Episode17 - 終わった後で
1章終了
マーテルを食べ終わった後。
私はボス戦を行った部屋の中、1人食後の息を吐いていた。
「ふぅ……結構な満腹感。デザートを沢山食べても太る心配がないのはゲームの中だからこそ、だよねぇ」
正直、結構危ない橋を渡ったとは思う。
現状の私……どころか、そもそもマーテルというボス自体がソロで攻略するべきボスではなかっただろうし。普通ならば、何人かで産み落とされるゴブリンを倒しながら、ある程度の実力を持ったプレイヤーがオーガを延々相手取るくらいのスローペースな攻略になるのではないだろうか。
それを色々とすっとばして、勝って私は今ここに居る。
マーテル戦という、ある種大きなイベントが終わったからか私の周囲には見た事がないウィンドウが4枚ほど出現しているが……今はとりあえず余韻に浸っていて良いだろう。
「とは言え……出来るとは思ったけど実際出来ちゃったなぁ、延々に噛みつきダメージを与えるやつ」
「えぇ、本当に!今回は出来ちゃったので問題ありませんがすぐに修正致しましたよ!」
「ッ!?」
突如、私以外の声が部屋の中に響き渡った。
警戒度をマックスまで上げ、その場から跳び退きつつ拳を構え声のした方向を見てみれば、
「……あれ?バスト?」
「はい!覚えていていただき誠に感謝致します!今回はイヴ様にお知らせしなければならない事がございまして、こうしてお会いに来させて頂きました!」
「へぇ?」
そこには、私のアバターチュートリアルを担当した2本足で立つでっぷりとした猫型のAIが居た。
何かをやってしまったか、と考えを巡らせて……つい直前に私自身が口にした発言の事を思い出す。
「……あ、もしかしてあの噛みつきダメージって」
「はい!所謂『運営の想定していない挙動』というモノですね!なので、既に修正され今後は同じ様なダメージの与え方は出来なくなりました!」
「あちゃちゃ、ごめんね面倒掛けて」
「いえいえ!こちらが把握していなかった方が悪い事柄でしたので!故に、今回の『悪母鬼 マーテル』戦に関してはロールバック等を行う事なく、戦利品等もそのまま。当事者であるイヴ様にはこういう事がありましたよ、と報告だけを行う形になりました!」
「おぉ、それは有難い」
正直、あの噛みつきの挙動は内心驚いてはいた。
理屈は分かるが、出来てしまってはゲームとしては結構致命的な挙動だったからだ。
……ただまぁ、この報告って表面的には穏やかな感じだけど……ある意味で脅しだよね。もう似たような事をやるなよ?っていう。
ゲーム内のメッセージで良い所を、わざわざAIに代弁させてまで報告してきているのだ。
それだけ、今回の事を重く見ているのかもしれない。
正直、私からすれば偶然出来てしまった事でしかないのだが……まぁ今後は気を付けられたら気を付ける事にしよう。
「では、私はこの辺りで失礼させて頂こうかと!」
「はーい、御苦労様~」
バストが消えていくのを見送ってから。
私はこれまでしっかりと確認してはいなかった、周囲のウィンドウに目を向けた。
マーテル戦が終わった後、幾つかのログが流れていたのは確認していたものの、
「えぇっと何々……?こっちはMVPに関するトピックスと、選択出来るスキルの一覧ね。なんか獲得出来るんだっけ?」
複数のウィンドウの内、3枚は今回のMVPとそれに付属するトピックス等だ。
経験値を消費せずにスキルを獲得出来る、というのは中々ありがたい為、後でしっかりと考えてから獲得する事にしよう。
だが、問題……というよりは。
私が気になるのは、残り1枚のウィンドウ。
そこに書かれていたのは……『ダンジョンの支配権の獲得及び確認について』という文言だった。
「ダンジョン、ねぇ。やっぱりこの遺跡ってそういう類の奴な訳だ」
そのウィンドウを読んでいくと様々な、私の知らなかった事実が確認出来た。
例えば、この遺跡の名称が『悪鬼の胎巣』という名前のダンジョンだったという事だったり。
例えば、モンスターアバターのプレイヤーがダンジョンを攻略すると、ダンジョンを乗っ取り新たなマイホームとして設定出来る事だったり。
例えば、ダンジョンを経営する事で自身が戦わずとも侵入者から経験値を得る事が出来るようになったり。
中々にプレイヤーに対するメリットが多い内容だ。
……ダンジョン経営には興味がないからほっとく事になるけど……それでも持ってるだけで十分メリットはあるなぁ。
これがその手のゲームに興味のあるプレイヤーだったら大喜びしたのだろう。
しかしながら、生憎とこのゲームを始めた時から興味があるのは食事とそれに関係する事柄のみ。とは言え、ダンジョンを経営すると言う事は、
「私専用の、モンスター牧場が作れるって事だよね。ここで」
モンスターを家畜の様に配置、育成出来るかどうかは分からないものの。
適当に徘徊させ、独自の生態系を作らせておけばたまにおやつ感覚でつまむ事も出来る……と思う。実際にやってみなければ分からないが。
「よし、ダンジョン支配権は獲得しとこう。後は……まぁ色々と考えつつ。暫くはゆっくりしていこうかな?」
ウィンドウの選択肢に是を返しつつ。
今後の目標でも考えようと、私はマーテルの居た場所で一度ログアウトする事にしたのだった。





