは本当に強い。
デメリットとして『視野狭窄』……恐らくは、戦闘中の私の様に相手以外が視界に入らなくなるデバフが入ってしまうが……それにしたって、そもそも複数の人間と戦うつもりが今はない為に問題ない。
人喰いとなってから機能させる事が出来ていなかったスキルであるが、中々使い勝手が良い強いスキルであった事に安堵していた。
「さて、と。ここがロレリアの……まぁ何処なのかは分かってないけど。でもロレリアってのは分かった訳だ」
さて、改めて現状と私の目的を確認しよう。
現状として、私の背後には慣れ親しんだ湿地の入り口が。そして目の前には見晴らしのいい草原が広がっている。ここから進んでいけば、首都に着くかは分からないが、ロレリアに所属する街か何かには辿り着ける……と思う。多分。
そして、私がここまで進んできた目的。それは、
「他のエリアが見たかった、人の食事をそろそろ体験したかったの2つ。他のエリアはこうして見れたし、人の食事は……人を食したっちゃ食したか」
あまり確固とした理由はない。
単純に、ゲームなのだからとずっと同じ場所に居る必要もないと考え行動しているだけだ。
故に、ここから先に進んでも良いし、進まず一度ダンジョンの様子を見に戻ったって良い。
……んー……結局さっきのあの遺跡の中、確かめられてないんだよね。
この先に進む事で得られるかもしれないメリットは明確だ。
人が住んでいる。戦闘になろうがならまいが、私にとってはどちらにしても食べ物にありつける為にメリットがあると言えるだろう。
そして戻る事で得られるメリットは……現状は分からない。
探索出来ていない遺跡が1つあるだけで、その中には何もないかもしれないし……マーテルの様なボスが居なければ、本当にただのフレーバー的建造物を探索しただけになるかもしれない。
「……ん、おっけ。決めた。戻ろう」
少し考え、私は戻る事にした。
ここに関しても明確に何か理由がある訳ではない。
草原に至る道は覚える事が出来たし、ここから先にはいつだって行ける。
……でも、もしあの遺跡がダンジョンだったら……中に居るボスはいつまでもそこに居るわけじゃあないもんね。
ただそれだけの事だ。
昔、誰が言ったかは忘れたが……MMOはユーザー同士で限りあるリソースを使って無限の資産を稼ぎ合うゲームだと教えられた。
確かに草原の先にも、私の資産になる何かはあるだろう。
「でも、今しか稼げないものってのは確実にあるもんね。今回は遺跡がそれだったってだけで」
湿地は別に、私専用のエリアという訳ではない。
私が出会っていないだけで、他にもモンスターアバターのプレイヤーが存在しているだろう。
故に、早い者勝ち。あの遺跡を1番最初に奥まで探索した者しか得られない何かがある可能性に賭けるのだ。
それに……気になった事を優先した方が絶対に後々良い事があると私は思う。
「何もなかったら……それこそ、そのまままたここに戻ってくれば良いだけだしなぁ。じゃあここまで来るなよって話ではあったんだけど。それもそれで、時間を使って道のりを得たって事で」
背中側へと振り返り、一度草原を後にした。
この選択が良いものだったか、それとも悪いものだったかは今の私には分からない。
だが、まぁ。自分が後悔しないのであれば、何だって良いのだ。これは私がプレイしているのだから。





