Episode4 - 新たな味
ネズミの行動は早かった。
私と人喰い、その2人が敵である事を理解したと同時、目の前に居る私の首へと鋭い歯を突き立てる為に跳びかかってきたからだ。
ゲームを始めた当初であれば、避けるのが難しく致命傷を喰らっていたであろう一撃。
巨大な身体から発せられた運動エネルギーによって、その速度は全速力で駆けてくる犬よりも速いだろう。
しかしながら、
「うん、戦闘に慣れちゃってるとこんなもんだよね」
出会うのが遅かった。これに限る。
耳に聞こえる風を切る音。そしてこれまでの戦闘経験から、身体を半歩分だけ横にずらす事でネズミの一撃を躱し。
その巨体が横を通り過ぎようとした瞬間に、毛を掴み地面へと叩きつけた。
「ヂュァッ!?」
「今の私を焦らせる事が出来たら大したもんだよ。それこそオーガとか連れてきてくれないと」
ゴブリン相手ならば既に【口腔生成】で手に口を生成し身体を喰らっていただろう。
だが、今回の場合は相手がどのようなモンスターかを理解出来ていない。今の所で言うならば、ただ大きい野生生物に襲われた程度のモノだ。相手に毒があるかも分かっていない。
……とは言っても……。
私の手から逃げようと暴れるネズミを、無理矢理に抑えつけながら視線を配下の方へと向ける。
そこには……先程とは打って変わり、私の様にネズミを圧倒している配下の姿があった。
「私っぽい動き方してるね……成長、というよりは主人の行動ログでも参照してるのかな」
「ぁー……あッ!」
蹴りに始まり、全力で……しかしながら変な方向に吹き飛ばない様にと地面に叩きつける様に殴り降ろす姿。
いつの間にか復帰していたもう1体も配下への攻撃に参加しているものの、軽く跳躍しその背に着地する事で無力化している。
下手をすれば、私よりも身体の使い方が上手いかもしれない。
「マーテルはこういうのを狙ってた、って事なのかなぁ……配下を成長させて、軍隊にして一気に周りを攻めていく、みたいな。尚更早めに倒せて良かった感じだね」
配下は2体共に無力化し終えると共に、その内の1体の身体へと大きく口を広げ……かぶりつく。
『【バフチェイン】によりバフが共有されます。バフ『敏捷力強化』が付与されました』
共有している【捕食】が発動すると同時、私の身体にも強化が入る。
だが、確かめたいのはそこではなく……毒がないかどうか。暫く配下がネズミを食べ進めるのをじっと見つめ、急ぎ食べ過ぎて喉に詰まらせる以外に苦しそうな様子は無いのを確認してから。
「よし、それじゃあお待たせ。――イタダキマス」
「ヂュッ、ヂュァア……!」
「煩い煩い。もう食べられるしかないんだから騒いだって無駄だよ」
大きく口を開き、ネズミの背の部分……毛などは一切抜かず。そのままの身へと歯を立てる。
現実では絶対に出来ない行動ではあるが、ここはゲーム。それに私は今は人間ではないのだ。これくらいのワイルドさはあって良いだろう。
ゴブリンに比べ柔らかい皮、肉を歯で貫き……噛み千切る。
「おや、意外と肉らしい肉の味はしないもんだね。何というか……淡泊?あっさりしてる」
生で、それもそのまま食べているからだろう。獣臭さや血生臭さはどうしても排除する事は出来ないが、思っていたよりもその味は美味い。
流石に他の臭いや味が強すぎて細かい味……脂なんかはどうなのかは分からないものの。それでもこれまでの主食がゴブリンだった私からすれば十二分に御馳走だ。
1口、2口と続き、顔中を血でべったべたにしながらも夢中で食べ進めていけば……ネズミの身体は光の粒子となって消えてしまった。
「ふぅー……ゴチソウサマ。次はしっかり血抜きとか毛抜きとかの下処理をした上で食べたいものだね」
食事に夢中になってしまったが、ネズミの凡その脅威度自体は理解出来た。
ゴブリン以上、オーガ以下程度のモノで、そこまで強くはない。私ならば3、4体……10体以下ならば1人で対処出来るだろう。
……ネズミの名前は……スワンプラット。ゴブリン達と似たような感じだね。……流石にこれもダンジョンのボスが産んでるとかは……ない、よねぇ?
一瞬良くない想像をしてしまったが、流石に無いと首を横に振り。
私は未だに残ったネズミを食べている配下を無理矢理引き剥がすと、更に奥へ……元々進んでいた方向へと足を進める事にした。
「そういえば、こっちに本当に人の住んでる街があるかどうかなんて知らないんだよなぁ……あると、いいなぁ……」
人が住んでいなかったとしても何かしらの収穫はある。
街以外でも私にとっては収穫なのだ。それこそ、新エリアでも遺跡でも、だ。
最悪の場合は……私にこのゲームを教えてくれた喫茶店に務める従業員にリアルで助けを求めれば良いだろう。
……人間と会わない事には色々と不都合あるからなぁ。
見ただけで攻撃されるかどうかは兎も角として、今の私はほぼ原始人に近い。いや、原始人よりも野生動物に近い生活をしているだろう。
そこから脱却するには、どうしても人が作った道具が必要だ。
皮などを剥ぎ取るナイフや、灯り。それに加え、
「食べたいよねぇ、人の食事って奴。こんな種族だから人を食べたって良いけど。どんな味がするか楽しみだ」
食文化。これは外せない。
様々なモノを食べる為にこのゲームをモンスターで始めたのだ。出来る限り食欲に正直に行動していく事にしよう。





